お母様《トリアナ》の秘密
【シルフの月3月20日 17時】
俺は先にラーゼリア領に戻ると、父様の執務室にノックを鳴らす間も無く、駆け込んだ。
「こら、ノックくらいはしてから入りなさい」
「父様、そんな暇ありません。急ぎ貴族の礼服を着てください」
「今度はどうしたんだ?」
「今後について話があるそうで、ジークリッド陛下、レイ皇帝、ソドム大公、龍帝ゼルガノン様達が来ます」
「………」
父様からの返事が無かったので、顔を見ると表情が真顔のまま固まっていた。
「まぁ、ルークちゃん、お帰りなさい。丁度良かったわ、錬金術師の試験の案内が、今日届いたわよ」
「ただいま、お母様。今日、4国の王様達が来るから、父様の貴族服を出してもらえますか?」
「あらあら、わかったわ。ライザ」
「畏まりました。奥様、此方でよろしいでしょうか?」
「…うん、大丈夫です。ありがとう」
ライザさんは、執務室の隣にある部屋から、直ぐに父様の伯爵になった際作り直した服と装飾品を取り出して来た。
「ルークちゃん、後はしておく事ないかしら?」
「多分大丈夫。それじゃあ一回戻ります」
「いってらっしゃい、ルークちゃん」
「いってきます。お母様」
挨拶をして、直ぐに自分の館の方に向かう。
屋敷も早ければ、残り数ヶ月で改装工事が終るらしい。
屋敷を眺めながら、自室に戻るとそのまま部屋に居た渚に、今晩はラーゼリア領に戻る事を話すと、エルザの部屋に戻った。
「おや、ルーク君おかえり。どうだった?」
「エリーゼ……なんか今後についての話を俺の両親と陛下達とでする事になったよ」
「おぉ、成る程、成る程じゃあ私達も行こうか」
エリーゼがそう言うと、荷物を持った三人が、にこやかな微笑みを浮かべ、エリーゼの横に並ぶ。
「本当に、エリーゼの予想通りになってますわね、でも楽しみですわ、ルーク様の故郷と家に行くの」
「だよね、わたし、ルーク様のお部屋見たいな」
「私はご自宅の周辺を一緒に廻りたいですねぇ」
「私はルーク君の工房が見たいな、どんな道具や素材を普段扱っていたのかが気になっていたんだよね~、私の時代に有った技術がどこまで通用するのかな?」
うん、皆色々はしゃいでいるね。エリーゼ、君に関しては本性が出かけてるよ。
断っても多分無理だろうから、連れていく事になるんだろう。
4人家に追加と渚に念話すると、渚からは。
「何となくの予測をして、ライザさんとお部屋の用意は済ませております」
優秀なメイド長は、そう告げて念話を切った。
カミナは既に、ラーゼリア領に一人で戻ったらしく、渚から食材の狩りを言われていると念話をしてきたので、残っているのは俺達だけの様だ。
そうこうしていると、陛下達を連れていく時間になったので、再び陛下の自室に皆で向かう。
そこにいたのは、各国の王達と王妃達の姿だった。
「では行くぞ…?何故娘達がここに?」
「あら、序でですからグランツ伯爵の奥方とお話を私達がしたいと言ったでしょ?」
「うむ、それは聞いた」
「なら娘が行くのに、何の理由が要りますか?」
「特に理由は要らんのぅ」
「それに、本物の『ヘルセルの女神』に会いたいですからね」
プレア王妃の言葉にソドム大公が同意をして、話が纏まっていた。
俺は気になっていた事があるので、プレア様に尋ねたら。
「そう言うのは、本人から聞くのが筋だから、お母様に聞いてみなさい」
と意味ありげに返された。
『転移』を行うと、皆驚いていたが、ゼルガノン様からは展開している間に、解析されたようで。
「これは面白いな、魔術式が複合型になってるのか、利人の魔術式を巧いこと改良したな」
「えぇ、ゼルガノン龍帝陛下の報奨が役に立ちました」
「なら良かったぜ…つーことは、あれ全部読めるんだな?」
「はい、問題ないですよ?」
「……普通に解読不可能な文字があったんだがなぁ。まぁ、ルークだからいいか」
そんな会話をしながら、ラーゼリアの家に着いた。
外には父様達が、集まっており、出迎えてくれた。
「ようこそ、御越しくださいました。グランツ・フォン・ラーゼリア伯爵と妻のトリアナです」
二人は跪き、最上位の礼を行う。
「お久しぶりね、ヘルセルの女神、トリス・メイル・ヘルセル?」
「その名は、遥か昔に棄てました。今は『魔導具の大図書』が通り名で、この人の妻に御座います。プレア・メイル・ヘルセル様?」
「ようやく、貴女を見つけることが出来ました。トリスお姉様…」
「私は見つかりたくありませんでしたわ。プレア」
何がどうなっているのか、さっぱり分からなかった。
何故、プレア様がお母様を見て、姉と言ったのか?トリスとはどういう事なのか?不明な点が多かった。
前に、呪術人形を確認に来た陛下達の姿に妙な物を感じたのも、『ヘルセルの女神』の名だった。
陛下達を屋敷のに案内し、先に父様と話をすると言われたので、お母様と王妃様達、婚約者達
と待つことになった。
先程の内容がどういう事なのか訳がわからない為、お母様に尋ねると、お母様は
「そうね、少し昔の話をしましょうか。ヘルセル領が、今の形になる前のお話を……」
と話し始めた。




