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俺と出来具合

 「知り合いなのって……実行委員で一緒だって言ったでしょ」


 「お久しぶりです……その。覚えてますか?」


 富里はいつものような遠慮気味な喋り方にシフトする。


 「あれでしょ。あのインターンシップだっけ? 一緒だった子だよね」


 「はい!」


 富里は胸に手を当ててホッとしたような表情を見せる。

 実際にホッとしているのだろう。


 インターンシップとは職場体験みたいなものである。

 俺は保育園に連れていかれた。

 美咲が「私将来保育士になりたいからゆーくんも一緒に行こ」と言い俺の志願書にボールペンで書きやがったのだ。

 今考えてみればとんでもないことをしてくれたが当時は美咲のことが好きで好きで仕方なかったので些細なことだとしか考えていなかった。

 結果保育園に行くなり「せんせーたちカップルなんでしょー! キスしてー」とからかわれるというオチだ。

 恥ずかしすぎる。


 「あれ。夏海達ってどこいったんだ?」


 「私たちは老人ホーム」


 「特に何もしなかったですよね」


 「うーん。そうだね。お年寄りの人と当たり障りのない会話して、会話して、会話して時々食事の手伝いして会話してお遊戯会一緒に参加してただけだったね」


 「良く分からなかったってのが正直なところですよね」


 思い出話に花咲かせる……と言って良いのだろうか。

 とても2人が盛り上がっているとは言いきれないがそれでもまぁ共通の話題があるというものは良い事だ。

 無いと話が発展しないからな。

 楓とか桜花や酒々井なら話題なくても適当に話広げるんだろうが富里と夏海がポンっと出会ってもお互い萎縮してしまうのが目に見える。

 こんな偉そうなこと考えてる俺でさえ夏海側の立場だ。


 「あ……そろそろ始まりますね。写真しっかり撮っておいてくださいね」


 「おう。任せとけ」


 最初に機材を弄っていた人間が軽くどういう作品なのかということを説明して「ヒロインに嫌われた件」の上映がスタートする。

 ほとんど携わっていなかったので知らない光景や知らない小道具、知らない演技というものが次々と飛び出してくる。

 東金海による迫真の演技。

 ちょぴっとだけ富里が出演したりもしていた。

 本当に気持ち程度だ。


 ストーリー自体も大きな改変はない。

 原作を忠実に再現し、最後だけ上手いことまとめる。

 こうやって映画として観ていて特に文句が出てこないそんなクオリティである。

 仮にお金を取って……というような趣旨であればこれは間違いなく失敗のカテゴリーに部類されるのだろうが今回はあくまでも文化祭という一端である。

 そう考えるのであれば今回の作品は成功と堂々胸を張れるだろう。

 まぁ、俺は参加してないんだけどね。


 忘れないうちに人のいるこの光景をカメラに収めておく。


 「ふーん。良く出来てるじゃん」


 「皆かなり頑張ってましたからね。私とか参加出来なくて本当に申し訳ないって気持ちになりました」


 「そうなのか。全く顔出してなかったからそれすら分からなかったわ……悟のやつも頑張ってたなぁ……」


 主人公の友達役として頑張ってたよ。

 悟の「お前らの気持ちはそんなもんなのかよっ!」ってセリフは汎用性が高そう。

 後で使ってやろう。

 そんな最低なことを企てながらこの教室を後にしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 映画のできはそこそこでしたか。学生だと考えると頑張った方かな。 記録写真って、明るいうちに撮るしかないから、辛いかも。本当なら映画を見ている観客の反応とかとりたいんだろうけど。
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