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【世界にひとつだけの…】

作者: 鵜野森鴉

この物語はフィクションです。

登場する人物・施設等は全て架空のもので、実存するものとは何ら関係ありません。

実際の運転は、マナーを守り安全運転を心掛けましょう。


【世界にひとつだけの…】


その車は、とてもじゃないが我慢出来ないほどカッコ悪かった。

それはもう、カッコ悪さがテンコ盛りだった。

タイヤなんて今の軽と同じか、それ以下だ。

ノーマルのハチロクは、どこから見ても不細工だった。

まぁハチロクを、どノーマルで乗ってるヤツなんて居なかったし、

あの頃乗っていた相棒も、例に漏れず、当時の流行りを採り入れてた。

まずはホイールとタイヤだ。

純正のベーゴマみたいなホイールから、一世を風靡したRSワタナベの

8本スポークに、タイヤはアドバンで決まり。

次はライト。

電球色のぼやけたバルブを、強烈な光を照射する高効率バルブに交換。

その次は内装だ。

トラックのようにデカいハンドルを、33パイの小径ステアリングに。

純正の重たいシートは、安物だったけど軽量のバケットシートに換えて、

リアシートは取っ払って、4点式のシートベルトを装着した。

仕上げはロールゲージ。

自分で組み入れるのは大変だったけど、仲間に手伝ってもらって何とか形になった。

実際の車体剛性なんて関係ない、カッコ良ければ、それでイイのだ。

今みたいに車高調なんて無かった時代だから、車高を下げるために、

足回りをバラして、サスを金鋸で切断するなんて反則技も平気でやってた。

短くなったサスはバネレートが上がって、ピョコピョコ跳ねるんだよね。

さすがに純正ショックじゃ頼りないので、社外品に交換したよ。

そしてノンスリ、ノンスリなんて言葉も今じゃ使わないか。

LSDのこと、コイツが無いとドリフトなんて出来やしないし、

純正の2ピニは、すぐにヘタるから社外品の4ピニを組み込んだ。

細かい所だと、エアクリやオイル交換、プラグの焼け具合の点検なんて

茶飯事だったし、マフラー交換、アンダーコート剥がしも自分でやった。

貧乏だったから、エンジン本体はノーマルだったけどね。


ここまでやると、一応は走り屋っぽく見える。

そこで、さぁ走るぞって、峠に繰り出すんだけど、下手糞だったねぇ。

下手糞過ぎて、すぐに走るのヤメて、常連さん達の走りを見てた。

何であんなふうに車が動くんだろう、どうしてあのスピードで曲がれる

んだろうって、そりゃ眼が点だったね。

見たり聞いたりして、理屈が解ってくると、人間て不思議な生き物で、

試したくなるんだけど、絶対に上手く行かないのも解ってるから、

そこでやっちゃうと常連さん達に迷惑掛けちゃう。

だから、練習出来る場所を探したよ。

県内はもちろん、近隣の他県にまで探しに行ったよ。

で、見つけた。

誰も居ない自分だけのスペシャルステージを。

あとはもう毎週通った。

ドリフト出来ないのが悔しくて、狂ったように練習したね。

そんなふうだから、タイヤはみるみる坊主になっていくけど、

新品を買う金なんて無い。

知り合いのツテを頼って、タイヤ屋の裏に捨ててある古タイヤから、

まだ使えそうなヤツを探し出しておいて、閉店後にチェンジャーまで拝借して、

自分で組み付けて走ってた。

もちろん、バランス取りも自分でやったさ。

だけど、鉛のバランスをガムテープで貼り付けるだけだから、

いつの間にか何処かにスッ飛んで消えてるんだ、笑っちゃうね。


今思えば、このハチロクに巡り合ったことで、車の仕組みっていうか構造とか、

イジり方やメンテナンス、果ては走らせ方まで学んだ気がする。

ハチロクが主人公の漫画で「この車はドライバーを育てる」なーんてのがあったけど、

まさにその通りだと思うよ、色んな意味でね。

余談だけど、この漫画が始まって大人気になったお陰で、俺のハチロクは

買った時と同じ値段で売れたんだ、ホントに最後までイイ車だったよ。

もう新車では手に入らないけど、復刻版が出たら迷わず買うなきっと。


今どきの車はどうなんだろう。

色んなハイテク装置が満載で、人間が触れる部分が減ってる気がする。

ヒール&トゥなんて、車が勝手にやってくれるんだって、驚いちゃうよ。

ボンネットを開けても、プラグ交換すらさせない構造になってるし。

確かに安全に、その上便利になってるけど、車は機械である以上、

人間が操作しなければ動かないし、操作するから面白いんだけどね。

操作する人間が、車という機械を理解し、興味を持たなければ、

いずれ車は、移動する只の箱になってしまうんじゃないかな。

そう、エレベータのように箱に入って、行きたい場所をインプットする。

あとは到着するまで待つだけなんてね。

もうそんなの車じゃないよね。

そんな未来が来ないことを、願わずにはいられないよ。


― 完 ―


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