討伐開始
翌日、昼前にゼノさんはやって来た。
指定していた時間よりも早い為、何事かと思い聞くと
「悪いな、事態が変わりやがった。このままだと氾濫しやがる。俺はこのまま現地に向かう、手伝いは無しで」
「ゼノさん、行きますよ」
「いや、安全の確保が出来ねぇ」
「安全であれば良いのだな?」
「私共もお供致しますので、ルーク様の安全はお任せ下さいまし」
「ゼノ、我が居ることも忘れないで貰おうか?」
カミナ、渚、ベリトの三人が声をあげる。
「依頼自体はもう受注して居るのだ、確かに依頼主が取り消せば、無くなるが我等が行かない理由にはならんよ」
「わかった。そこまで言うならルークの安全は任せた。一度王城に跳ぶ着いてこい!!」
ゼノさんは魔力を放ち空間が歪み出す。
前回見た場合が、そこに浮かび上がり、ゼノさんは優先して通り抜けた。
皆は俺の影や触媒に戻り、俺とエリトリアも歪みに飛び込んだ。
抜けた先は、メインホールらしく、調度品やシャンデリアが飾ってあるが、落ち着いた感じのホールだった。
「一先ず他の奴等に声を掛けてくる。お前達はここで待ってろ!」
ゼノさんはそう言って、階段を上がって行き、残された俺達は、装備を装着し始めた。
「渚は暑い所に向かうけど大丈夫?」
「はい。龍人に成った際に、気候や気圧、温度に対して、全く変化しない身体に成りましたので、問題ありませんルーク様」
「ベリトの身体も大丈夫かな?」
「私自身が既に霊体ですから、加えて破壊不可の影響で傷すら付きません」
「焔と雪は?」
「僕は大丈夫だよお兄ぃ、寒いのは嫌だけど」
「…暑いの…だめ…寒いのが…良い」
「じゃあ雪にはこれだね、焔も着けておこうか」
二人に、神威の防護布を使ったリボンを着ける。
これで準備は終わった。エリトリアはこの城で待機して貰える様に話をつけていたので、問題はない。
「よし、皆準備は出来たね」
「おぉ、準備出来てんな、先ず火山の入り口に跳ぶ。その前にコイツらの紹介をしておく」
ゼノさんの後ろから二人、龍人族の男女が現れる。
どちらも、槍を持っており、強い事が伝わる程の威圧感を持っていた。
「龍神皇国近衛飛竜騎士隊、隊長のヌサドゥアだ」
「同じく、地竜騎士隊、隊長のサンドラよ」
「総力戦に移行したからな、城の守りは守護隊のみに任せる事にした。では跳ぶぞ、エリトリア君はこの先の客間に居なさい」
そう告げ、再びの転移を行い始めた。
エリトリアは、案内に従い客間に向かう。
「御武運をお祈りします」
と一言告げて、行った。
「ここが集合地点だ、こっから洞窟を通り、火口まで行く予定になっているが、奴等がどこまで巣を拡げてるかわからん。下からの強襲と上空の強襲、どっちも対処してくれ」
ゼノさんの表情は既に、戦闘に向けた物に変わっていた。
俺達は、洞窟から漂う魔素を確認して、『探索』の魔術を使う。
「これは凄まじいな、広場になっている所は奴等が固まってるぞ」
「うぇ……洞窟内なら使える魔術も考えて使わないといけないか」
「あぁ、爆発系統と震動系統の物は駄目だな、岩盤自体は脆い所があるようだ」
「開けた場所と通路でも使い分けないとだな」
相談を行い、魔術の数を絞っていくとヌサドゥアさんがやって来た。
「お前達は、後方支援をする事になっている。少なくとも戦闘に参加する事には、ならんだろうが、自分達の身は極力自分で守ってくれ」
そう言って、ヌサドゥアさんは飛竜に跨がると上空から火口に向かって行った。
「すまないな、奴は余り子供を戦場に立たせたくないのだが、不器用な者でな嫌っている訳ではないので、勘違いをしないでやってくれ」
サンドラさんは飛竜を見ながら、そう言って二足歩行の角恐竜に跨がる。
後ろには荷車が繋がれており、様々な武器等が積まれていた。
「それでは、前進する!!皆の者油断するな!!」
「「「オォーー!!」」」
ゼノさんの号令で進軍が開始された。
洞窟の大きさは、角恐竜が通れる位ではあるが、光も無く枝道が多くあるので、鉢合わせるかわからない。
ローチ種の厄介な所は、女王と呼ばれる個体が一つの巣に何体いるかで、脅威の差が違う所にある。
大抵一つの巣に一体なのだが、魔素が濃い場所を巣にした場合、複数体の女王がいる場合があるのだ。
そうした場合の増え方は、国を飲み込む勢いになるとも言われている。
その為、女王を真っ先に潰す事が重要になるのだが、今回の女王は龍脈に住み着いたらしいので、最深部に大本の巣がある事が予想されていた。
ヌサドゥアさん達は火口部からの陽動で動き、ゼノさん達が本体、サンドラさんが補給部隊の護衛を行うといった分け方になっている。
俺達は補給部隊の護衛となっているが、基本的に『探索』を使い、事前の発見を行う事になった。
「前方右側、数6!!」
「『氷結槍』用意……放て!!」
サンドラさんの号令で、炎熱の悪魔蟲に氷結槍が突き刺さる。
「Gyyyyyy━━」
ローチ達の叫び声が響き渡る。
「奥から増援が来るぞ、急げ」
「クソッ、全軍、全速前進、このまま龍脈前の広間に行くぞ!!」
カミナが叫び、ゼノさんが指示を出す。
「ベリト、ネグロスの召喚を使って足止めできるか?」
「問題ありません、ルーク様は先に!!」
ベリトはネグロスを構えて地面に突き刺すと、魔力を流す。
「歴戦の猛者達よ、守護する者よ、我が声に応え姿を現し眼前の敵を討ち滅ぼせ!!」
ベリトの言葉に応じる様に、黒い影が現れる。
騎士の姿をした者や、戦士、冒険者の様な影もある。
黒い影は、炎熱の悪魔蟲に向かい、槍や斧、氷結槍を当てていく。
「ルーク様、後から追いかけます故、今の内に!!」
「任せたぞ、皆!!今の内だ、さぁ行くぞ!!」
俺は、カミナ達に声を掛けて、その場を後にした。
ベリトは、影達に足止めをさせ、斬り込んで行った。




