俺とツンツン
「それで……俺にどうしろって言うんだ?」
静かな空気が流れる中俺は切り裂くようにして訊ねる。
夏海が何か言いかけたが同時に俺も口を開いてしまったので強行突破した。
「ストーカー相手と喧嘩してこいとかは無理だぞ。殴り合いの喧嘩なんてしたことない。それこそ、そういうの頼むなら多分悟の方が適任だな」
電源を切られてしまったスマートフォンを復旧させつつ俺以外の人間に相談するよう道を開拓する。
大体そんな面倒なことなぜよりによって俺に持ってきたのか。
腐っても俺と夏海は幼馴染だ。俺がこういう面倒なことに極力首を突っ込まないように生きているのは夏海も良く知っているはずだろう。
「まぁ、相談ぐらいには乗ってやるがそれ以上のことはやってやらんからな。俺はのらりくらりと生きてたい」
「大丈夫。作戦とか考えてきてるから」
「おい。俺の話聞いてたか?」
「何? アンタ私のお願い聞き入れてくれないの?」
「面倒だもん」
「キモ。女の子のピンチなんてどうでも良いんだね」
夏海は爪を弄りながら心のこもっていない声で喋る。
「ピンチって……本当にやばくなったら警察に言うだろ?」
「本当にやばくなったら手遅れじゃん。それにもし私になにかあったらアンタは後悔するんだよ。『あの時俺がしっかりと対処してあげてれば……』ってね」
この子ツンツンしなくなった代わりに精神面を追い詰めてきたよ。
ある意味このツンツンの方が胸に刺さるね。
「はぁ……分かったよ。とりあえず話だけは聞いてやる。だけど、手伝ってやれる保証は無い。まぁ、どうせ悟はこういう面倒事そのものが好きだからアイツに頼め」
ラブコメ主人公気質の悟に放り投げるスタンバイだけしておいて夏海から話を聞く体勢に入る。
「考えた作戦は裕貴とイチャイチャ大作戦」
「ふーんそうか。俺とイチャイチャ大作戦か……ん? 俺とイチャイチャ大作戦って言ったか?」
「言ったよ? あ。何? もしかして付き合うとか勘違いしちゃった? いやいや、さっきも言ったけどアンタと付き合うとか無理だから。諦めて」
両手をぶんぶんと振って拒否してくる。
そこまでしなくても良いじゃん……
「どういう意味なのか俺には1ミリも理解出来ないから解説してくれ」
「えー……少しは頭使いなよ。使う脳みそがないってことかな?」
「そのぐらいの脳みそはあるわ。むしろお前の国語力が低すぎて心配だ」
「は? 何? 喧嘩売ってるの? 読書感想文でも書いて勝負する?」
「しねぇーよ。それよりさっさと説明してくれ」
夏海はなにか悩んでいるのだろうか。
唇に指を当てながら「あーん」とか「うーん」とか唸りに唸っている。
目をぱちくりと開けたり閉じたりしながら考えるその姿だけは非常に可愛い。
本当に喋らなきな完璧なのに喋るとツンツンツンツンしているのは勿体なさすぎる。
何が酷いって本人にツンツンしている自覚がないのが問題だ。
自分はそういうキャラクターだと自覚しての行動であればまだ救いようがある。
少なくとも俺は陽キャというキャラクターでは無いので教室では無理に目立とうとせず極力影を潜めて生活している。まぁ、悟のせいで台無しなんだけれどね。
夏海に関しては幼稚園の頃からずっとツンツンしていた。
先生に向かってツンツンし、俺にもツンツンする。最近楓達には柔らかくなったらしいがそれでも昔はずっとツンツンしていた。根っからのツンツンっ子なのだ。
だから今こうやって夏海が悩んでいる1瞬1秒が恐ろしい。
一体何を言い出すのか。桜花とは違う怖さがある。なんなら桜花の方が可愛らしくて許容できる。
何もされていないけれどもう既に許して欲しい。そんな気持ちにさせられていた。
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ブックマークと評価もありがとうございます。これだけ多くもらえるとやる気が凄く出ますね。
この評価に見合う作品に仕上げられるよう頑張りますのでこれからも応援していただけると嬉しいです。