聖域の護り人
【ウンディーネの月1月1日 】
【フューネラルデ・サンバリュー商会】
錬金術師のミスリルカードを持って、俺はフューネラルデさんの仕切る表館応接間に居た。
「待たせたわネ。それでは商談を始めましょうか?」
「お願いします。今回の商品は、このペンライトとハンディライトです」
俺は二種類のライトを取り出し、テーブルに乗せた。
一つは指で持てる大きさのペンライト。
もう一つは、先程の物より少しだけ大きな、ハンディライトだ。
「また、面白そうな物を造って来たわネ?どう使うのカシラ?」
俺は使い方を説明し、実際に使用して見せた。
暗い部屋にレンズから伸びる光が、周辺を照らす。
「これは、光系統の魔術が使えない人には、嬉しい商品ネ。こっちのペンライトは狭い暗所での作業に適しているワ…金額的にも素材的にもバランスが取れてるから大丈夫そうネ」
「では、此方の商品を取り扱いして貰えますか?」
「これなら騎士団や冒険者にも売れるし、一般家庭にも、有ると便利だからネ、扱わせて貰うワ納品方法はどうするの?また此方での作成?それともルーク君の卸しカシラ?」
「今回も提携でお願いします。後、これが俺の錬金術師のランクです」
ミスリルカードを提示し、担当試験官のサインを見たサンバリューさんは、特に驚きはしなかったが、目を閉じてから一言だけ。
「……ミスリル位……付加価値が高過ぎるわね、ルーク君は1日に何個までなら作成出来るカシラ?」
「そこまで魔力使わないので、この作業だけならかなり出来ますね。一時間休んで、1万5千個は作れるかな?」
「なら大丈夫そうネ、ルーク君。この魔導具を最初の販売分7千個で行くわヨ。で、その後は、受注生産の体制で行きましょう。必ず購入者が食い付くわヨ~!!」
「何故受注生産にするんですか?」
「簡単な事よ、この商品は製作者名がルークちゃんの名前で、商人ギルドに登録されているの、つまり、特許が発生するのヨ。で、ソースの時は、レシピをアタシ達に売って貰う代わりに、売上の一部を契約で渡しているんだけど、この商品に関しては、『ミスリルカード所持者が作成した物』という一種のブランドが付くの。これは偽ることが出来ないから」
「ふと思ったんですが、遺跡やダンジョンからこういった物が、出現して、同じものを作ると、利権とかはどうなるんですか?多分これと同じ物が一度は出現してもおかしくはないと思うんですが?」
眼鏡や時計などは、この世界にもある。問題なのは、異世界産の漂流物だ。
「ああ、確かに似た物は、発掘された事があるワ、でも、こういった物は、大半が壊れているカラ、ただのガラクタとして扱われる事が多いわネ。寧ろ、鍋や食器、眼鏡の方が、値段が高くなるワ。再現しようにも、理解不能な物を分解した途端に、爆発した事も在るくらいだから先ず無いわネ。」
「じゃあ、流れ着いた中で使えるものは在りましたか?」
使えるものは無かったのかをフューネラルデさんに聞いたと同時に、後ろから返事が返ってきた。
「何個かは、在ったみたいだけど、直ぐに使えなくなったらしいから、ガラクタ扱いされたわね。だから坊やの造ったそれは、完全に『坊やの物』よ」
「アラ、珍しい。随分久しぶりじゃないの、ダリエラちゃん」
「一応こんな成りだけど、貴女よりかなり年上なんだケド?フューネ?」
そこに居たのは、俺より少しだけ小さな身体に、身体と同じ大きさの、透き通った羽を持つ緑髪の女性が立っていた。
━━━妖精族と呼ばれる者達だ。
妖精族は、エルフの中でも古い、エルダーエルフと同じ、創世期(リヒト王達の時代)から存在する種族の一つであり、水精族、木精族など様々な枝族が存在する。
彼女の枝族、は見た感じでは分からないが、おそらく木精族だと思われる。
「ダリエラちゃんは何用かしラ?」
「あぁ、そうだった。その坊や借りるわよ」
「???」
「何も知らないみたいだし、ゼノから頼まれたから、この坊やに教えなきゃいけないのよ……貴女も知ってる『聖域』の事よ」
「あぁ……分かったわ。話は終わってるから、ルークちゃん。品物お願いね、素材は足りなかったら初売り分はアタシが出すから、注文して」
「分かりました。それではよろしくお願いします」
ダリエラさんに誘われ、フューネラルデさんとの商談話も終えた。
そのままついて行くと、辺りが白い霧に包まれた。
「あぁそうだった。さっき名前は聞いたと思うけど、改めて名乗るわ。ダリエラ・ユーティよ。聖域の護り人の一人、霧のダリエラだ、宜しく」
「これはどうも、ルーク・フォン・ラーゼリアです」
「あぁ、知ってる。我らの泉を含めた地を統べる者だろう?ルーク・ラーズ・アマルガム。利人と同じ転生者よ」
「!?」
ダリエラさんは、俺の事を転生者と呼び、魔力を放った。
周囲の霧が晴れ、見渡せばそこは城下町ではなかった。
そこに広がるのは、湖と明らかに人の手で造られた巨大な建造物が佇んでいた。
「ここは?」
「坊やが治める領地の中央、ゼノが言ってたと思うけど、湖に浮かぶ中島。その中央にある我ら護り人の集合場所さ……皆、ルークを連れてきたよ、顔を見せな!!」
「そいつがそうか?霧の?」
「随分若いのだな?」
「…………」
「取り敢えず、挨拶しな!!」
ダリエラさん以外は、妖精族は居なかったが、ある意味ではヤバい種族だった。
最初に言葉を発した男は、頭に二本角を持つ鎧を身に着けた、浅黒い肌の男。
記憶に間違いがなければ、【鬼神族】しかも、かなりの上位種だ。
次に話しかけて来たのは、白い髪に、鳥のような翼が生えている女性。
一瞬鳥人族かと思ったが、手が人の物だし、その翼は背中に生えていた。ゲームで見た天使に瓜二つだった。
最後の一人は無言で、全身を黒いドレスと、傘を差す女の子だった。
「おぉ、それもそうだな。ルークだっけ?俺の名は、朧だ。月護りの朧 見ての通り、鬼神族の者だ」
「私の名はティア…天護りだ。今は知らないものが多いが、天使族だ」
「………メア。 闇護り……半吸血鬼」
予想外の接触は、俺の頭に混乱をもたらしたが、この出会いは必然的な物だと、俺は感覚的な所で理解していた。
「それじゃ、中に入ろうか?」
ダリエラさんの言葉で、俺達は、移動を始めたのだった。




