ああ、異世界テンプレ
馬車に揺られて、どれだけ時間が経っただろうか?
俺は今、王都レシアスに向かう為、父様とお母様、兄弟のカイン兄様とルシアン兄さんとで馬車に乗ったはずだった。
しかし今、馬車に乗っているのは、近い年の女の子3人と座っている。
「ルーク様、どうかなさいまして?」
「ルーク君、狭くないかなぁ?もっとこっちにおいでよ」
「リー姉様もソフィア様もズルいですわ、ワタクシにもルーク様の隣、代わってくださいまし」
「えっと……対面に座るのは駄目でしょうか?」
「「「駄目((ですわ))(だよ)」」」
どうして、こうなっているのか、それは今から半日前の事。
宿場町メゾンの貴族用の宿で休んでいると宿屋の主人が、
「王都レシアスに向かうなら道が、2日前に崖崩れの為に、通行不可能になっていますよ」
と情報をくれた。
山道の方が近いが、すぐさま森を抜けるルートに変更し、林道を進む事になったのだが、森に入った所で、
「金属のぶつかる音、血の匂いがする。臭い人の匂いもある。襲われてるな、助けるか、行くなら乗れ」
とカミナが言った為、カミナの背に乗り駆けていく。
「父様、お母様、人が襲われているみたいです。助けに行ってきます、ダリウス」
「「ルーク、待ちなさい」」
「ルーク様こちらを」
「コラ、ダリウス何を渡してるの」
「奥様、大丈夫ですよルーク様は私から何回か一本を取っておりますから」
と父様とお母様が止める最中、ダリウスが俺専用の武器を渡す。
錬金術と創造で作った愛剣、【深紅の魔爪】
片刃の片手剣、フラメア鉱石とミスリルを使った中級魔剣だ。
魔力を流して、刃に薄く纏わせ焼き切る、燃やす事に特化させた業物にしてある。
本来なら双剣の予定だったが、父様が火と水の中級魔双剣フラム・レインを使った技を見て違う属性を使用したいと思ったから一つしか作らなかった。
しばらくすると、金属同士がぶつかる音と叫び声が聞こえてきた。
「クソ、数が多い、どれだけ居るんだ」
「隊長、左翼部隊壊滅です」
「お前達、積み荷と女は傷つけるなや」
「「「へい、お頭」」」
お頭と呼ばれた男は、大鉈を持っており、如何にも山賊です。
といった風貌で手下に指示を出していた。
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『馬車の内』
「リー姉様、ソフィア様、ワタクシ達は助かるのですか?」
「エルザちゃん、大丈夫よ、きっと助かるわ」
「ソフィア………もう駄目よ……皆死ぬか、慰み者にされて……奴隷になるのよ」
「リーフィア、そんな事無いわ、きっと助かる」
馬車に伏せるように隠れた少女達は、息を殺して耐えていた。
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「あれが盗賊か、確か生きて捕まえたら、犯罪奴隷にしてお金になるんだよな」
「あぁ、大物だと死んでも証拠になる物が有れば良い」
「前世も呪殺とか受けてたから、少しでも慣れておかないと駄目だな」
「私は、魔獣や魔物相手にするより楽だわ」
「じゃあ、行くよカミナ」
「報酬額が多ければ肉だからな」
「了解、先ずは周辺を」『探知』
カミナと確認しながら、周囲を無詠唱で確認、
護衛と対峙していた手下とお頭に魔術を使った。
「馬車の近くに30名、向こうの高台に、10名の反応か」
場所を確認して馬車の方に向かう。
そこには怪我を負った女騎士が2人いた。
「騎士として不覚、私に力が有れば……クソ」
「私達、どうなるんですか?」
「山賊どもの慰み者か奴隷だろう」
「イヤですよ、まだ結婚もしてないのに」
草むらから、隊長らしき人に話しかけた。
「静かに聞いてください、助太刀します」
「何者だ?」
「味方とだけ言わせて下さい。盗賊退治して、お金を得たいのです」
「判った、どうすれば良い」
「今から、私の従魔が飛び出して撹乱させるので、少し戻った道に来る馬車を、案内して下さい」
「判った、貴殿はどうなさるつもりで?」
「私は馬車の周囲を確保して頭を潰します。」
「顔も見ていない相手だが、信じるとしよう。武運を祈る。どうか中の人達を頼む」
「お任せ下さい」
俺は、駆け出しながら返事をした。
そして、馬車の周囲に居る手下達に、魔術を無詠唱で放った。
『感電蛇』
魔力で作った雷の蛇は、山賊の足下を這いずり、感電・気絶させていく。
「捕らえて置く檻も必要だな」
『泥人形の牢獄』
痺れや気絶している盗賊を、泥人形達が捕らえて、顔だけ出した状態で、自分達の身体に閉じ込める。
反対側は、カミナが敵を撹乱しており、盗賊の叫び声が、響き渡る。
「ゴアァァァ」
「剣が折れ……ガハッ」
「腕が……腕がねぇよ……」
「お頭を呼ばねぇと…グッ」
鮮血が飛び散り、蹲る盗賊達と返り血すら浴びない速度で、木々を駆け抜けるカミナ。
他者の目からすれば、魔術と魔爪で、武器や腕を飛ばし、無力化している姿は、正に怪物としか表せない姿だった。
「こっちも負けられないな」
愛剣を構え賊の中に、斬り込むと同時に風の魔術でスピードを上げる。
刃先に白焔を纏わせて一閃、斬られた先から嫌な臭いすらさせる事なく、焼け落ちる。
隠れて森で行っていた魔獣や魔物を倒すのと、同じ様に心を無とする。
繰り返し、《ただの一つ隙を見せず、されど誘い込む様にして、斬り込む》ただそれだけの技。
一息ついて刃先から血を落とす。
ようやく賊は相手の姿を見るが、ただただ己の目を疑うばかりであった。
そこに居るのは、紅色の片手剣を持つ少年の姿と、馬車から駆けて来た白狼だからだ。
「何だ、このガキと狼は」
「さっきから何なんだよ、叫び声がうるせぇぞ」
「お頭、デケェ狼の魔獣とガキが……」
2人の内、報告をしていた賊の頭が跳んだ。
「フン、たったガキ一人と一匹に手玉にされてんじゃねぇよ」
「言っても聞かないと思うけど、捕まる気は無いよね?」
「ハッ、山賊のバーン・バラード様がガキ相手に捕まるかよ、手下どもを殺ったからには、死んでも構わんのだろぅ」
「交渉失敗、お小遣いになってよね、おじさん……フッ」
構える前に突き出した剣先は、鉈の腹に止められた。
「ガキのクセにえげつねぇな」
バーンは目を見開き鉈を引こうとした瞬間。
━━パキッ
何かが割れる音がしたと同時に、鉈は折れて地面に突き刺さる。
バーンが目を手元に向けた瞬間、痛烈な痛みと
紫の稲妻が、身体から出て行くのを見て気を失った。