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012 神剣の使い方

明日の八時に予約投稿するつもりが、間違えて即投稿してしまいました。

なので本日は二話投稿という形になっておりますので、まだお読みでない方は11話からお願いいたします。

「いたぞ、オーガだ」


「おっきい」


 赤い肌に頭から生える角。

 全長は3mほどで、筋骨隆々。

 それがオーガの特徴だ。

 ヘルアントと違い、単体でAランクの脅威度がある。

 まさかこんな魔物が街の近くにいるなんて――どうして放置されていたのだろうか。


「ダンジョンボスを見た後だとあれでも小さく見えるけどな……エルドラ、今回はサポート頼む」


「危なくなったら助ける。分かってる」


「悪いな……」


 俺は剣に巻き付けていた布を取り、構える。

 エルドラに保険になってもらうだなんて男としてはどうかと思うが、死んだら終わりだ。

 この剣————確か、神剣シュヴァルツとか言ったっけ。

 今日はこれの試し切りの日だ。


「よし……っ!」


 様子を窺っていた茂みから、俺は勢いよく飛び出す。

 オーガの硬い皮膚を裂けるかどうか確かめるなら、不意打ちからの一撃で十分。

 相変わらず体は軽い。

 

(これなら!)


 剣の振り方なんて知らない――が、今の身体能力なら狙ったところに振るくらいならできる。

 オーガに肉薄した俺は、跳び上がって首めがけて剣を振った。

 しかし――――。


「——あれ?」


 オーガの皮膚で剣は止まっていた。

 血は一滴も流れず、オーガは鬱陶しそうに俺を見る。

 何だこの剣、一切斬れないじゃないか。


「ディオン、ちょっと離れる」


「え⁉」


 気づけば、俺はエルドラに抱えられてオーガの目の前から離脱していた。

 それまで俺がいた場所に、オーガの拳が通り過ぎる。

 背筋に寒気が走った。

 エルドラがサポートしてくれなかったら、きっと背骨の一つでも折れていただろう。


「助かった……!」


「その剣、使えないね」

 

 エルドラが残念そうに剣を見る。

 どういうことだろうか、ダンジョンから得られるアイテムが弱いなんてことはあり得ない。

 

「使い方が悪いんだ……何か、方法……が?」


「どうしたの?」


「いや、今剣が光った気がして」


 強く握り直したときに、わずかに光が見えた気がした。

 もしや、この剣は――。


「物は試しだ」


 俺は剣に魔力を流し込む。

 まとわせる、ではなく、流し込む。

 ダンジョンボスはこの形の剣で斬撃を飛ばしていた。

 きっとこの剣は、魔力で活性化(・・・・・・)させるタイプ。


『そうだ――――それでいい』

 

(今……何か)


 どこからか、また声がする。

 それに一瞬気を取られている間に、突然俺の手の中で剣が輝き始めた。

 やはり予想は的中だ。

 これできっとオーガの皮膚だって斬れるはず――。


「いや、ちょっとこれは……」


 黒い光は想像以上に大きくなっていく。

 この光はすべて魔力だ。 

 あまりにも膨らみすぎて、びくともしないくらいに重い。

 今のままでは振ることすらままならないだろう。

 ならば、一振りにも満たない一瞬だけなら……。


「魔力強化!」


 ダンジョンボスを倒したあのときの感覚――それを再び全身に巡らせる。

 体の底から力が込み上げてきて、剣が今までとは段違いに軽く感じた。


「いっ……け!」


『オォォォ!』


 雄たけびを上げて襲い掛かってくるオーガに対し、俺は剣を振るう。

 すると聞いたこともないような、高い澄んだ音が森の中に響いた。

 

「……マジか」


 俺の眼前で、オーガの体が斜めにズレる。

 上半身が地面に落ち、下半身からは血が噴き出した。

 さらに離れた位置にある木々が、同じ角度でズレていく。

 どこまで刃が届いたのだろうか、目測ですでに30mは届いているように見えるが。


「すごいね、それ」


「ああ、正直これほどまでとは――――っ!」


「っ、ディオン、また反動が」


「わ、分かってる……」


 腕がはじけ飛びそうなほどの激痛が襲ってくる。

 今回は腕だけで助かった。

 下手に全身強化なんてものを施せば、今度は死ぬかもしれない。


(これも何か対策が必要だな……)


 俺は自分の腕に手をかざし、ヒールを唱える。

 やはりかなり深くまで壊れてしまうせいか、二回かけてようやく完治した。

 フルパワーで身体強化を施しても、戦える時間はほんの一瞬。

 その後は想像を絶するダメージが返ってくる。

 例えば少しでも長引く戦闘があれば、それこそ即死するレベルの反動だ。


(体を鍛えればそれなりに耐えられるかもしれないが、どのみち数秒の話だろう……もっと戦闘時間を延ばす方法があれば――)

 

「その魔法、最初からかけておければいいのにね」


「え?」


「だって、怪我した後に治しても痛いのは変わらないんでしょ? だから怪我する前にかけておけたらいいのにって」


「……その発想はなかった」


 あらかじめヒールをかけておけるような魔術はない。

 ただ、この二回の魔力強化で、強化を解くまで痛みを感じたことはない。

 つまり魔力強化中にヒールをかけることができれば――。


「ありがとう、エルドラ。何か見えた気がする」


「よく分からないけど、どういたしまして?」


 魔力強化と回復魔術の組み合わせ。

 これがモノにできれば、きっと新しい道が開けるはずだ。


「オーガの討伐お疲れさまでした。角も納品していただいたので、合計で二十五万ゴールドの報酬となります」


「ありがとうございます」


 たまたま依頼カウンターの担当をしていたシドリーさんに達成報告し、袋に入った金貨を受け取る。

 角、というのは、当たり前のことだがオーガの頭に生えていたものだ。

 砕いて金属に混ぜると、耐久力が大幅に上がるとか何とか。


「じゃあ俺たちはこれで」


「あ、あの……ディオンさん」


 ギルドから出ようとしたところを、シドリーさんに呼び止められる。

 振り返れば、彼女は意を決したように口を開いた。


「ディオンさんも、ランク検定を受けてみませんか?」


「え、俺が?」


 シドリーさんは冗談を言っている様子ではない。

 新人のエルドラが検定を受けるのは分かるのだが、すでにBランクという位置の俺に検定を受けさせる意味が分からなかった。


「いや、俺が今更ランク検定を受けるだなんて――」


「受けてみろよ。ユキ・スノードロップのパーティメンバー、ディオンよぉ」


「っ⁉」

  

 突然、背後から声がした。

 振り返れば、そこには赤髪の女が立っている。

 

「れ、レーナ・ヴァーミリオン……」


「知り合い?」


「一方的に、だけど。ここのギルドマスター――――いわゆる一番偉い人で、元Sランク冒険者だ」


「へぇ」


 エルドラに目を合わせたレーナさんは、獰猛な笑みを浮かべた。

 レーナ・ヴァーミリオンという冒険者は、俺が冒険者になる前に精力的に活動していた伝説的な存在である。

 攻略したダンジョンは数知れず、国の危機を救ったこともあるらしい。

 パーティとしてこの街に来たときに一度顔を合わせたことはあるけど、こうして近くで会話をするのは初めてだ。


「エルドラだったな。お前の戦いっぷりは見させてもらったぜ。お前ならSランクにだってなれるかもな」


「……あまり興味ない」


「まあそう言うなって。ともあれSランクはすぐになれるわけじゃないけどな。街やら国やら、お偉いさんが認めたやつだけがSランクになれるんだ。まずは実績を積まないと、だ」


「だから、興味ない」


 エルドラは困った顔を浮かべている。

 そんな様子に慌てて助け舟を出したのは、シドリーさんだった。


「あの、ギルドマスター? 今回はディオンさんの話なので……」


「おうおう、わーってるよ」


 レーナさんは頭を掻くと、改めて俺の方へ向き直る。


「ディオン、お前さえ望めばランク検定を受けさせてやる。シドリーがどうしてもお前がBランクに留まっていることが納得できないんだと。あ、上がることはあっても下がることはないから安心しろよ」


「納得できないって……」


「実はあたしも納得できてねぇんだよ。ユキのパーティにいたときはパッとしねぇやつだなって思ってんだ。それなのに、お前ブランダルと戦っていたときのエルドラの動きが見えてたんだろ?」


「まあ、かろうじてですけど」


あたしには(・・・・・)見えなかった(・・・・・・)。こう言えば理解できるか?」


 俺は疑いの目でレーナさんを見てしまう。

 確かにエルドラは速い。

 しかし目で追えない速度ではなかったはずだ。

 何か企んでいたりしないだろうか?


「強いやつが難しい依頼をこなさねぇと問題は溜まる一方なんだよ。だからきちんと適正ランクについてもらわないとならねぇんだ。日程は二日後、このギルドの第一訓練場で行う。そこで十分な成果が見られるようなら、お前はAランクに昇格だ。分かったな?」


「……こちらとしても悪い条件ではない、か。分かりました。ぜひ受けさせてください」


「よし、決まりだ。そんじゃユキによろしく言っといてくれ。お前がいるならあいつもこの街にいるんだろ? たまにはここにも顔だせってさ」


「——分かりました」


 そうか、俺はまだユキのパーティメンバーだと思われているんだ。

 つい昨日の話だし、把握されていないのも当然か。


「あ、そうだ。言い忘れてた」


 ギルドの奥に戻ろうとしていたレーナさんは、突然振り返る。


「ランク検定の相手、あたしだから」


 ————は?

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