違法商人と闇商会
朝食の際に、ダリウスから商会でボヤ騒ぎがあったと聞いて、俺達は確認に向かった。
話を聞く限り、商品も店も無事であり、怪我人も出なかった様だ。
捕縛された犯人達は、揃って黙り情報を聞き出せずにいるらしい。
「今日レシアス陛下に、証拠の書類を渡す事をエルザを通じて言ってます。今から行きますか?」
「なら、納品する物があるから、一緒に持って行くワネ」
ヒューネラルデさんは奥に戻り、見たところ大体170cm前後の大箱を持って、帰って来た。
「今日の納品する物ヨ、中身はドレッシング類だから、このまま馬車に載せて行くワ」
そう言って、ヒューネラルデさんとサンバリューさんは、馬車に同じ箱を合わせて5つ積み込み 出発した。
位置から考えれば、商会を出てから真っ直ぐ王城まで進む筈なのだが、中央広場を出て直ぐの裏通りに入ると、サンバリューさんは一度馬車を止めた。
積み込んだ箱の一つを、近くの店舗内にある棚の横に置きドアの横からその店内に向けた声を発した。
「店主、頼まれていた商品を持ってきたワヨ、代金は何時もの通りヨ、後で商会に持って来てネ」
「………確かに預かった」
低い声が帰って来たが、サンバリューさんは聞いたと同時に、表通りに向かって馬車を走らせた。
「これで、心配事は減ったから、後はお城に向かうわヨ」
「何かしたんですか?」
「何でもないワヨ、商人同士の相互利用だから、別に知らなくて良いのヨ」
ニッコリといい笑顔で、ヒューネラルデさんが答えたが、商人同士の繋がりと言われたので、気にしない事にした。
馬車は何事もなく、王城の裏手に周り荷物を受け渡すと、ここからが俺の仕事だった。
先ず、エルザの呼び出しがかかり、俺が中に入る。
そしてレシアス陛下の部屋に通され、証拠の書類を渡す算段だ。
レシアス陛下は、今回の主犯格が誰か、目星がついていたのだが証拠が掴め無かった為に、踏み込めなかったらしい。
渡りに船と喜んでいたと手紙に書いてあった。
陛下の部屋に到着し、ノックをすると、中から返事が返った。
「ルーク君だね、入りなさい」
「陛下、お目通り有難う御座います。隣に居ますのが、手紙にも説明しました、ロアッソです」
俺とロアッソは、陛下の前に跪き、言葉を待った。
「良い、ここは私の自室だ、ルーク君も隣の君も何時も通りにしていなさい。…君がロアッソ君だね。……今回の件は、一度表に出たらどうなるのか分かっているのかね? 手紙には転生者と書いてあったから、私は今回君を子供としては見ないが」
「はい、全て承知の上で、この証拠を此方に持参しました。ノード家の取り潰しと私の安全さえ確保が出来れば、後の事はどうにでもなると思います」
「この件が片付いたら、どうするのかね?」
「ロアッソ・ヒァリ・ノードは、周りの眼を気にして、服毒死、妻は帝国の貴族と既に駆け落ちした。といった流れですね、既にロアッソ自体は部屋に軟禁状態という事になってますし、私の護衛達は、皆ノード家の悪行に嫌気が差していますので、協力してくれていますよ。私はエリーゼとして二度目の人生を楽しみますわ」
ロアッソは形式的に死に、ノード家も取り潰した後の事は全て解決済みのようだ。
「ならば、今回の件が片付いたら、エリーゼとしての戸籍を用意しよう、家名はどうするねヴァシュロン家の名前は使えるが? 後はノード家の領地は再編される様にしてある。欲しければ少量の領地ならば、協力者として分け与えるが?」
「家名はステンノを名乗り、エリーゼ・ル・ステンノとしたいです。領地は要りません、代わりにルーク君の開拓に参加しようかと思っております」
「確かオール・マジックの一歩手前であったな? よしならば、ルーク君と同じ学費免除と家名、戸籍を用意しておく、つまらぬかも知れんが、せっかくの人生だ、もう一度謳歌しても悪くはないだろう?」
「それでは、その内容で御願い致します。レシアス陛下の寛大なお心遣いに、感謝致します」
深く頭を下げるロアッソだが、本当に俺を手伝うつもりなのだろうか?
疑問を浮かべていると、ロアッソは俺の顔を見て、ウィンクしていた。
陛下との話し合いが終わり、俺達は再び馬車に乗り込んだ。
「じゃあ、ルークちゃんの館まで行くわヨ」
「お願いします。」
「ロアッソちゃんも女の子なのネ、顔が違うワ」
確かに、ロアッソのままでも、中性的な顔立ちをしているから似合わない事も無いだろう。
そう思い、つい一言ってしまう。
「今の顔立ちが女性化するなら、可愛いと言うよりは、美人になりそうだよね、アーサーなんかはコロッといきそうかも」
そんな指摘をすると、三人からは深いため息と
「「「これを素で言ってるから、質が悪い」」」
と一言嗜められた。………何故だ?
答えの分からぬまま、馬車に揺られ、俺の館に向かって行くのだった。
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【???】
「まさかの大物から依頼があるとはな、全く」
「仕方ないよ、今回の主犯格とあのマッド野郎、ウチ等の仕事を荒らしたんだ。挙げ句に大物さんにケチつけた」
「……自業自得だぬ、後始末も出来ぬなら、手を出すもんじゃ無いんだぬ」
三人の影は、サンバリューの置いた箱を見て、話をしていた。
「闇商会も敵に回したんだ、生ぬるい事は言わねぇ━━徹底的にやるぞ、良いな?」
「「了解だ(ぬ)」」
三人の影は、その場から消えるように別れて行ったのだった。




