俺と弱い俺
考えても考えても辿り着く答えは「俺には出来ない」である。
授業の号令とともにどうするべきかという思考に入り、終わりの号令時にその結論に至る。
どういうルートをたどったとしても最終的にその着地地点に到達してしまう。
対策に時間を費やし気付けば放課後。
悟はだーっと走って部活へ向かい、それを見送ってから俺もゆっくりと帰路に着く。
「あぁ。そうだ。せっかくだし楓の様子でも見てくるか。状況が分かるだけでも変わるだろうしな」
体をクルッと反転させ楓のいる教室へ向かう。
楓の教室に到着したが堂々と入るほど俺のメンタルは強くないので教室の前でコソコソっと聞き耳を立てる。
別に盗み聞きをしているわけでもなければ、ストーカー行為を行っている訳でもない。
ただ教室の前に立っている。それだけだ……めちゃくちゃ俺怪しくね?
そんなアホみたいにしょうもないことを考えている中教室内からは女子の声が聞こえてきた。
「はぁ……あんさ、アタシの言葉理解出来てるわけ?」
「紗英。出来てるわけないっしょ! だから何度言っても治らないんだよ」
「ウケる! でも優香の言う通りかも。アタシの日本語が理解出来ないチンパンジーちゃんだから何度も何度も繰り返しちゃうわけか! 納得! 納得!」
「アンタさいつもそうやってぶりっ子して男を誘惑して恥ずかしくないわけ? そのせいでアタシの涼太もアンタになびいてるの。マジありえないから!」
ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。
女子怖。なに? 皆帰ったらクラス内でこんな言い争いしてるの?
もしかして俺も陰口とか言われてたりするのかな。
泣きたくなっちゃうね。
「別に……やりたくてやってるわけじゃないもん。男たちが勝手に近寄ってくるだけで楓は……楓は! 1人しか見てないから」
「なに? 涼太に魅力はないって言いたいわけ? あのさアタシの涼太に散々媚び売った上にそうやって叩き落としたりまでするんだ? どんだけアタシ達の邪魔すれば気が済むわけ? 確かにアンタは可愛いよ。それは認めてあげる。でもさ、ウザイから消えて?」
「確かにー! アタシも邪魔だってずーっと思ってたんだよねー。消しゴム投げても下駄箱にゴミぶち込んでも平気で学校来てぶりっ子かましてるもんねー。キモすぎるっしょ!」
「ちょっ、優香! それは秘密だから。まぁバラしてもいっか」
「今更っしょ」
「それもそうか。とにかくアタシたちはアンタのこと嫌いだから。少なくともウチのクラスの女子は全員アンタのこと嫌いなの。男子たちは鈍いからアンタのその胡散臭いぶりっ子に惑わされてるけど女子は騙されないから。消えてね」
「ハハハハ! 紗英言いすぎっしょ! 佐倉本当に死んじゃうよー」
「そしたら涼太はアタシにまたゾッコンだから……あ。アンタさ死ぬのは構わないけれど遺言にアタシ達のこと書かないでね。わかった?」
「なんならアタシたちがヤってあげちゃうっしょ!」
「確かにー。それあり!」
「「ギャハハハハハ」」
「ま。とにかくそういうことだから」
タンタンタンタンと足音がこちらに迫ってくる。
幼馴染があそこまで言われたのを聞いていたのに俺は立ち向かえない。
それどころかそそくさと柱に隠れてしまう始末だ。
「机の上に花瓶置くのとかおもしろくない?」
「それありっしょ。百合とか置いちゃう?」
「ギャハハハハハ。もうそれ死んじゃってるじゃん!」
最低だ。人間のクズだ。
そしてそれを聞いて、見ているのに何も出来ない俺もまた最低だ。
いじめっ子は楽しそうに会話をしながらどこかへ消えていった。
俺はそっと教室を覗く。
そこにはいつも笑顔の楓とはかけ離れたしゃがんで泣いている姿があった。
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