俺と俺の心
木曜日。
嬉しくもありまた憂鬱な日でもある。
後2日行けば休日になるという喜びと3日も学校に行ったのに今日もまた行かなければならないのかという疲労感が混ざりに混ざりとても言葉では言い表せないような感情に襲われる不思議な曜日だ。
そして俺は今黒板だけを見つめている。
理由は特にない。
強いて何かあげるとすれば何もしたくないから黒板を見つめていると答えるだろう。
つまる所全力で話しかけるなオーラを醸し出しているということだ。
このオーラが通用しない人間は一定数いる。
女王様基質を持ち合わせている人間。真の天然な人間。陽キャ過ぎて怖いものがない人間。
そして今、俺に話しかけてくる空気の読めないアホがいる。
「よぉ。裕貴! ついに見えちゃいけないもんでも見えるようになったか?」
肩をバシッと叩きながら笑い、しゃがむ。
特に用件は無いのだろう。暇だから遊びに来た。
そんな所ではないだろうか。
だから俺は無視をする。
「うぉーい! 裕貴くーん。ゆ う き くーん! 生きてまーすか?」
グラッグラ肩を揺すりながら反応を確かめてくる。
「あぁ。なんだよ。少しぐらいは空気を読め」
「空気なんてぶっ壊すためにあんだよ。野球する時にいちいち空気読んでたらパーフェクトゲームになっちゃうぜ」
白い歯を見せ、親指を立てているが全く何を言っているのか理解出来ない。
百歩譲って前半の『空気なんてぶっ壊すためにあんだよ』は理解してあげよう。ただ後半はマジで意味がわからん。
なぜ突然野球で例えてしまったのか。なぜパーフェクトゲームを例に出してしまったのか。まだ三振の方が分かりやすい。
「うわぁ。お前俺の言ったこと理解してないだろ」
ありえないみたいな顔して俺のことを責め立ててくる。
「いや……普通わかんねぇーから」
「え……ほんと?」
「ほんと」
頭を抱えているので本気でショックを受けているのだろう。
俺は気遣いのできる素晴らしい人間なので、ショックを受けている悟をそっとしておいてやろうと立ち上がった。
決して悟の対応が面倒臭いから逃げようと思ったわけじゃない。
目的地があるわけじゃないがとりあえず教室から出ようと思いドアへ歩くと突然教室に入ってきた人と正面衝突してしまう。
「あぁ……すみません」
百パーセント俺は悪くなかったが開口一番で謝るという癖が定着しており思わず謝ってしまう。
実際問題人生ペコペコ頭を下げておけばのらりくらりとやっていけるのだから不思議なものだ。
「チッ……邪魔なんだよ」
俺にぶつかった背が小さくて横が大きいメガネくんは俺に睨みを効かせ逃げるように踵を返す。
良く言えば典型的なオタク。悪く言えば目にも入れたくないような容姿。
「なんだアイツ」
態度の悪さに思わず言葉を漏らしてしまうと後ろから悟がガシッと掴んできた。
「アイツ……確か隣のクラスだったな」
「知り合い?」
「んなわけあるかよ。俺でも友達は選ぶぞ」
むふんと腕を組んで何か偉そうにしているがスルーしておく。
「ぶつかってきてあの態度はなくね?」
「あぁ。そうだな。でも、あれじゃね?」
「あれ?」
「ほら、教室間違えて恥ずかしくなっちゃったとか。陰キャくんっぽいし有り得る話でしょ」
「確かに……」
ムカムカしていた気持ちが今の一言でスーッと波のように引いていく。
やっぱ俺の心って寛大すぎるね。
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