撤収作業
女王竜蟲が倒れ、吸収していたと思われる魔力が、辺りを駆け抜ける。
俺はカミナに駆け寄り、怪我の有無を尋ねようとした時、頭に強烈な痛みが走る。
「ッ!!………痛った!!」
「馬鹿者が、何を思って行動をしたかは、大方想像がつく、だがな、何でもかんでも自分一人で護れると思うな。今のお前は子どもの身体に高い能力が備わった状態だ、それも膨大な魔力量が有るからだ。あくまでも能力値は評価の基準だそれに囚われるな」
拳骨を頭に受け、頭を押さえながらカミナに向くと、拳を握ったカミナが、ヤレヤレと言った顔で、俺の顔を見ていた。
確かにカミナが言うとおりだ。
今回の討伐依頼を受けた際、俺は自身の能力を過信しすぎてた。
ゼノさんの依頼で、数が多い事を聞いていたが、所詮ただの火炎の悪魔蟲や女王の群れと侮って居た。
想定外だったのは、透明捕食蟲、蟻地獄が一斉に襲い掛かり、死亡者が出たこと。
竜蟲特殊変異型の上位種が現れたことが殊更に俺の焦りを生んでいた。
解析不能と表示された情報は、今の俺では相手にならない事を示していた為だ。
この能力値になった所で、前世の頃読んだ物語の主人公と同じ様になれた気で居た。
しかし、それは上位の魔物、兵士や冒険者に比べるとまだ相手にならない事がわかった。
高い能力と父様達の訓練を行い魔物や魔獣との戦闘をする俺と、上位の魔物や魔獣との戦闘で常に能力と技術を磨き、生き死にの狭間で生きてきた兵士や冒険者では、その差があって当然だ。
結局、ゼノさんの指示と能力値に頼りきった結果、蟻地獄のみと油断をした所を、透明捕食蟲の奇襲に対して、反応や咄嗟の判断が出来ず、渚に助けられた。
だがその結果、後続部隊に4人の死亡者を出してしまう。
ゼノさんは、『自分の指示で動いて突入したから気にしなくても良い、責任は俺達大人にある』と言われたが、蟻地獄だけに注意を向けなければ、奇襲を防げたかも知れない。
俺はそんな後悔をしながら、炎熱の女王蟲を含む討伐を行って居た。どうやらカミナには、内心がバレていたらしい。
「渚からもよろしいですか?」
「どうしたの?」
「今回の討伐依頼は、どちらにせよルーク様が来たからこそ、この程度の被害で済んだと思います」
「それはカミナが居たからでしょ?」
「そのカミナを喚んだのは、他でもないルーク様です。」
でもそれも結果論だ。もしかしたら、依頼を受けなければ、SSランクの冒険者が解決するのに来てくれたかもしれない。
「ルーク、お前達のおかげで、俺達は生き延びる事が出来た。この依頼も最初は、SSランクの奴等に依頼する予定だった。でもな、想定外に奴等の増殖量が多かった事と、SSランクの奴等は今、この大陸の端に居る事が重なったから、本当に助かったんだ。一番最悪な方法、俺の魔力を暴走させて、この場所を異空間に消す事をしなくて済んだんだ。ありがとう」
「陛下、撤収準備が出来ました。魔石の回収と魔蟲の死骸回収はどうされますか?」
「サンドラ、丁度良い所に来た。回収は俺が送る、この力場の力をお借りしてな」
「わかりました。丁度良いとは?」
「今回の被害、お前なら客観的に見てどう思う?忌憚ない意見で話せ」
「ハッ!! では述べさせて貰いますが、竜蟲の出現した段階で、陛下含め我々の全滅、その後氾濫の発生で近隣の村や街の壊滅と皇国の滅亡辺りが妥当かと思います。カミナさんが倒したの陛下じゃ無理ですし」
「相変わらず容赦ねぇけど正確な意見だな。ルーク、つまりこういう事だ」
「あぁ、ルーク君は気にしなくても良いですよ、ルーク君が居なければ、今この場に残ったのは蟲達で、亡骸すら残りませんでしたから。むしろ子供の君に、辛い経験をさせて申し訳無いくらいです」
サンドラさんが優しく抱きしめて頭を撫でてくる。
そこが限界だった。
塞き止めていた感情が溢れる様に、出てくる。
前世では体験しなかった恐怖。
喪う怖さ、自分が勝てない相手との生死を左右する戦い。
俺は、声も出せずそのまま泣いた。
涙と共に前世の自分を捨て、俺はこの日、本当の意味で自分を取り戻した気がした。
大神刀夜ではなく、ルークとしてこの世界で生きる事を改めて自覚して。
カミナからは、どうしようもないといった顔で
「世話のかかる相棒だ」
と言われたが、もう必要以上に我慢する事はしなくても良いと、撫でてくる。
俺はその心地よさに安心をして、次第に意識が遠退いた。
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【???】
巨大な水晶でルーク達の姿を見る二つの影。
「面白い子供だな」
「その様で、どうなさいますか?」
「もしもだが、この城に呼んでも良いと思える成長を果たしたならば、私のコレクションに加えたいな」
「では、手配を致しますか?」
「嫌、今はまだ早い、私の愛娘の成長も在るからな」
「畏まりました、マイ・マスター」
従者の声を聞いて、もう一つの影は姿を消した。




