俺と服
「思ったよりカッコよくてまともな感想が浮かんでこない……」
夏海は開口一番そんなことを口走る。
まるでカッコイイは褒め言葉じゃないみたいな言いぐさだが夏海の言葉にいちいちツッコミを入れていると夜になりそうなのでここは敢えて放置しておく。
「感性が分からん。俺的には似合わねぇーなとしか思わないけれど」
「うーん。やっぱりアンタはファッションセンスだけゼロなんだよね。今に始まったことじゃなんだけどさ」
やれやれと言わんばかりの表情をしながら当たり前のようにスマホで俺のことを写真に収める。
「なんで写真撮るんだよ。意味分かんないだろ」
「え。だって服比べる時記憶より記録に残した方が良いでしょ?」
「なるほど……それは一理あるかもしれない」
「でしょ。だからこうやって保存しておくの……はい。次はこっちの服ね」
夏海にチェック柄の上着にどこかの街の写真がプリントされたTシャツ、そして陽キャ御用達のダメージジーンズを渡される。
「出たよ。ダメージジーンズ」
あんなボロボロなズボンを履いて恥ずかしくないのかと罵倒していた俺がまさか履くことになるとはと思いながらカーテンを閉めて着替える。
ダメージジーンズを履いてみると分かるが俺にはやっぱり合わない。というか生理的に無理ってやつだ。
履くだけでゾワゾワっと鳥肌が立ってくる。
鏡を見てもダメージジーンズのダメージ加工部分にしか目がいかない。
ダサすぎて困っちゃう。
とりあえず着替え終わったのでカーテンを開ける。
すると待ってましたと言わんばかりに夏海はスマホを構え遠慮することなく写真を撮り始めた。
何かポージングでもして邪魔してやろうと思ったがそんなこと出来る勇気が俺にある訳もなく妄想だけに留めた。
「これがさっきので……えーっと……これが今のね」
夏海が近寄るなりスマホで写真を見せてくれる。
1回目のコーディネートと2回目のコーディネートを比較してくれるがぶっちゃけどっちもどっちだと思う。
もちろん良い意味ではなく悪い意味だ。
「アンタはどっちなの? どっちの方が似合うとかファッションセンスゴミでも少しぐらいは思うところあるでしょ」
とうとうゴミ呼ばわりされてしまった。
俺ってそんなにファッション無いのだろうか。『全力』Tシャツそんなにダメかな。
「どっちも好きじゃない」
「あぁ。アンタまだそんなこと言ってるの? ファッションセンスゴミ以下じゃん。良く生きて来れたね」
「そこまでかよ」
「じゃあ私の独断と偏見で決めるよ」
「好きにしろ」
一応許可を取ってくれるのは意外だなと思った。
夏海って『これ買えよ! 絶対に買えよ! 決定事項だから』と無理矢理買わせるような展開にしてくるようなイメージがあったのでギャップ萌えしちゃいそう。
「じゃあ、最初のだね。なんかアンタとダメージジーンズは思ったより合わなかった」
「ダメージジーンズは生まれてからずっと嫌いだからな」
「似たもの同士だから?」
「俺ってダメージジーンズなのかよ」
「はい。そんなことより買ってきて。せっかく選んだんだから」
「えぇ……スルーかよ」
女王様より購入してこいという指示が出ましたので致し方なくレジに向かった。
野口英世が1人、2人どころか福沢諭吉さんまでお1人旅立たれた。さようなら。いつでも待ってるよ。
「彼女さんのセンス良いっすね。俺もあの2択ならこっち選んでたっす」
例の店員さんがそう小声で話しかけると袋に詰めた商品を渡してくれた。
「あざっしたー」
ペコリと頭を下げて店を出る。
あの人俺たちの会話盗み聞きしてたのかよ。暇人か?
そんなことを心の中で嘆きながら片手に袋、片手に夏海の手で両手を塞ぎながら俺たちは歩いた。
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