アラクネ 桂花【ケイファ】
前世では依頼で凶悪犯を呪殺する事もあれば、精神的に追い詰める位は仕事として行っていた。
この世界でも、同じく害悪とされる者を相手に対して、命を奪う事に躊躇いは無かった。
今起きた事は、違う。
今日会ったばかりの人達だけど、悪い人達では無かった。
少なくとも、嫌な感じはしない人達だった。
そんな人達が、目の前で、蟲共に喰われて行く。
阿鼻叫喚の悲鳴が壁に反響し、耳に突き刺さる。
見たくはなかった光景に、俺は直ぐに動く事が出来なかった。
「ルーク様!!━━『水華散弾』」
渚は、掌に水球を作り壁に反射させながら、透明捕食蟲と蟻地獄に放つ。
蟻地獄は散弾を見えている部分に受け、地面に潜る。
透明捕食蟲共は、耐久性が無いのか、魔石を落として消えていった。
急ぎ、蟻地獄の居た中心部に向かう。
そこには、流され捕食された人の一部や、生きているが、腕や足を失った兵士が数名残っていた。
生き延びた人をゼノさん達が担ぎ上げ、救助する。
急ぎ『癒しの風』を行使するが、欠損箇所を治すのに時間が掛かる。
渚は索敵を行い、イーターと蟻地獄が居ない事を確認したらしく、此方にやって来る。
「後続部隊7名の内、生存者3名、死者4名です…」
「すまんな。ナギサだったか、礼を言う」
ゼノさんとサンドラさんに対して、渚は報告を行う。
『癒しの風』での治療が終わり、欠損箇所は元に戻ったが、気絶をしており、他の兵士達の士気も下がっていた。
「サンドラ……こっから先はきっと地獄だ。希望者以外は今から開く転移陣から城に戻れ」
「陛下は行くつもりでしょう?」
「当たり前だ。俺は龍帝だぞ? 民を守らぬ王など、ただの木偶!!居る意味は無い!!」
ゼノさんはそう言って、気絶中の兵士を転移陣で場内に送り届けた。
「残っている61名の中で、戻りたいものは陣に入れ、皆すまない、俺が連れてきたのに、こんな事言えた義理ではないが、命を無駄に散らすな!!」
ゼルガノンとしての言葉は、兵士達に響き渡る。
転移陣に入る者、残る者、別れるのに時間はかからなかった。
「ふむ、残る者は20名か。戻るものは以後、城内の警備に当たれ」
「「陛下…申し訳ありません…」」
「そんな顔をするな、お前達は良くやってくれた。先見部隊、後続部隊御苦労だった。ではな」
ゼノさんは転移陣を起動し、送り返した後振り替えると残ったメンバーに声を掛ける。
「残りの階層は、少ないが、お前達は進むんだな」
「「「はっ!!我等、龍帝騎士の誇りを持って、地獄の果てまで着いていきます」」」
「ったく。死ぬ気で生き延びろよ」
ゼノさんは、苦笑しながら、騎士達の肩を叩いて先頭に立っていた。
俺は、先程の光景を思いだし、考え方を変えていく。
『怪我を負うこと無く、依頼を果たす』から
『もう、誰も、誰一人として死なせない』
その覚悟を決めた。
「ゼノさん……ゼルガノン陛下」
「ルーク?…どうした?」
「こっから先は、俺が…俺らが前に立ちます」
「いや、しかしだな」
「……お願いします」
この時の俺は、魔力を抑える事は止めていた。
周りの反応はもう気にしない。
下の方に向かおうと歩きだしたその時、触媒内のアラクネの繭に変化があった。
俺は触媒に魔力を流し、アラクネの繭を喚び出す。
繭の上から裂けるように繭が割れ、黒い靄が溢れだし、辺りを漂う。
黒い靄が晴れた後、中から現れたものは、蜘蛛の姿をしては居なかった。
女人の形をしているが、明らかに人ではない。
膨大な魔力を身に纏い、巨大な蜘蛛の足が、背中から生えている。
「気持ちの良い魔力と良質の供物、妾をここまで育て上げ、主様有り難う御座いました。つきましては、妾に名を下さいまし」
三指を付き、現れた裸体の女人は頭を下げる。
「君は?」
「妾は。元は闇精霊の一欠片、何かの召喚陣に巻き込まれ、この世に喚ばれたのじゃ。しかし魔力量も少なく、消えかけた時に魔力の含まれたお湯を見つけた。……その時に初めて主様を見つけたのじゃ、そしてこの闇蜘蛛の魔石と結合した触媒に妾自身を取り込ませ今に至っておる」
「……あの時の歌声は君だったのか」
風呂場で聞いた歌の主と同じ声であることを思いだし、見た所、背丈が渚と同じだったので、渚用に創った金木犀の刺繍を入れた着物を渡した。
「それを着て、……金木犀……桂花」
「ケイファ?」
「うん、君の名だ、その刺繍の花の名前だよ桂花」
「気に入った。妾は今日からケイファと名乗ろう…所で、ここは何処じゃ? きちんとした目覚めがついさっきだったのでな、ようわからんのじゃ」
パープルネイビーのミニショートヘアを傾げ、桂花は尋ねてきたが、周りを確認しながら
「何かの討伐か、遠征と言った所じゃな。蟲の臭いがするのぅ、気に食わぬ臭いじゃ」
桂花は、そう言うと、背中から8本の蜘蛛脚を生やす。
着物を破く事も無く、よく見ると着物自体から脚が生えているみたいだ。
「この脚は、妾の魔力で創られた武器じゃ、そしてこの脚を纏めると……ほれ、この様に毒針になるのじゃ」
桂花は脚を纏めると、脚だったものは、細長い針に姿を変えた。
「新たな仲間も増えた。そろそろ下層に向かうとしよう」
ゼノさんは、号令を掛けて隊列を整えた。
ここから先は、誰一人、欠ける事無く依頼を終わらせる為、桂花を含めた陣形を考えた。
その前に、桂花の能力を確認した。
【名前】桂花【種族】闇精霊・蜘蛛の女王(式神化)
【体力】1,935,000/1,935,000
【魔力】1,876,000/1,876,000
【筋力】SS
【知力】SSS
【器用】SSS
【対魔力】SS
【スキル】人化 影移動 糸排出 捕縛術Lv10 全毒Lv10 解毒Lv10 進化 闇魔術Lv10 土木魔術Lv10 蜘蛛系統支配(極)魔力針 変わり身
オールラウンダータイプの能力で、結果として、先頭に立つ事になった。
そして下層に移動を再開するのであった。




