エリーゼ・ル・ヴァシュロンの回想
僕の名は、今は『ロアッソ・ヒァリ・ノード』……でも、それ以外の名前もある。
私のもう一つの名前は、『エリーゼ・ル・ヴァシュロン』
百年前に、18歳で暗殺された錬金術の名家ヴァシュロン家の人間です。
最初の頃は、自分の性別とこの体に違和感はありませんでした。
5歳の誕生日を迎えた翌日から、違和感を覚え始めて、2週間も立つ頃には、完全に前世の記憶を思い出しました。
今の家族と呼べる人は、お母様だけで、父親は帝国の貴族らしい。
ノード家の当主は、銭下馬な上に女好きな駄目領主で、お母様には興味も無い様子だった。
転生した事に自覚してからは、この家の事を知る為に動いていたが、出てきた物は黒いものばかりでした。
気に入った娘がいれば、金で買い。
気に食わなければ、不敬罪で処罰する。
他にも屋敷内の警備兵の家族を薬や魔術の実験台にしたこともある。
私が介入して助けたこともありましたが、どうにもできない事もありました。
暫くして、王都の魔術学院『ドラムシアス』の入学試験を受けることになりました。
当主は子爵家の名を王族に売り込もうとしていた様で、私の持つフル・マジックに後もう一歩手前なスキルや、前世の記憶から引き継がれたスキルを見て、時期当主としたらしい。
もう一人ベマルドという兄が居たようだが、私の記憶に無いことから、どうやらスキルの簡易確認が終わった辺りで、廃嫡されて追放をされたようだ。
スキルに関した書類を見つけたので見てみれば、特に奴隷商人のスキル等を持っていた様だ。
試験当日に、王女・公女両殿下とお会いし、運良く同じ歳だと知ったが、前世が女で今世が男な私は、まっっったく心の反応が無かった。
確かに可愛い女の子と綺麗な女の子だが、個人的には、間に挟まれて居た男の子にときめいてしまった。
前世では恋人も作れず、『お一人様』や『行き遅れ』と称され、錬金術で革命児と呼ばれる発明をしてからは、暗殺者に怯える人生だった。
なので、今世は恋に生きる為に、彼に近付く所から始めた。
手始めに先程の無礼な態度を謝る様に近付く。
「先程は、父様が無礼を働いた事ごめんなさい」
やっとの事で、出た言葉はそれだけだった。
会話も続かず、隣を歩く事しか出来なかった。
魔力測定器の所で、ようやく止まるまで、私の心臓は、ずっと高鳴っていたが、彼の測定を見て、驚いた。
魔力を測定器の中で操り、形を変化させて行くのだ、花の形を作り終わると、私はエルザ様達と一緒に、彼の魔力と姿を見ながら、
「綺麗なお花ですわ」
と言ってしまった。
当然二人からは、性別に関して質問をされてしまい、正体を隠す必要性があったが、二人には何故か話してしまった。
「そうだねぇ、ソフィアちゃんと話してみないとかなぁ?」
「ですわね、……しかしヴァシュロン家ですか、あり得なくない話ですわね、性転換薬を作り出す程ですもの」
「信じてくださるんですか?」
「「だって、嘘ついた顔じゃないもの、女の子の顔してるし」」
どうやら、気が付かれる程に、彼に惚れている様だ。
転生前から数えて、合計23歳ではあるが、運命の出会いなのだろう。
色々な試験を行って、何とか試験が終わったが、一つ認識を改める必要性があった。
彼は、間違いなく転生者━━それも異世界の転生だと思われる事だ。
彼の魔術は、基本的に無詠唱で、魔術陣もほんの一瞬現れるといった、上位の魔術戦闘職の人間が使う手段だった。
既に男爵の爵位を持つとは聞いていたが、明らかに実力の底が見えなかった。
そして、ナギサと名乗ったメイドさんとカミナの二人には、ルーク君の関係がただの知り合いとか言うレベルのものでは無かったことだ。
ナギサさんは、前世でご主人様だったと言っており、違う世界から渡ったと明らかにしていた。
カミナさんに関しては、意味が分からない。
明らかに人ではない魔力と妙技、そしてドラムシアスの学院長であるグリムガルト前陛下から、『理の外に連なる者』とか呼ばれていた。
そして、あの館と温泉に驚愕し、私は決めた。
「よし、ノード家を取り潰して、私らしく生きよう」
この決意は、この時に決まった。
その日の夜、ルーク君の婚約者であるエルザ様リーフィア様の両名に会うため、部屋に向かうと、他の声が聞こえてきた。
扉をノックすると、エルザ様が出てきた。
「今、良いかな? お昼の事で話があるんですけど?」
「うん、丁度良かった。今3人共揃ってるから、入って」
「まぁ、ローちゃんですわね、入りなさいな」
「失礼します」
声に反応する様に、リーフィア様からも呼ばれる。
中に入るとエルザ様達は、ソフィア様に説明を始めた。
「ソフィアちゃん、彼…ううん?彼女はエリーゼちゃん私達の四人目にどうかな?」
「えぇっとぉ……ごめんなさい、話が分からないわぁ? 彼、男の子よねぇ? 彼女?えぇっ!?」
ソフィア様は、かなり混乱をした様だ。
「ソフィア、言いたいことは分かるけど、先ず話を聞いて貰えるかしら?」
「そうね、いきなりで驚いたわぁ、私はソフィア・ロードス・ドーランよぉ、始めましてぇ」
何とか落ち着き、話を聞いて貰える様だ。
「はじめまして、ロアッソ・ヒァリ・ノードです。そして、エリーゼ・ル・ヴァシュロンとも申します」
「あなたの目的はぁ、ルーク君なのかなぁ?」
「はい、そうです。ノード家の悪事を強いられた人達の解放と、取り潰しを行い、エリーゼとして再び生きる事と、本気でルーク君の婚約者になりたいのです」
「質問をしますぅ、その為に、何をしますか?」
「前世の知識をルーク君に捧げ、この体を捨てます」
「ルーク君にぃ、余計な虫がついたらぁ、どうしますかぁ?」
「持てる技術を駆使して、処分しますよ?」
当たり前だ、ルーク君の付人だけでも、美人が多いのにこれ以上は駄目に決まってる。
「うふふ、最後の質問です。 赤ちゃんは欲しいですか?」
「もちろんです、彼が望むならその人数を産み、育てます」
「なら、よろしくお願いしますねぇ、エリーゼちゃん。私達は、運命共同体ですよぉ」
「えぇ、彼が悲しむことの無いように、頑張ります」
どうやら、ソフィア様からも、私は受け入れられた様だった。
私は翌日から、証拠の中でも特に重要な書類や焼き印を押された物を持ち出す準備や、仲間を作り、事を運ぶ流れを作っていった。
そして、レシアス陛下に書類を渡し、全ての事を為した私は、彼の館で、泥のように崩れて、眠るのだった。




