沙耶との再会
黒龍オルクスが呼び出した扉を開くと、とても黒龍が住む塒には見えなかった。
「どうだ、我の塒とは思えんだろう?」
「沙耶がスミマセン、後で元に戻します」
塒の中は、何処かに続く扉とハートのクッション、ぬいぐるみ、ファンシーなベッドが設置されていた。
「う~ん、さっぱりした~。オルクスさん、お昼ご飯はなんですか~」
不意に扉が開き、渚に良く似た、1人の少女が入ってきた。
その姿を見た瞬間、俺は涙を流していた。
「あれ~?僕何処から来たの?どうしたの?何で泣いてるの!?」
「生きてたんだな、この世界で」
「え? 何?……え?」
「沙耶、俺だよ…刀夜だ」
俺は、鏡花水月を腰から抜き、茎を沙耶に見せた。
「刀夜お兄ちゃん!? 嘘、あ…あぁ…これ憶えてる。蔵にあった刀だ……少しだけ長さが違うけど、名前彫ってある……お兄ちゃんの」
そこからは、お互いに抱きしめ合い泣いた。
背丈も歳も沙耶の方が上になってしまったが、この世界で再会する事が出来た。
お互いに、落ち着いて冷静になると、疑問に思った事がある。
あまりにも、今の渚と沙耶の姿が似すぎているのだ、髪の毛の色と1部の大きさ以外。
その事を沙耶に話すと、沙耶は驚く話をした。
「だって、渚に私の血を混ぜた餌を、ずっとあげ続けて居たから、私の遺伝子を元にしたんじゃないの?」
「何故に?そんなもん喰わせてたの?」
「だって、普通の餌だとあんまり食べてなかったから、少しだけ混ぜた餌なら良く食べてたんだもん、今の身体だと、渚も受け付けないと思うけどね?」
「どうして?」
握れば、しっかりと握り返す手が、急に冷たくなった。
「私ね、もう人じゃあ無いんだよ。見てて、刀夜お兄ちゃん」
黒髪は、徐々に白く変化していき、肌の色も色白に成っていた。
背中からは蝙蝠の様な羽が生え、尻尾もあった。
「私はこの世界に落ちて、そのまま冥府の魔力と障気を身体に受け続けてた。身体はその魔力を受け入れる様に変質したの……見てよ、悪魔みたいでしょ?」
その姿は、確かに悪魔と言えるが、俺には関係無かった。
「確かに悪魔みたいだが‥‥それがどうした? 俺の周り、人族の方が少ないぞ?」
「……何それ?今のお兄ちゃんどうなってるの?」
「何と言うか……簡単に言うと、前世の式神が女の子に成って側に居て、婚約者達から自分達を合わせて12名はお嫁さんが欲しいとか言われてる…後は王様になるらしい?」
「……お兄ちゃん、ハーレムの主かよ!! まあいいや、お兄ちゃん、契約しましょ?テイマーのスキル持ってるでしょ?」
「あるけど、契約? 何で?」
「いやぁ、人の姿はとれるけど、歳を殆ど取らないからさぁ、お兄ちゃんが成長しても、私の姿が変わらないのは不味くない?」
「あぁ、確かに、それもそうか」
確かに、人の姿なら人族として生活できるが、歳を取らないのは、不味いからな。
「私の種族、見ての通り夢魔だけど、普通のご飯で生活出来るから、後は問題ないかな?」
沙耶は周りを見て、魔力を操ると、ベッドやクッション等は、一瞬で消えた。
「さて、必要な物は収納したし、契約はどうんな内容にしようかなぁ……取り敢えず、ほんの少し魔力を吸収するので手を打とうかな」
契約内容が提示された。
そのくらいなら問題はない。
「あぁ、それで良いなら構わない。契約だ」
「にひひっ……契約成立だね、お兄ちゃん?それともご主人様の方が良い?」
「どっちでも良い、早く出るぞ、オルクス様にこの場所返さないと」
俺は、沙耶が収納したもの以外の、ゴミやこの場所の物ではないものを確認して、異空間収納に別個収納した。
オルクス様の元に戻ると、オルクス様は塒の確認をしながら頷いて。
「ルーク、そしてサヤ、再び出会えて良かった。そろそろルークの身体も危なくなるから、我の空間から元の場所に戻そう」
オルクス様はそう言って、新しい扉を出現させた。
「この扉を開けば、ダンジョンの外に出られる。丁度ルーク達が、転移陣を発動させた頃の外にな。後はルークに、これを授ける」
オルクス様の魔力塊が、俺の身体に入り込んだ。
「これは?」
「何かの拍子に他の龍達に会ったら、これを見せれば、ハイぺリオン以外なら、何かしら助けてくれるだろう」
身体に入り込んだ魔力は、俺の魔力と混ざった。
俺の右手には、指輪が握られている。
ブラックダイヤモンドの宝石が中央に填まって居る指輪だ。
「おそらく聖域を開拓する際に、他の龍達がお前を喚ぶだろうから、常にその宝石を持っておけ、良いな?」
「わかりました。有難う御座いますオルクス様」
「ではな、利人の同郷者よ。…また会おう!!」
俺は、オルクス様が用意した扉を開き、外に出ると、カミナ達が隣に居た。
カミナは、一瞬妙な顔をしていたが、何も言わなかった。
「さて、これで本日の訓練は終わりですが。アイテムはどう分配しますか?」
アナハイムさんが尋ねてきたので、特に欲しい物がなかった俺は、最後に選ぶ事にした。
ソルとギルバートは、霊晶石と魔石を取り、ルフィエルさんは、鍋とぬいぐるみ。
俺とカミナで鍋と雪羽の羽根、壊れた腕時計を貰った。
馬車に乗り込み、来た時と同じ様に揺られながら、王都の外壁に戻り、王族関係者用の扉をくぐり抜けて王城に着いた。
アナハイムさんから、お風呂を勧められて入浴をした。
温泉では無い物の、広さは同じくらいだと思う。
「あ~あ、極楽極楽」
俺は入浴を満喫していると、ガタガタと扉が動き、バンッと大きな音と共に、扉は開いた。
開いた扉から現れたのは、フェンリル形態のカミナと、何も着ていない婚約者の姿。
そして、渚と焔、雪、桂花、メア。
この場に居たのは、婚約者の四人が、話していた九人と、闇護りのメアさんだった。
「へぇ、この子達が、お兄ちゃんの婚約者さんだね、成る程」
その場を混乱させる者が、俺の頭上に現れる。
「やはり貴様か、沙耶」
「あぁ、妹様じゃないですか」
カミナと渚の声が浴室内に、響き渡った。




