洞窟内の戦いと死の実感
枝道から迫りくる蟲達を、ベリトに任せた俺達は、ひたすら直進をしていた。
「あの鎧騎士は何者ですか?」
サンドラさんが興味津々に聞いてきたので
「俺の頼れる騎士ですよ、デュラハン・ロードのね」
「凄い……その年でSSランクの物と契約しているなんて!?」
ベリトの種族を言うと、回りも『何故この場に子供が居るのか?』という視線を送っていた人達からの視線が外れる。
暫く道なりに歩き、広間に出るとそこには先行部隊が待っていた。
「陛下、報告を致します。先行部隊70名、内13名負傷2名が戦死しました……」
「シャムロック、戦死した者の名は?」
「偵察部隊のガルダと防御部隊のアナトの二名です」
「シャムロックも休め、まさかお前のスキルを持ってしても死者が出るとはな…クソッ」
どうやら、先行部隊に死者が居たらしい。
俺達は回復魔術による治療を始めた。
「『癒しの風』」
俺は負傷集団に『完全回復』を基にした集団用回復魔術を行使する。
負傷者の治療を始めた俺達の所に、ゼノさんがやって来る。
「ルーク、お前の魔力はどうなってる…リヒトでもここまでの魔力は持ってなかったぞ?まぁ良い助かった。ありがとう」
「貴方が陛下の連れてきた助っ人ですね、自分は、今回の先行部隊隊長を任されていました。シャムロックと申します。以後よろしくお願いします!!」
ビシッと敬礼を行うと、ゼノさんの横に控える。
「シャムロックはな、こいつの先祖からの付き合いでな、守護に関するスキルを特化させたスペシャリストだ。今回の被害がここまでで留まってんのも、こいつのおかげだよ」
「勿体無い御言葉です。祖父や父ならまだ被害が少なかったかもしれません」
「今は居ない者に、たらればは無駄なことだ。死者が二名だけだったのは、不幸中の幸いと言えるだろう」
「伝令!!上位種と思われる個体が群れを成して此方に向かって来ています」
「総員、戦闘体制を整えよ!!迎え撃つ」
━━ゴゴゴゴッ
地鳴りの様な音が、底から聞こえた次の瞬間、地面から現れたのは、今まで見てきた炎熱の悪魔蟲ではなく、身体はローチ種なのだが、顔がワイバーンの様な亜竜種特有の物に成りかけていた。
「フンッ!」
ゼノさんが、大剣を縦に振り下ろす。
━━しかし、その一撃は鈍い音を立てて外殻に弾かれた。
「固いな、仕方ねぇ━━『奥義 大切断』」
先程よりも鋭い魔力刃が大剣に纏わり、上位種の頭に繰り出される。
「チッ、浅いか」
ゼノさんが、上位種の相手をしている内に、通常の炎熱の悪魔蟲達が押し寄せて来る。
場所が狭いので、『崩牙』を使うことが出来ない上、乱戦には向かない技である為、使いどころが難しい。
「『氷壁』」
湧き出てきた穴を塞ぎ、上位種を解析する。
【竜蟲】(特殊変異型上位種)
測定不能
この段階で、俺の現在の能力では対処が難しい事が判明した。
「カミナ、対処出来る?」
「仕方無い、こっちの雑魚共は任せたぞ」
「ゼノさん、カミナが殺ります。急いでこっちに」
「わかったぜ!!…フンッ」
ゼノさんは、頭に一撃を浴びせると、反動を利用して俺の所まで一気に翔んでくる。
立ち代わる様にカミナが前に出ると、刀に魔力を込める。
「━━四の太刀、氷雨」
鞘から抜かれた刃は、風と氷の魔力を内包し、竜蟲に向かい無数の魔力刃を飛ばしていく。
足の節、殻の隙間に当たる度に、竜蟲の動きが少しずつ止まる。
よく見ると、当たった箇所や傷口から、内部に向かい、凍結している様だ。
カミナが刀を鞘に戻し、そのまま歩いて竜蟲の下側に向かう。
動かなくなった竜蟲の足をトンと軽く叩くと、
竜蟲は、中から崩れる様に罅が入り割れていった。
俺達も、他の蟲を退治し終わり竜蟲の所に向かうと、カミナが一言。
「まだ若い個体の様だな、奥にはまだ親がいる様だ。これはアラクネに使ってやれ」
と言いながら、魔石を取り出し渡してきた。
受け取り、アラクネに魔石と外殻を喰わせるとアラクネは繭を作り、触媒に戻った。
繭を作る事に若干驚いたが、身体が燃えているゴキブリがいる時点で、そういう常識は通じないのだと改めて実感した。
「仕方無い、ここからは掃討部隊と本体に別れて仕掛ける。俺とサンドラは掃討部隊に参加する。お前達には申し訳無いが本体に向かって欲しい」
「良いんですか? 俺達で」
「竜蟲に勝てたのがお前の連れしか居ないのと、レヴィアシェルがお前の魔剣になっちまったからな、一応俺も使用者になってはいるだろうが、恐らくお前が持っていた方が喜ぶだろう」
「わかった。有り難くこれからも使わせてもらうよ」
俺達は、更に下の階層へ降りる為、ゼノさん達について行く。
そして次の広い部屋に着いた時に、俺は恐怖におののく事になった。
道を下り、索敵をしながら先を急いで居たのだが、次の広場を見つけた。先程より広いすり鉢状の部屋になっている様だが、敵の反応がおかしい。
部屋全体に敵の反応があるのだが、姿が見えない。
「ゼノさん、この先の広場に敵の反応があるんですけど、姿が確認出来ない」
「何?不味いな、透明捕食蟲か蟻地獄だな」
「それは何ですか?」
「簡単に言えば、無数の透明な肉食蟲と地面に巣食う巨大な顎を持つ蟲だ。反応が在っても姿が見えないのなら恐らくどちらかだと思う」
姿が見えない敵と地面に潜む敵、どちらにしても厄介な相手になる。
「ここで留まっても、どうしようもない行くぞ!!」
ゼノさんが号令を掛けて、進んだその時、地面が下に向かい流れ始めた。
「やっぱり。蟻地獄の奴か、下に注意して抜けるぞ!!」
その言葉に従い、外周部を渡る事になったのだが、追い討ちの様に後続が何かに襲われた。
襲われた兵士達は流砂に足を取られ流され始めた。
「不味い!!イーター迄潜んで居やがった。全員近い入り口に退避だ!!」
この日、俺は初めて、人が死んでいく姿を見た。
前世で呪殺を行った事もあったが、自然死のようになっていたのもあり、そこまで精神的に病む事もなかった。
今起こった事は、先程迄後ろに居た人が、悲鳴をあげ、捕食される姿を見たのだった。




