違法商人と裏側
「クソガッ!!何なんだ、あの店は」
豪勢な部屋の中、酒を飲む男は荒れていた。
違法奴隷商人の商品が捕まり、商品が流れた
先に行けば、違法奴隷は売れないと門前払いされ、龍人族の女が居たから、連れ帰ろうとすれば、手足も出なかった。
店に対しては、金をばら蒔き雇った浮浪者やらを店前にたむろさせたり、嫌がらせをしたが効果は薄い。
父親は男爵の地位があるが、男にはなく、社交界に出ても、時期当主候補位しか見られなかったが、それも数年前の話である。
家督は子爵に陞爵した際に、産まれたばかりの次男が継ぐことになり、手頃な金と小さな商会を与えられ、廃嫡された男は家を追い出される。
幸い商才があった為、なんとか生活を送る事は出来たが、過去の様に贅沢は出来なくなっていた。
そんな時に、違法商人からのコンタクトがあった。
最初は、違法な商品の預りを一月するだけで、半年の売上が手に入り、それに味をしめた男が、更なる欲を出すのに、時間はかからなかった。
次第に、違法な商品を扱う事の他に、奴隷を使った実験や見世物をするようになり、裏商会の名前に載る様にもなっていた。
今回の依頼も成功すると思った矢先、違法商人達が捕まり、自身の商品をとある商会に流される事になってしまった。
「そうだよなぁ、俺は悪くない、悪いのはヘマした奴等だ。そうだ、捕まえた奴等だ」
男は部屋を出た。
それが最後の酒になるとは思っても見なかっただろう。
男の目指す方向は、王都屈指の商会ヒューネラルデ・サンバリュー商会。
しかし、今の商会は男の思っていた商会とは雰囲気が違う事を知る由もない。
怒りに体を震わせる巨人族が二人、まるで阿吽の仁王像の様に、店の外で構えているのだった。
男の名は、ベマルド、元貴族家の男だった。
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【数時間前・商会商談部屋】
俺達は、ゼノさんの転移陣で、サンバリューさんの商談部屋に転移をした。
「ありがとうございました。」
「おぅ、こっちこそ魔石アリガトヨ」
カミナに魔石の話をすると、許可は出た。
「別に構わん、ルークが決めた事に異論はない。ルークがその分を労ってくれればな?」
「ハイハイ、わかりました。何からしますか?」
「先ずはマッサージだな、その後は何時もより長めのブラッシングだ」
……色々しなければいけない事は増えたけどね。
「じゃあな、ルークまた会おう」
「はい、アーサーとヴォルガさん、オリビアとアイレス様にもよろしくお伝えください」
そうして、ゼノさんは城に帰っていった。
「ふぅ、また嫌がらせか何かあったみたいネ」
商談部屋にある机には、無惨にも壊された品物や、書類が置いてあった。
「これが貴族の馬鹿息子の書類ヨ、でも今は廃嫡されてただの違法商人みたいネ」
サンバリューさんは男の情報が書いてある用紙を渡してくれた。
「やってる事は最悪だな、反吐が出る」
「気持ち悪い人だとは思いましたが、ここまでとは思いませんでした」
「ここまで分かっているのに、何でまだ捕まってないんですか?」
不思議に思い尋ねると、サンバリューさんは苦々しく顔を歪め、話してくれた。
「アジトが見つからないのヨ、しかも、複数の貴族が、協力しているみたいでね、子爵が混じっているみたいなのヨ」
「へー、子爵ね、複数の貴族は分かっているの?」
「ええ、大半が小さな領地か名前だけの名誉男爵ネ、子爵の情報が上がらないのよ」
頭を抱えて、サンバリューさんは椅子に座った。
「無理も無いですね、父…アレは簡単には尻尾を出しませんから、失礼しますね」
言葉と同時に扉が開き、そこに居たのはロアッソだった。
「ロアッソ、何でここに?」
「あぁ、ルーク君。簡単だよ、家出してきたんだ。」
ロアッソは経緯を話してくれた。
ノード子爵が俺と仲良くするロアッソを良く思っていない事。
兄を廃嫡し、戸籍からも消して自分を長男とした事。
最近知ったが、兄の持つスキルが、商人や奴隷を扱うスキルだったが為に継げなかった事。
本当の父親が別の人だという事。
ロアッソは、笑いながら話していたが、目には暗い物になっていた。
ロアッソは証拠になる物を、何とか持ち出せたので、王家にも商品を持って行くこの商会にやって来たらしい。
この事が明るみに出たら、間違いなくノード家は取り潰しになるだろう。
だが、ロアッソの最後の一言は、俺に一番の衝撃を与えた。
「皆さんには、信じてもらえないかもしれませんが、私はこの世界で2回目の人生を送っています。いわゆる転生者です」
「「「「…転生者」」」」
皆は驚いていたが、すぐにロアッソに向き直る。
「はい、元の名前は、エリーゼ・ル・ヴァシュロンと申します。昔あったヴァシュロン家、最後の生き残りでした」
「ヴァシュロン家と言えば、錬金術の功績者じゃないかシラ、100年前に暗殺されて失われてしまった筈………あぁ成る程、禁じ手に手を出したノネ?」
「はい、転生の魂楔を使いました。暗殺をした相手の血族に産まれ直す禁じ手を」
「つまり、奥方のお相手が暗殺一家という事か?」
「いえ、お母様がその血筋みたいですね、流石に100年も後に産まれるとは、思いませんでしたけどね」
彼女(彼?)は大変な人生を送っていたらしい。
「今、奥方はどうされているのカシラ?」
「お母様は、今この国には居ません、帝国領に逃げました」
「私は、このままアレを吊し上げ、ロアッソとしては死んだことにします。お母様にも了承は得ました」
ロアッソとしては死んだことにするとはどういう事だろう?
「何か策はあるのですか?」
渚が俺の代わりに聞いていた。
ロアッソは、懐からポーションの瓶を取り出した。
「この薬を事が終わったら飲みます」
「それは?」
「ヴァシュロン家の取って置き、性転換薬です!!しかも、永久的に変わったままのタイプです。これを仕上げるのに、どれだけの長い年月が必要だったことか……まぁ、死ぬ前に出来たやつなんで、人体実験は未だですけど、大丈夫ですよ鑑定しましたし‥‥‥‥という訳で、‥‥‥‥となり、‥‥です」
何かのスイッチが入ったのか、急に饒舌になり説明を始めるロアッソは、何故か輝いて見えた。
が、話が長いので、放置することにした。
証拠も掴んだし、今日はもう遅いので、明日王家に持って行く事にして、商会から俺の温泉館に転移陣を開き、転移をしたのだった。
その日の夜明け前、ヒューネラルデ・サンバリュー商会に、ボヤ騒ぎがあり、犯人達の捕縛が行われた事を知ったのは、翌朝の事だ。
 




