俺と幼馴染とノート
どうしたものかと考えていると何かで頭を叩かれる。
パシンっという出したくても出せないような素晴らしい音が響く。
流石に反応しないと辞書で叩かれかねないので振り向いた。
「おい。ノートで叩くのはやめろ。脳みそは普通に怖いから……って、悟じゃねぇーのかよ」
てっきり悟がぶん殴ったのかと思ったがそこにはノートを手に持った夏海が仁王立ちしていた。馬鹿力過ぎる。
「女子を待たせた挙句男子間違えるとか彼氏失格すぎじゃない?」
「まぁ、そう怒るなって。見た目までツンツンすることないだろ」
「はぁ?」
自分でも見えきった地雷を踏んだなと思い咳払いをして場をリセットする。
「とにかく帰るぞ」
「え。あ。うん」
急に舵を切ったからか夏海はアタフタしながらも俺が差し出した手をギュッと握った。
キャラが崩れると夏海らしくなくて調子狂うと思った時期もあったがやはりこういうデレッとした夏海の方が取り扱いやすいし可愛いからずっとこんな感じでいて欲しい。
特に頭を叩く美人とかダメでしょ。一昔前に流行った暴力系ヒロインかな。もう流行らないよ?
「アンタさ。今物凄く失礼なこと考えてたでしょ」
口では疑問形だが行動は素直だ。
足で思いっきり俺の右足を踏みつけ我が物顔をしている。
とりあえずマゾじゃないと夏海の相手は無理そうだな……少なくとも俺には無理だ。痛いのは嫌だもん。
「気の所為じゃないかな」
適当に誤魔化したが多分俺の顔は引き攣っていたと思う。
夏海が怖いのがいけないし仕方ないよね。
学校を出て家に向かう。
1歩、また1歩と歩く度に俺の心臓の鼓動はスピードをあげていく。
別に夏海と手を繋いでいるからでは無い。こんなもの今に始まったことでは無いので緊張のきの字もない。
緊張しているのはどうやって大人を頼れということを伝えるかがまだ決まっていないからである。
ストレートにぶつけるか変化球を投げて遠回しに伝えるか。正直どちらが正解なのか俺には見当もつかない。
悩んでいても家が遠ざかっていくとはないので別れる時間が迫ってくる。
俺の中で言わなくても良くないかという悪魔の囁きも聞こえ始めてくるが天使が夏海が心配だよと囁いてくれることで悪魔に乗っ取られずに済んでいる。
「あのさ……」
「ん?」
夏海は足を止めた。
夕日がバックで輝いており夏海のことを直視出来ないので表情をしっかりと確認出来ないが頬を赤らめているようにも見えた。ただ、夕焼けで頬が染まっているように見えただけかもしれないので真相は分からない。
確認をしようとしても眩しくて目を背けてしまう。
「ねぇ? どうした?」
夏海は「おーい、おーい」と訊ねてくる。
「あ。すまん。夏海に話がある」
「……何?」
いつものような鋭くトゲトゲした「何」ではなく優しくて柔らかい「何」だ。
それも相まって緊張がピークに達する。
唾を飲み込み思っていることを全て言葉にして伝える。
「もう大人に相談しよう。こんなの俺達にはどうしようも出来ない」
夏海は何も言わない。はいという肯定も嫌だという否定もしない。
ただ二人の間に静かでなんとも言えない空気だけが流れる。
「出来たらもうしてる」
夏海はその一言だけ残すと俺の手をパッと弾いて走り去っていった。
俺は選択を間違ってしまったらしい。
どうすれば良かったのだろうか。何が正解だったのだろうか。
後悔の念が押し寄せてくるが時すでに遅し。手遅れだ。
「くっそ……なんでこう人生上手くいかねぇーかな」
近くにあった石をアスファルトに思いっきり叩きつけて少しスッキリした俺は1人で家へと帰った。
いつもありがとうございます!
日間ジャンル別ランキング少し下がったの悔しいので投稿ペース今日だけ上げたいと思います。
バンバン投稿されますがお付き合いのよろしくお願いします!




