鎮魂の儀
宴が始まり、小一時間が過ぎた頃。
ホテルバイキングの様に並んだ飲食物を取りながら、俺達は宴に参加していた。
エリトリアは、給仕の仕事を手伝っており、他の給仕のをしている人や住民達と楽しそうに会話をしている様だ。
「我が君、少し宜しいでしょうか?」
「どうした?」
「先程から我が君の側に控えて居る女性ですが、闇精霊の気配がするもので…」
ベリトが薄く殺気を放ちながら、後ろの二人を見ていた。
「あぁ。桂花の事か、そうだよ、闇精霊と蜘蛛の女王だ。新しい仲間だよ」
「闇精霊とは元々が魔族に類する精霊ですので、人に従う事が無いのですが…?」
「妾の事かぇ?妾は元々魔族がとか人族がとか関係ないのじゃ、仲間内からも変わり者と言われていた位じゃからな」
「我が君を裏切る事はないと?」
「この身体も元は式神とやらになった雌の闇蜘蛛、しかも死の間近に契約したと言うではないか。妾も消える間際に助かったのじゃ、裏切れぬよ」
桂花はベリトの言葉に対し、口元を扇で隠しながら、妖艶な笑みを浮かべ答える。
納得は余りしていない様子だったが、ベリトは殺気を解いて、二人分の影を後ろに並べた。
重装騎士の男と細身の男の影、洞窟内でも兵士達を護りながら、かなりの数を倒していた影だ。
「まあ良い、話は変わりますが、我が君に御願いが御座います。この者等の身体を創って頂きたいのです。」
ベリトが片膝を突き、頭を垂れると影の二人も同じ様に下げた。
「重装騎士ゴームと双剣士ノルド、我の同胞にして、幼なじみ達です」
俺は『解析』を使い、二人の状態のみを見てみた。
【名前】ゴーム・ドーヴェン【種族】シャドウソウル
【状態】顕魂(ネグロスの契約による顕現)
【名前】ノルド・シグルド【種族】シャドウソウル
【状態】顕魂(ネグロスの契約による顕現)
二人の状態は、ネグロスの効果での限定的な顕現であった。
「二人はベリトと一緒に俺の式神……えっと、配下に入りたいのですか?」
「「コク」」
二人の影は、短く頷く。
「ベリト、二人に由来がある触媒になりそうな物を何か持ってるか?」
「どういった物が好ましいですか?」
「身に付けていた装飾品か、ベリトの時みたいに身体の一部かなぁ」
「腕輪ならあるのですが、どうですか?」
「二人とも覚えがありますか?」
二つの腕輪を見せると、反応があった。
シャドウソウルには魔石が無く、転生の円環から外れた魂の存在である為、腕輪と魔石を媒介に魂を定着させる必要性がある。
今の手持ちに使える高ランクの魔石が無い為、式神化は魔石が手に入ってからにする事になった。
話が終わり、ふと気付くと音楽が変わって、祭壇が準備されていた。
「其では、龍姫巫女様達による鎮魂の儀を始めます」
その言葉をシャムロックさんが言った後、可憐な巫女達が祭壇に集まり、楽器を構える。
『━━━』
静かな音の始まりから、徐々に増える龍笛の音、優しく包み込む複数の楽器の音が重なり、心地よい空間が生まれる。
「━━━━♪」
風が凪ぐ様な静かな音色が流れると、一人の女性が、中央に立ち歌い始める。
透き通った美声は、周りの人達を引き込む。
歌の内容は、英雄譚、死んだ者達への送りし鎮魂歌。
ゼノさんから聞いた、龍姫巫女、名前はアイレス・セム・レスティオ、龍帝ゼルガノン陛下の奥様でもある皇后様だ。
「どうだ、ルーク?俺の嫁さんは、綺麗な歌声だろ?」
「そうですね、凄いです。落ち着くというか引き込まれます」
ベリトやゴームとノルドに関しては、瞳の色が消えていた。(聞き入っていた様で、時折点滅していた)
鎮魂の儀が終わりを迎える頃、ゼノさんはサンドラさんとヌサドゥアさんシャムロックさんの四人で、話し合いをしていた。
「ルーク達の分配はこの用紙と同じ分配で頼む」
「では、そのように手配します」
「後の死者の分配だが…」
「それは契約時の物にプラスすれば良いかと」
「俺の方は、外周の誘導で潰した獲物はこっちで貰うから内部の分には、関わらねえって事で良いか?」
「あぁ。構わない、そっちは任せた」
「了解だ。では陛下私は失礼します」
どうも報酬についての話し合いをしているらしい。
俺は、屋台に向かいバードの串焼きを貰うと、そのままカミナ達の所に向かった。
カミナの場所は直ぐに見つかる。
酒樽が積まれた馬車の近くに、他の女性達と一緒にカミナは居た。
「おっ、来たなぁ~?ヒック、皆~カミナ姐さんのボスが来たぞ~」
「「「キャー!!可愛い~」」」
「むぅ、ちょっと早い気がするが仕方無い、貴様らも余り飲み過ぎるなよ」
カミナは片手に木のジョッキを持ち、立ち上がる、取り巻きの様に居た人狼族の女性達は、手を振り、また飲み始めて居た。
俺達は、中央広場に戻ると、渚と桂花以外の式神達も集まって居た。
「おぅ、揃ってるみたいだな、時間も遅いから城に戻るぞ。この馬車の乗れ」
ゼノさんの指差した馬車は、竜馬が繋がれた、深紅の馬車があった。
純血の竜馬は、他の竜馬と違い、一回り大きく力強い印象を受ける。
俺達はその馬車に乗り込みゼノさんの城に戻るのだった。




