鎮の証
レスティオ城に戻り、各々部屋に案内をされた。
とはいえ、エリトリアと俺達で分けられただけだが。
暫くして、ゼノさんが俺にだけ聴こえるように話しかけてきた。
「この後、一人で俺の部屋に来い。今回の事について、サシで話がしたい」
この言葉に、俺はピンときた。
ゼノさんは、最初の時に『修復し終えたレヴィアシェルが必要になる』と言っていたからだ。
そして現在、俺は使用人の案内で、ゼルガノン陛下の部屋に居た。
机と椅子、本棚のみが置かれた簡素な部屋だったが、見た目だけであり、使われている材質はかなりのものである。
「まぁ、座れや」
「では失礼します」
そのままゼノさんの対面に座ると、ゼノさんはゆっくりと、果実水で口を湿らす。
「話とはレヴィアシェルの件ですね?」
「そうだ、今から最後の仕上げがある。その作業に、レヴィアシェルの力が必要になる。」
「俺はどうしたら?」
「ルークはレヴィアシェルを龍脈の間に設置してある台座に差し込んで欲しい。力場はな、本来ならこの国の地下から溢れる様になっているんだが、今回に関しては火山の、しかも中心部の真上に出ちまった。おそらくだが、レヴィアシェルを利用した繋がりが、ここ数百年の間で綻びが出来ていたのだろう。何分無茶苦茶な使い方して随分ボロボロにしちまったからな……」
「差し込んだ後は他に何かするんですか?」
「龍脈との回路を再構築し直す。元々鍵の代用品に不完全なレヴィアシェルを使ったからな、ここからが頼みになる。レヴィアシェルに代わる魔剣を用意してくれないか?」
「???」
「あくまでレヴィアシェルは本来の鍵の代用品でしかない、だから本来の鍵である魔剣を、効力がある内に用意してもらえれば、問題は無くなるんだわ」
「その本来の鍵とは何ですか?」
「其れがわからん、わかるのは、この記録に書かれている事と、ドワーフ族が造り出したって事だけだ。魔剣と思うのも記録にケンと書いてあった事と、厄介なのは当時のドワーフ族は魔剣鍛冶以外の仕事をしていたって所で、実際に剣なのか別の物かもわからねぇ所だ。これがその一部だ、図書館にも置いてある位の歴史書だな」
ボロボロな状態の古代ドワーフ文字の記録とその読める範囲が翻訳された物を渡された。
『コレ、リュウミャク…ナガ……コテイ…ル……ケンナリ、…ノカギ………ナ……ノトキ、スナワチホウカイノアカシナリ。ソノトキハ、シズメノアカシヲ……ケン…アタエヨ。ドーヴェル・ノース』
虫食いの様な文字を見て思うのが、魔剣とは書いていない。
こういう時に、翻訳変換のスキルが役に立つ。
再度スキルを使い、古い記録を見る。
『これ、龍脈…流……固定…る…鍵也、…の鍵………ナ……の時、即ち崩壊の証也。その時は、鎮の証を……鍵…与えよ。ドーヴェル・ノース』
と訳され、紙に書いて見せる。
「なんだこりゃ?ケンが鍵に成ってやがる」
「予測ですけど、これ剣ではなく、関鍵つまり無ければ困る要の事ですね、他に資料があれば直ぐに用意してください『鎮の証』と記載された物を中心に」
「あぁ。わかった、え~と……あったこの箱だ。」
ゼノさんは、積み上げられた箱を退かして、資料を持ってくる。
「鎮の証関連の資料だな、結構な量があるぞ? どうするんだ?」
「片っ端から読むに決まってるでしょ?『招来、桂花、渚』」
「何をお手伝い致しましょうか、ルーク様?」「妾の手が必要かぇ?」
「この資料の文章を読める?」
「私は問題無さそうです」
「妾も闇精霊故に、この文字自体よく見ておったわ」
「二人には、この中から、鎮の証の製法か、関連情報を見つけ出すのを手伝って欲しい」
「「お任せ(じゃ)ください!!」」
言うが早いか、二人は瞬く間に、資料を分けて作業に当たっていた。
「ゼノさんは、父様達に、宿泊期間が長くなることを伝えるので、サインか一筆御願いしますね」
「任せろ、直ぐに取り掛かる」
こうして、俺のレスティオの滞在が決まった。
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【シルフの三月7日目・レスティオ城】
火山の依頼から滞在を初めて5日程過ぎた。
カミナはこういった作業は苦手らしく、時折参加する事があっても、直ぐに飽きる為、戦力としての期待は出来なかった。
資料の見直しや、抜き出しを行いながら、まとめ、大体の素材や製法は理解ができた。
何個かの錬金術用の資料と、必要な素材の収集場所、加工の工程、等が手に入り進展していた。
「今戻った。ルーク、頼まれていた素材だ」
「ありがと、カミナ…その棚の右側に箱を置いてるから、その中に入れてくれ」
「必要な物は、これで最後だな?」
「いや、後はゼノさんが戻ってからだね」
「ならば、少し休め、また徹夜しているのだろう?」
「もう少し、したら……ひと休みするよ」
『睡眠』
カミナと会話をしながら、資料の読んだ所にマークをつけ背伸びをしようと伸びた途端、俺は意識を失った。
【式神side】
「仕方無い運ぶとするか……桂花、眠らせたならお前も手伝え」
カミナは虚空に語りかける。
「なんぞ、気付いて居ったか? 仕方無かろう、このままでは主様の身体がもたないと思ったのでな?」
「そうだな、渚もお前も少し休め、資料の残りは私がしておく」
桂花の問いに資料を纏めながらカミナは答えた。
「よろしいのか?」
「これ以上伸ばせば、また無茶をしかねんからな」
「では、渚と一緒に、休ませて貰うとするのじゃ」
桂花は、ルークを背負うと渚のもとに向かう。
カミナは、全ての資料を纏めると目の色を変えて作業に当たった。
ルーク達のやり方では、知り得ない知識を加えて、カミナは二時間程で全ての資料を片づけたのだった。
その一方で、ルーク、渚、桂花は同じベッドで寝ている所を、エリトリアに目撃されるのだが、ルークの掛かった『睡眠』が、強力な物ではなかったのだが、無理が過ぎたらしく、起きたのは2日後、9日の朝であった。




