俺と陽キャの店
女物しかない店から男物も取揃えている店に行く。
近くにファストファッションがあるのでそっちの方に行きたいなぁという雰囲気を醸し出すがスルーされてしまう。
「なんでだよ」
「良い? 確かにファストファッションは安いし色んな種類があるしで文句ないよ。でも、アンタファストファッション行ってどうする?」
「シンプルな服買う」
「でしょ? だからダメ」
ふんすと夏海は謎に勝ち誇った表情を浮かべながら目的の店へと入る。
洋楽が流れ雰囲気が陽キャのそれなお店だ。はっきり言って逃げられるのなら今すぐ逃げたい。
だが、夏海に手を掴まれているので逃げることは不可能だ。
「分かった……良いよ。ここで」
もうグダグダしてもしょうがないと悟った俺は大人しく夏海のマネキンになることを決める。
近くにあるのは革ジャンやジージャン、ジャラジャラしたネックレスなど良く陽キャが身に纏っているような格式高いアイテム達だ。
「でも、この辺にあるのは俺には似合わねぇーぞ」
この辺にある服を着ている想像しただけで身震いしてしまうぐらい似合わない。
自分のレベルに見合った服を着るのが1番だ。
「あ……ほら、ここにある真っ黒のTシャツとか……」
俺が手を伸ばして無難なTシャツを手に取ろうとするとその前にガッチリ腕を掴まれる。
最初は優しかった握力だったがどんどん出力が高くなり握りつぶされそうになる。
「勘弁してくれ。病院行かなきゃならなくなる」
「私が何着か見繕ってあげるからそこで待ってて」
夏海は黒くて小さなパイプ椅子を指さしたのでコクリと1回だけ頷きその椅子に座ることにした。
夏海は楽しそうな表情をしながら男物の服を漁る。
こうして夏海を見ているとなんて可愛い女の子なのだろうと見蕩れてしまう。
それと同時にこの子と手を繋いだり登下校を一緒にしたりしているのだと考えると謎の優越感にも浸れてしまう。
「性格がなぁ……」
1つの問題点であり、最大でどうしようも出来ない問題点を口にしながらボーッと夏海を見つめていると店員さんが近寄ってきた。
ワックスを全力でつけてテカテカツンツンした髪の毛に首元からジャラッジャラなネックレスのようなものをしている店員さんは俺の目元に合わせるようにしゃがんだ。
「あれお兄さんの彼女っすか?」
夏海の方を見ながら訊ねてくる。
良くある『何かお探しですか』的なことを聞いてくるのかと身構えていたので予想外の質問に喋ることが出来ず無言でコクリと頷くだけになってしまった。
「そうっすか。羨ましいっすよ。あんな可愛い彼女さんが居て。まぁ、洋服しかない店ですけどデート楽しんでください。俺の彼女もあんだけ可愛ければ絶頂もんなんすけどね〜」
店員さんはそれだけ言うと「あーヒマだ」と嘆きながらレジの方へスタスタと帰っていく。
なんだったんだと思いながらもあまり深く考えるだけ無駄な気がしたのでまた夏海のモニタリングを開始することにした。
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