婚約者達のお茶会
ルーク達が、特殊訓練をしているのと同じ日に、婚約者達とカミナ以外の元式神の女の子、そして、闇護りのメアは、王家のサンルームに居た。
「さて、皆さん集まりましたわね」
「そうですね~、もう大丈夫です」
「じゃあ、始めようか?」
「「「婚約者会議を始めます」」」
「???」
少しだけ混乱しているメアを他所に、王女達は、話し始める。
「本日この場所に居るのは、既に婚約者として内定している私達、ルーク様の従者兼、護衛のカミナさん以外の方と、メアさんの合計9名です」
「今回の会議は、皆の気持ちを確認して、ルーク君の婚約者になりたい者を、選別する事が目的です。先ず渚さんはどうですか?」
「渚の気持ちは、ルーク様の望むままにです。この姿も、ルーク様の前世で行方不明になった妹様、沙耶様の姿を模しています。ですので、ルーク様の望むなら、渚の全てを捧げます」
エリーゼの問い掛けに、渚は静かに答える。
「成る程。焔ちゃんと雪ちゃんは、どうかな?」
「お兄ぃのお嫁さん?」
「…なる」
「雪とボクは一緒だから、雪がなるなら、ボクもなる!!」
焔と雪のコンビは、何時も通りの能天気な焔とおとなしい雪、二人一組の考えで答えていた。
「先に言うておくが、妾は妻の順位一番下で良いからな?」
「あら、桂花さん、どうしてですかぁ?」
「ソフィアもそうじゃが、ご主人様の周りに居るという事は、内政外交に同席する。若しくは行くことが多くなる。もし稚児が産まれれば、世話をする者が居った方が良いが良い。12名も居れば、手が足りぬ事も有ろう?」
「そうですねぇ、確かに、多いと思います。授かり物とは言え、1人とは限りませんものね、雇うにしても、かなりの人数になりそうですし…」
「その分、妾は闇精霊と蜘蛛の女王……人の姿をしていても、本来は人に仇なす存在とされておるのでな、そこまで外に出向く事はないと思うのじゃ」
「つまり、他の嫁が産んだ子供を見てくださいますの?」
「そう言うことじゃ、特に獣人は、双子を授かる事が多いと聞くしのぅ」
「分かりましたわ、では12番目にケイファさんのお名前を書いておきますわ」
リーフィアは用意した紙に魔力を流し、名前を刻んだ。
「それじゃ、最後はメア、貴女だけど、貴女はどうしますか?血液の適合者は大人に成る程見つかりにくいと聞いた事があるのですが?」
「……うん、パパは、劣化吸血鬼になる前……人族だった時に、ママと出会ったって言ってた。パパの主人?の供物として差し出されたママを助けるのに、主人を倒して、結果パパが吸血鬼の王になったって聞いた」
「それは詳しく聞きたいお話ですが、貴女自身、まだルーク君のお嫁さんになりたいか分からないなら、まだ時間も有りますし、少し考えておいてくださいね?」
ソフィアが告げるとメアは頷いて考え始めていた。
10時になった頃、扉をノックする音が鳴り、女性の声が聞こえてきた。
「お嬢様方、お茶会様の飲み物とケーキを、お持ちしました。扉を開けても宜しいですか?」
「セドナ? そうだ、アナハイムさんも向こうだった。うん、お願い」
エルザの言葉を確認して、セドナは中に入ると、ケーキと紅茶を乗せたカートから、人数分の食器を並べた。
「本日の紅茶は、帝国産のミルクティーで御座います。ケーキはルーク様より、お手製アプリルのクリームパイを頂いております。どうぞお召し上がりくださいとの事です」
帝国産のミルクティー専用の茶葉はソフィアのお土産だった。
ミルクの甘さと、渋みの無い紅茶は良く合う。
そこに、アプリル本来の甘酸っぱさを残したクリームパイが置かれると、彼女達の手が止まる事はなかった。
他愛ない話をしながら、彼女達のお茶会は、ルーク達が帰ってくるまで続いていたのだった。
ルークが帰って来た際に、カミナに念話が届く。
「カミナ、お疲れさまでした。何かルーク様の近くから、覚えのある感覚があるのですが、何かありましたか?」
「わからん、ダンジョンの転移陣から、一瞬だけ嫌な魔力が放たれて、ルークが消えたのだが、同じ様に転移陣から出て来たのでな……そこからこの感覚が続いている。渚はどう感じる?」
「懐かしい、けど何か異質。身体がぞわぞわします」
「私も同じだ、……沙耶を相手にしていた時と似ているが……まさかな」
「あり得ないことも、有るかもしれません。渚達がそうでしたから」
「まぁ良い、そろそろ風呂に入るとする。……そうだ、渚」
「どうかしましたか?」
「ルークにイタズラを仕掛けよう。もしも、あの沙耶が居たとすれば、何かしらの反応があるはずだ。私もフェンリル形態で向かう」
「分かりましたわ、私もお風呂に向かいます。女湯の方で一度合流しましょう」
念話を終えた渚は、その場に居た一同に一言告げる。
「皆様、はしたないかも知れませんが、ルーク様の入浴時に、突入したいと思います。もしかすると、私の知る者が現れるかもしれませんが、皆様行きたい方は居ますか?」
突然の言葉にその場に居た者は、互いに顔を見合わせる。
「裸になったルーク様の姿、見ないわけにはいきませんわ」
「…兄様の…背中…流す」
「ボク頭を洗って貰いたい。後、尻尾も!!」
リーフィアと焔、雪は行く気満々な様で、若干興奮している様だ。
他の女の子達は、恥ずかしいのか、顔を染めているが、行かないとは誰も言わなかった。
「メア様は、どうなさいますか?」
「……………行く」
最後の1人の参加を確認して、一同にルークの居る浴室に向かう。
途中、セドナに会ったエルザは、誰も近寄らせない様に、頼むと
「畏まりました、お嬢様。蟻の子一匹通しません」
と快く引き受けて、清掃作業の札を渡してくれた。
脱衣室で皆服を脱ぎ、ルークの寛ぐ声が聞こえたと同時に、カミナの巨体が、扉を開く。
皆が見たのは、浴槽から寛ぐ姿のまま驚くルークと、カミナ達が入ってから、ルークの頭上に現れた、渚に良く似ている渚より一回り大きな胸を揺らした女性の姿だった。
「やはり貴様か、沙耶」
「あぁ、妹様じゃないですか」
カミナと渚以外の女の子達は目を丸くしてその言葉を聞いたのだった。




