俺とファインプレー
9回表、悟がマウンドに上がる。
さっきまでとは違いランナーを出さなくても球を走らせている。
本人自身これ以上点を取られてはいけないといつ意識が強まったが故なのかもしれないし、今回はこれが最後だと察しているから全力を出しているのかもしれない。
相手打者も悟のギアチェンジに翻弄されているようでバットを当てても前には飛ばず、見逃せばストライクという中々な惨状だ。
覚醒状態と化した悟はポンポンと簡単にストライクカウントを稼ぎ、三振を量産する。
フラフラとした小舟状態になることなくこの回は3者連続3振で終えた。
ピッチングがいくら神っていたとしても点数が取れなければ負けてしまう。
そしてこの回がラスト。まぁ、点数が取れれば続きはするがまずは同点にしなければそれで悟たちの夏は一旦幕閉じることになってしまう。
頑張って欲しいとは思うが俺らにはそうやって願って最後まで応援することしか出来ない。
俺らが応援することがどれだけ彼らの力になっているのかは分からない。果たして本当に応援になっているのか。やかましいと思われていないか。
そんな思考をグルグルさせていると涼太はガクンっと落ちるフォークを綺麗に拾ってライト前までボールを運んだ。
拍手や「倒しちまえー」などの声援が飛び、「油断してんじゃねぇーぞ」などの相手チームピッチャーへの声援とも罵倒ともとれる声が聞こえてくる。
5番打者は前回打席粘りに粘ってフォアボールで出塁した。
だからだろうか、打者はしっかりとボールを見極められており、厳しいコースはしっかりと見逃して、逆にピッチャーは警戒しているのか球が暴れ始める。
5番打者は内角に来たボールを綺麗にスイングして跳ね返す。
右中間を破り長打コースとなった。
「走れ走れ走れ走れ!」
「柏くん! ホーム! 狙ってー!」
俺と楓が思わず立ち上がって叫んでしまう。
結果はツーベースヒットで2、3塁。
ノーアウトで2、3塁はデカい。犠牲フライでも同点。スクイズでも同点。ヒットが出ればサヨナラ勝ちも夢じゃない。
6番打者は初球から思いっきり振り抜く。
打球はふらぁーっと上がり前進守備をしていたレフトが難なくキャッチする。
外野のシフトが前進じゃなきゃヒットになっていたらと思うと非常に惜しい。
7番打者は打つ気満々で打席に入るが肩も腕も取れちまうんじゃないかというぐらいな勢いで投げ始めた相手ピッチャーに翻弄されボールを当てることすら許されずに三振に終わる。
そして、内野陣とキャッチャーがマウンドに集まり話をし始める。
このアウトを取れば勝ちだとかそんなことを話しているのだろう。
間を開けるのはこちらとしてもありがたい。イケイケムードからアウトを2つ重ねたのだ。
一旦リセットした方が流れも落ち着いてくれるはず。
そんな悠長なことを考えていると相手は8番とは勝負せずに敬遠を選択する。
会場からは困惑するような声が聞こえてくる。
俺も周りも皆が皆この打者と勝負するものだと思い込んでいたからそんな反応をしてしまうのも致し方ないだろう。
結局敬遠で8番打者は1塁に向かって走り、9番打者である悟が打席に入る。
ピッチャー対ピッチャーの闘い。
1球、2球、簡単に見逃しツーストライクと追い込まれる。
3球目に来た渾身のストレートを悟は弾き返す。
ライナー性の打球だ。ピッチャーの頭を越してセカンドとショートの頭も越した。
これは同点。なんなら逆転でそのままサヨナラも夢じゃないと思った矢先ボールの先に見えたのは地面ではなくセンターのグローブだった。
センターは前進して、前進して、思いっきり飛び込みボールを掴む。
動画アップロードサイトとかにアップロードされてもおかしくないぐらいの大ファインプレーである。
そんなファインプレーに阻まれて悟たちの夏は終わりを迎えたのだった。
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本日はスマホもパソコンもまともに見れないぐらい忙しくこれ一本になりそうです。
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