竜蟲の女王
【カミナ視点】
ルークの様子を見ながら、私は女王竜蟲に対峙する。
「やはりか、身体に心が捕らわれているようだな。仕方無い、一つ活でも入れてやるとしよう……ハアッ!!」
今のルークは、前世の様な感情のコントロールが出来ずに、防衛本能のみが働いている様に感じる。
私は、脚の関節に一撃を放つが、流石に竜蟲の女王を冠するだけはある。
氷と風の魔力刃を受けても、揺らぐ程度の衝撃しか受けていない様だ。
しかし、その一撃は私を自分達の敵と認識させるのに、十分すぎる一撃だったようだ。
女王竜蟲の六本ある脚の内、前の四肢から爪にかけて、青白い炎が灯る。
「Gusyaaa━━」
女王竜蟲は唸る様な音を出し、鉤爪を振るう。
迫り来る攻撃を見ると、少しだけ頭を動かし躱す。
「中々速いな、ただの人なら危ないか」
連続した攻撃を僅かな体捌きで躱していき、私は散椿を構え直す。
「━━初撃の太刀、風切り」
散椿を斜に構え、刀の刃先に緑の魔力を纏わせる、魔力を込めると風の刃が薄く煌めく。
そのまま、刀を一閃……女王竜蟲に巨大な衝撃波が襲い、私は距離を保つため後ろに飛び退く。
女王竜蟲は、私の上方向から伸ばした鉤爪の軌道を急に変え、攻撃の速度や流れを変えてくる。
「━━二の太刀、紫電」
紫の魔力が、刃を覆い尽くすと刀の色が濃くなり、紫と黄色の稲妻が走る。
待ちの型、カウンターの技を出し、相手の動きを誘導していく。
動きを変えた鉤爪を、雷魔術の魔力刃で受け流しながら、風切りで着けた傷に再び当てる。
最初の傷は小さい物だが、紫電のカウンターで罅が入ると、大きな罅に変わっていく。
女王竜蟲は翅を擦り音を鳴らすと周りの地形が歪み、生き延びた竜蟲の幼体が現れる。
紫電は集団戦に使う技ではないので、次の行動に移すため型を変える。
「━━三の太刀、水鏡」
刀に青い魔力が宿り、刃先から水が滴り落ちる。下から上に振り上げると、巨大な水柱が立ち上がり、私の姿を覆い隠す。
水柱が女王竜蟲の薙ぎ払いで消える、此方を見ていた味方の兵士達は、どよめいた。
「「どちらが本物の私がわかるかな?」」
何せ、いきなり私が二人になり、それぞれがバラバラに動くのだから驚くだろう。
水鏡は、質量、熱を持たせた分身を作る技であるが、本質はそこではない。
女王竜蟲は、どちらが本物かわからない様子で、手当たり次第に攻撃を仕掛ける。
竜蟲以外の幼体や竜蟲の幼体の生き残りも周りに集まって、女王竜蟲を守る様に攻撃を加えてくる。
僅かな移動と散椿で爪を捌き、突きを躱す。
女王も私の狼形態より、二周り位大きな図体で、よくこの攻撃速度が出せるものだなと感心するが、そろそろ限界が近い。
群がる幼体と女王の攻撃、私はもう一人の私に背を預け防いでいるが、手数が多くなり所々着物に破れた箇所が出来始める。
そして、その時は訪れた。
女王の一撃が、力尽きた幼体ごと潰そうと放たれるが、周りの死骸や生き残りに囲まれており捌くことも躱すことも難しい。
「「っああ!」」
捌ききれない所に放たれた攻撃を、まともに受け叩き付けられる。
━━其こそが罠であるとも知らずに。
攻撃を受けた二人の私は、ニヤリと笑いそのまま液体に変わる。
水鏡の真価は、作る分身の液体にある。
私の知る限りの液体を魔力で精製する事が出来るうえ、魔力の量で、創った分身の質量以上の水分を内包する事が出来る。
魔力で精製した水、今回はルーク前世の世界にあった液体、『液体窒素』と同じ様な効力を持った液体を使用した。
ただし、洞窟内であることを考慮して、味方が酸欠にならないように凍結能力を高める調整をした。
大量の液体窒素擬きを被った鉤爪は、罅が入った箇所から割れていく。
女王竜蟲は身体を仰け反ると、その場から距離を取るために、移動しようとする。
「━━逃がす訳無かろうが」
女王竜蟲の影から、首の節に狙いを定めた一撃を放つ為、魔力を纏わせる。
「Gyusaaa━━━!!」
女王竜蟲は攻撃をさせまいと、残りの肢、鉤爪で攻撃を仕掛けるが、既に遅かった。
「━━裏の太刀、散椿」
闇の魔力と炎の魔力、二つの魔力を混ぜ合わせ散椿に流し込む。
元の白刃は黒紅に変わり、異様な紅色の輝きを放つ。
そして、後ろ首を横に一閃、撫で切る様に散椿を振るうと、節や関節から体液が飛び散る。
散椿を納刀し、ルークの方へ歩きだすと、そのまま女王竜蟲が倒れる音がした。
「魔石は後で回収すれば良い、まずは一つ活を入れねばな、まったく何て顔をしているんだ」
涙の跡が霜焼けの様に赤く残ったルークを見て、距離を近付けた私は、ルークの頭に拳骨を見舞うのだった。




