SS ハッピーバレンタイン!!
バレンタインですので、ちょっとした記念SSです。
【ウンディーネの月3月14日】
それは、カミナと渚の一言から始まった。
「「ルーク(様)、チョコレートだ(です)受け取れ(ってください)」」
バレンタイン、前世で行われていたイベントの一つだ。
元は、キリスト教の司祭をしていたバレンタインが、結婚できない若者たちをかわいそうに思い、隠れて結婚させていたのだが、当時のローマ皇帝クラウディウス二世の耳に入って捕えられ処刑された日だという。
日本では、お菓子業界の販売促進に使われて居た。
しかし、ここは異世界ベルフォート。
そんな行事があるとは思えなかったが、カミナ達から貰ったのはチョコレートのお菓子だった。
しかも、この世界の文字で、ハッピーバレンタインと書いている。
「ありがとう、二人とも。でも何でバレンタイン?」
「いやなに、今日の依頼を終えて帰る途中で、これを売っているのを見つけたのでな、買ってきた。まぁ、ちょっとした記念日だしな」
「渚も同じ理由ですね。時期も前世界の月に当てれば同じくらいでしたし。ですので、少しだけ改良をして、文字を入れてみました」
前世では、クラスの中にスポーツの選抜選手とかが居たので、俺は目立たない様に生きていた。
その為、チョコなどは貰っても、義理チョコが大半だった。(まぁ、家の事もあり、余り興味も無かったが…)
「へぇ…良いこと聞いちゃった。皆にも教えなきゃ…行くよ雪」
「うん…お兄様に…喜んで…貰う…の」
狐耳と尻尾を揺らし、二人の姿は館から消えた。
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二人の行き先は、王城、ルークの婚約者エルザの部屋だった。
「へぇ、ルーク君チョコが、好きなんだ。二人とも、ありがとうね。なら三人にも伝えなきゃ」
エルザは、手鏡を取り出し魔力を込めた。
「あら、エルザどうしたのかしら?」
「エルザちゃんどうかしましたかぁ?」
「エルザ、どうしたの?」
手鏡には、リーフィア、ソフィア、エリーゼの三人が姿を写していた。
「皆大変なの!! 今ね、ホムラちゃんとユキちゃんから聞いたんだけど、ルーク様の好きなものが一つ分かったよ」
「「「詳しく教えてもらいましょうか」」」
「チョコを使ったお菓子を、今日カミナさんとナギサさんが用意していて、ルーク様に渡したんだって。それで、記念日がどうとか言ってたんだって」
エルザは、二人から聞いた事を、そのまま説明していた。
「ルーク君の誕生日にはまだ早いし、何の記念日かしら?」
「でも、あの二人で記念日なら、何かあるのかも?」
「まぁ、何の記念日かは良いですわ、チョコなら公国チョコが一番ですわ」
「リーフィア、帝国の専門店を舐めてもらっては困りますよぉ」
「でも、二人共、お店で買うだけだよね、ならワタシは作ろうかな?」
「あら、なら私も百年前の銘菓のレシピを再現しますわ」
「「ぐぬぬ!!悔しい(ですわ)」」
そんなやり取りをしていたが、作成するにしても、チョコが無ければ話にならないので、それぞれチョコレートの用意を始めた。
焔と雪は、そのままエルザの部屋でチョコを分けて貰うことにした様だ。
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「まさか、バレンタインチョコを貰うとは思わなかったな」
カミナと渚から貰ったチョコクッキーとチョコケーキは、美味しく食べさせて貰った。
「来月にお返しの品物を用意しないといけないな」
そう思い、俺は二人のお返しを作り始めようとしたのだが、不意に背中に寒気が走った。
風邪でも引いたかな?と一瞬考えてたが、取り敢えずの品物を書き出して、商会に材料を買いに行こうと、扉が開いた。
そこには、俺の婚約者達と焔、雪が立っていた。
何事かと聞こうとすると、
「え~と、何だったっけ?ホムラちゃん?」
「ハッピーバレンタインだよ」
「わかった。じゃあ行くよ皆?」
「「「「「うん(ええ)」」」」」
「せーの」
「「「「「「ハッピーバレンタイン」」」」」」
その一言に、俺は固まった。
彼女達の手には、ラッピングされた袋が、人数分あるのだ。
おそらく、カミナ達の事をどこかで聞いたのだろう。
個数は、問題ない、6個なら食べ切れるだろう。
指で摘まめるサイズなら。
明らかに、手作りしたと思われる、クッキーやケーキ、高級店の箱がそこにはあった。
「ルーク君がチョコ好きだって聞いたから、皆で持ってきたんだよ。受け取って」
「(……お兄様?…迷惑?)」
「ありがとう、嬉しいよ(いや、ビックリしてるだけだよ、雪)」
「所で、記念日と聞いたのですが、何の記念日だったのですか?」
大きさに対して、多少の困惑はしたが、甘いもの自体は嫌いじゃ無いから、素直に嬉しくはあった。
そこで、俺が転生者である所は隠して、リーフィアの尋ねた事に、知っている事をそのまま説明をした。
すると皆は、少しだけガッカリしていたので、ホワイトデーの事を話すと、一様に表情が明るくなった。
せっかくなので、そのまま貰ったケーキや皆で食べれるものをその場で食べることにした。
流石に全て無くなりはしなかったが、残ったのは片手間に摘まめる物だけだったので、いきなり開いたお茶会は、食べ終わるとそのままお開きとなった。
まぁ、たまにはこんな日も良いかと、俺は内心思ったのだった。
因みに、焔と雪のチョコは、素材を溶かして固め直した物だったが、魔術を巧く使っていた為、同じチョコを使ったものらしいのだが、違う食感や風味があったので、今度料理をするときに、試してみようと思った。
「さぁ、ホワイトデーが大変になりそうだ」
皆が帰った後、俺はそう言って書き出したメモを見るが、ホワイトデーにどうなったかと言うのは、また別のお話である。




