エルザの夕食会とちょっとしたトラブル
1度館に戻り、夕食の時間までオルクス様から貰った指輪を細部まで『解析』を使い調べた。
【冥界龍の指輪】
冥界と霊界の狭間に住まう、黒龍オルクスの鱗と爪、ブラックダイヤモンドを用いた指輪。
黒龍の認めた者に授けられる証 【破壊不可】
表示された結果に、納得しながら、俺は指輪に不壊処理を施したチェーンを通し、首から掛けてしまい込んだ。
エルザの部屋に転移をすると、丁度準備が終わり、ソフィアとリーフィアも準備を終えていた。
「そろそろ夕食の時間ですわ、ルーク様、行きましょうか」
「リー姉様、ここはわたしのお家なんだから、隣はわたしの!!」
「おや、なら今は王家の預かりになっている私もルーク君と一緒に行こうかな?」
俺の腕を、三人が取り合う様にじゃれついていると、後ろから両腕の裾が同時に引っ張られる。
「…ん…メア」
「…ん…雪」
両腕の裾を引っ張ったのは、雪とメアさんだった。
何かを感じたのか、無口な二人は、仲良く裾を握る手を持ち替え、握手をしたまま手を繋ぐと、俺が動くのを待っていた。
仕方無いので、そのまま食堂に向かうと、豪華な飾り付けがされたディナーテーブルには、食器が並んでいた。
「本日は、お父様とお母様が居ませんので、私がご挨拶させて頂きます。皆様楽しんで食べて下さいね」
エルザの挨拶が終わり、夕食が始まった。
今日は渚もメイド服ではなく、藍色の着物を着ていた。
他の女の子達もドレスや着物を着ている。
驚いたのは、カミナが着物ではなく、黒色のイブニングドレスを着ていた所だ。
一応、俺も礼服を着ているが、他の人には見せれないと思う程だった。
かなり際どい所までスリットが入り、胸元も大きく開いているドレスは、艶やかさと同時に淫靡さを兼ね備えて居たが、カミナは自然体でいるので、誰も何も言わなかった。
食事も終わり予定を確認すると、彼女達が使える時間が、5日と6日の2日間のみであった為、
明日の朝から、俺とカミナ、メアが先に行き、『転移』でみんなを連れていく事になった。
「ルーク君。よろしく」
「こちらこそ、よろしく。メアさん」
確認が終わったので、俺達とメアさんは、館に戻り、翌朝の準備を行い眠るのだった。
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【ウンディーネの月 1月2日】
「ルーク、準備が終わったか?向こうは冷えるぞ」
「大丈夫、カミナ達のお陰で最高のインナーがあるし、また作る分の布も確保したからね。メアさんには、リボンを渡したから大丈夫な筈。……他の婚約者4名分の布はとりあえず髪止めに加工したから、明日渡せば良いだろう」
必要な物を取り出し、後は収納。
最低限の装備と非常時の備えも確保した。
「メアさんも北の外壁で待ってるから、そろそろ行こうか?」
「外壁から出たら、直ぐに走るぞ」
「了解、頼んだよ相棒」
軽く拳を合わせて、外壁北門に向かった。
北側の外壁、門の前に到着すると、裏路地に人の集まりが出来ていた。
何かあったようで、近くに居たおじさんに話を聞いた。
「何があったんですか?」
「あぁ、どうやら女の子が、質の悪い奴等に……グレモリー家の商人に目をつけられたらしいんだ。悪い事は言わない、君も目をつけられないうちにお逃げ」
嫌な予感がするので、人の隙間を抜けて先頭に出たところで、声がかかった。
兵士姿の男と、商人の姿の二人の間から、見覚えのあるリボンが見える。
「メアさん!?」
「……あ…ルーク君ッ!!」
そこに居たのは、涙目で今にも崩れそうな状態のメアさんだった。
「なんだテメェは、この少女の知り合いか?」
「そうですが、何か?」
メアさんを囲っている内の1人、若い兵士姿の男がこちらにやって来た。
「へぇ……ならお前もこの馬車に乗れや」
「拒否します。何ですかいきなり?」
「なら、仕方がねぇな…そっちのガキだけでも馬車に乗せて行くかぁ?」
なんか威圧的な兵士だったので、どうしようかと、思った瞬間、メアさんが動こうとした。
「動くんじゃねぇよ、クソガキがッ」
商人姿の男は、メアさんの髪を引っ張った。
「痛いッ!!」
「喧しい、身分のわかんねぇガキが彷徨いてんじゃねぇよ。周りの奴等も見てんじゃねぇ、とっとと散りやがれ!!」
兵士姿の男は、怒鳴り散らすと周りの人達が散っていく。
「(カミナ、どう?)」
「(ただの兵士ではないぞ、向こうの衛兵も近くに居るが、こちらに関わる気が無いようだ……怪しいな)」
「ほら、坊主もうお前達を助けてくれる者は居ねぇぞ。分かったらとっとと馬車に乗れや」
「その前に、その汚ならしい男の手を離せ、下衆が」
「アァン?何を言ってんだ、俺達の事を知らねぇのか?グレモリー家の奴隷商人だぜ?」
「グレモリーだかグレムリンだか知らないけど、あんたら貴族なの?」
「ハッ!!ある子爵家に認められた奴隷を卸す商人だ。この辺じゃ見ない種族の女や獣を扱うのが仕事だ。」
「身分が確認出来ない娘とかを拐うんだ?」
「時折見かける密入者なら、見られても問題ねぇからな、この娘の知り合いなら、お前も身分証明出来ねぇだろ?」
正に清々し程のクズだった。
こういう輩は、ゴキブリと同じで、元を叩かないと終わらないと聞く。
コイツらには、自白してもらうとしよう。
「メアさんが連れていかれるのは、不本意なのでね、とても良い事を考えたんだよ。うん」
「アァン?」
「貴方達には、お縄について貰います。まずは、そこのデブ、メアから手ぇ離せや」
俺は、魔力をそのまま弾にして、メアさんの髪を持つ腕に当てへし折る。
「なっ!?」
驚いた兵士の男が、振り向くとそのまま商人の男は倒れて居た。
メアさんは、走って俺の側に来ると後ろに隠れた。
「これで人質は居ないから、止めておけ」
「舐めんなよ、魔術師相手なら遠慮は要らねぇな、商品価値が上がるってもんだぜ」
俺は同じ魔力弾を、兵士の男に放つが反応が無い。
男は、両手に結界を張って居るようで、弾の向きを反らして躱していた。
「へぇ、結界使って『パリイ』出来るんだ。」
「これでも、護衛やってんでね、傭兵には当たり前のスキルだからな」
「でも、受け流したね?」
「だったらなんだ?」
「俺の勝ちだよ泥人形の蟲達」
受け流された魔術の内、足下に落ちた魔力弾があったと思われる場所から、無数の泥で出来た蟲達が足を絡めとる。
自重に従い足下が沈んでいくが、男には出る術がない。
兵士の男と商人の男は、二人揃って地中に肩まで沈み、そこで固定されていた。
カミナに呼ばせた衛兵が到着した時には、地面から頭のみ出土している男が、気絶している光景がそこにあった。




