護り人の試練
「幻霧の護り人、デアドラの名の元に、聖域の門を開きます。━━開門」
宣言と共にデアドラさんが、両手を扉に当て魔力を流すと、魔術回路が内臓されているのか、巨大建造物の扉に刻まれた溝へ光の線が走り、扉が互い違いに開いていった。
「さぁて、何故ここに呼ばれたか分かるかな?」
「聖域の説明ですよね?」
「ふむ、何で呼ばれたかは覚えていたな」
「流石に馬鹿にし過ぎだろう。霧の?」
「私が説明をしましょう。貴方には、聖域の王たる証を証明してもらう。良いですね?」
女教師っぽい天使族のティアさんが、ボード使いながら説明をしてくれる。
「先ず図面上で周辺説明をしますと、この『聖域』を中心に、私達は、6ヵ所の集落を形成しています。私達は、護り人で在ると同時に、長でもあるのです」
「では、後二人の護り人が居るのですか?」
「普通ならそう考えるでしょうが、答えは否です。残りの集落は、少し特殊な物と成っています」
「特殊ですか?」
「残りの集落の内、1つはこの世界の外から来た異邦人の子孫が暮らす集落。もう1つはエルダードワーフの暮らす火山地帯を利用した集落です」
「異邦人?」
「貴方も知る言葉なら、異世界人と言う所です。この2つには、長が居ません」
「何故ですか?」
「異邦人の集落は、言葉が通じない為、会話に成らず、私達を攻撃してきます。エルダードワーフ達に関しては、己の技術を向上させる事しか頭にない男達が大半なので、集落としては崩壊しかけています」
異世界人の集落とエルダードワーフの集落か、なんとも面倒くさい事になりそうだな?
と内心思ったら、次の言葉は案の定だった。
「貴方には、エルダードワーフの集落と異邦人の集落を何とかしてもらう。それが2つ目」
「2つ目?では1つ目は何ですか?」
「………自力でここにたどり着く」
ティアさんに聞いた事を、いつの間にか後ろに居たメアさんが、答えた。
「珍しいな、メアの奴が初対面にここまで近づくとは」
デアドラさんが、目を丸くして驚くと、次の瞬間
「メア、その男は私のコレクションに加える予定の者だ。他の者では駄目なのか?」
と優しい言葉を掛ける男性の声が響き渡った。
内容は、穏やかではないが。
「……や」
「そうか、娘の頼みだしなぁ、仕方無いか?」
「姿見せずに、人を物扱いする貴方は誰ですか? 俺はルークです」
「フム確かに礼儀に欠く行いだ。姿を現そう」
男の声が、聞こえたとほぼ同時に、無数の蝙蝠が、人の形を成し、若い男性が姿を現した。
「私は先代の闇護り。アーカム・シュヴァリエ。【吸血鬼の王】そして、見ての通りメアの父親だ!!」
いつの間にか、片腕にメアさんを抱えた、見た目二十代前半のイケメン男性が、こちらを見ていたが、その雰囲気には覚えがあった。
ジークリッドさんとレイさんに瓜二つだった。
「あの親バカは放置で良いわ、ヴァンパイアロードとか言っても、この中じゃ一番弱いし。元は人間だしね」
「そうだぜ、ヴァンパイアロードの眷属だったのが、死にかけたロードから魔石を奪い吸収しやがったのが奴だ。普通なら死ぬ可能性が高い賭けだが、勝ったわけだな」
「まぁ、元が人なだけで吸血鬼の本能が薄いから仕方無いだろう?そもそも吸血鬼の吸血は、己の身体に適合する血しか受け付けない。見境無いのは、吸血鬼の人為的変貌書を使って、誕生した紛い物だ」
その目には忌々しいといった感情が浮かんでおり、その口許には、見つけ次第葬ると言わんばかりの残酷な笑みが浮かんでいた。
「アーカム、先程のコレクションするというのは、どうゆう事ですか?」
ティアさんは、アーカムの言ったコレクション発言に対して追及を始めた。
「何、こいつの行動を見ていたのでな、私の城に呼んでも良いと思えたら、コレクションに加える予定にしたのだ。戦闘映像のコレクションにな!!」
「何ですか、それは?てっきり標本かと思いましたよ」
「そんな酷い事が出来るか。長い間生きていれば娯楽が足りなくなるのだ、強者の戦闘映像はその美しい業や、力強い一撃など、様々な楽しみがある。女には解るまい、朧お前はどう思う?」
「確かに、達人同士の闘いは手に汗握る物だ、だが俺達の集落には、鬼神様の祭りで行う『闘神祭』があるからな。そんな見るだけなど、つまらん。闘わねばな」
そう答えた朧さんは、二の腕をグッと曲げ、ニカッと笑った。
「話を戻します。…どこまで話しました?」
「異邦人の集落とエルダードワーフの集落をどうにかしてほしいと言った所です。ティアさん」
「あぁ、そうでした。ありがとうございます。他の試練は、それぞれの集落で行います。どの集落も、この聖域から道に従って行けますので、再びこの地にたどり着いてからが、本番になります。良いですね?」
「分かりました。取り敢えず、第一にこの中央まで来ることが絶対条件で、その後2つの集落の問題解消と、護り人の試練を合格する事が、証になるんですね?」
「そういう事だよ。さて、坊や、そろそろ戻るとするよ」
デアドラさんがそう言うと、再び霧に包まれた。
「それでは、またお会い致しましょう」
「先ずは俺の集落に来いや、旨い物をたらふく喰わせてやらぁ」
「それではな、また会おう……む?」(……えぃ)
「メア、もど………」
最後の方はバタバタしていたが、見送りを受けて今後の方針となる目標は決まった。
6ヶ所の集落を周り、試練を受け証を立てる。
ゼノさんから貰った『原初の魔導書』に載った魔導具は既に制作を始めている。
ウンディーネの月を全部使い、そのまま学院生活と、試練両方をやってやろうと、俺は決意を固めたのだった。
「……くふふ…んっ…」
霧が晴れると、俺が居たのは俺の風呂用の館内、客間(洋室)だった。
そこには、他の護り人と一緒にいる筈のメアが気持ち良さそうに、ベッドで眠って居たのだった。
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【聖域の扉前】
「メア……メアが……」
「あぁ、珍しく近づくからどうかしたかと思ったが、成る程な」
「メアちゃんそろそろだろ?」
「何が!?」
「いや、貴方、父親でしょうが、覚えておけよ、半分でもあの娘、吸血鬼でしょ」
「まさか、……ウワァ~~嫌だ!! 聞きたくない!!」
アーカムはうつ伏せになり、両耳を手で塞いでいた。
「あたし等も、いい年した男が駄々っ子する姿なんざ、見たかないよ。仕方無いけど、メアは坊やに任せておくよ。あたし達は仕事に戻るよ(まさか、あの娘のバディーが坊やとはね)」
アーカムの駄々っ子は、暫く続いて居たが、最後には、娘の成長として受け入れるよう、女性陣からの総口撃で、吸血鬼の王は倒れ、終いと成った。




