エピローグ
「ルークさん、お疲れ様でした。貴方のおかげで創造神としての格があがりこの姿になる事が出来ました」
「エウリシア神ですか!?」
驚きのあまり声が裏返ってしまったが、それでも彼女は笑顔で頷くのだった。
「ええ、私は本来この世界には存在しない存在です……ベルフォートの片割れと言えばそれまでですが、もう一人のルークさんのおかげで全ての因子を吸収することが出来ました」
そう、もう一人の俺がどうなったのか……それは俺には分からないが、少なくともあの地下室にいたのは間違い無いだろう。
「そのもう一人の俺なんですが……」
俺はずっと気になっていた事を彼女に尋ねた。
「どうなったんですか?」
そう聞くと彼女は少し困った表情を浮かべた後で静かに口を開くのだった。
「……残念ですが消滅してしまいました」
そう言って寂しげに笑う彼女を前に俺は何も言えなくなってしまうのだが、エウリシアは優しい口調で続けるのだ。
「ですが悲しむ必要はありません。彼は本来ならばこの場に居ない存在とは言え、その魂は貴方と深く繋がっています。何時かこの世界の何処かで産声を上げる日が来るでしょう」
そう言って微笑む彼女の言葉を聞いて俺は不思議と納得する事が出来た。確かにもう一人の俺が居なければ今の俺は存在しないのだから感謝の気持ちでいっぱいだった。だからいつか再び会う時が来たらお礼を言おうと思うのだった……その時までは忘れる事は無いだろうと思いながら。
そんな俺の様子を見て安心した表情を浮かべたエウリシアは更に言葉を続けるのだ。
「ルークさん、貴方には最後の試練を受けて貰います」
「それはどういう……?」
困惑している俺に対して彼女は笑顔で応えるのである。
「貴方には選択肢があります。1つはこのまま破壊神の使徒としての生を全うすること。もう一つは、この場において破壊神の座に就く事。どうしますか?」
その問い掛けに対して、俺は迷わず答えを出す事が出来た。
「破壊神の使徒のままじゃいけませんか?」
そんな俺に対してエウリシアは首を横に振ったのである。
「構いませんよ。破壊神の使徒としての生を全うすること、つまりは破壊神の使徒として人々を救済し、その魂をこの世界の礎にする事になります」
「それなら答えは決まっています」
俺がそう言うとエウリシアは満足そうな表情を浮かべると俺の手を取りながら優しく握ると言ったのだ。
「やはり貴方は私が見込んだ通りの人です……ではこれから宜しくお願いしますね?」
そう言って微笑む彼女に俺は頷いた後に、新たなる目標を得たのである……
こうして俺の長いようで短い旅が終わりを告げたのだった……。
無事にベルフォートを消し去ることが出来た俺達は、その後の事後処理に数ヶ月追われていた。特にカミナと渚の活躍は目まぐるしい程で、ヴェニスと協力して様々な手続きやら調整を行なってくれたお陰でスムーズに事が進んで行くのが分かった。
そんな俺はというと……自室に戻りソファーに座りながら本を読んでいたのだが……なかなか落ち着くことが出来なかったのである。
(あんな事が本当にあり得るのだろうか?)そう思いながらページをめくる手が止まってしまうのだ。もしあの時にもう一人の俺が来てくれなかったらと考えるだけでゾッとしてしまうのである。
(まあ、確かに感謝はしているんだけどな……)
残された謎も多く、ノートリアスの残党も未だに捕まっていない者が多い。
そんな事を考えていると扉がノックされたので返事をすると……扉が開かれそこにはリリアナさんが立っていたのだ。
「ルーク様、今良いでしょうか?」
そう尋ねて来た彼女に頷くと隣に座った彼女は微笑んでから話し掛けてきた。
「貴方のおかげで私達も救われました……本当にありがとう」
彼女のその言葉には感謝の気持ちが込められており、俺も笑顔で返すのだった。
「俺は自分の使命を全うしたまでですよ」
そう告げる俺に彼女は首を横に振りながら答えてくれる。
「それでも貴方のお陰で私が救われた事には変わりません……ですからお礼を言わせて下さい」
そう言うと彼女は俺の手を握り締めながら、真っ直ぐな瞳で見つめてきたのである。
「私は今とても幸せです……これも全て貴方のおかげなのですよ」
そう言って彼女は人の手で俺の手を握り込んできた。
そう、彼女は人の姿を取り戻したのだ。
ノルンの力によって、誘拐された当時の年齢まで若返り、記憶はそのままという正に時の魔導書の力を発揮したと言っても過言ではない。
それでも、こうして笑顔を見せてくれるようになったのだから嬉しく思うのは当然だろう。
「これからどうするのですか?」
俺がそう尋ねると彼女は微笑みながら答える。
「私は……これからは、この家でメイドを続けようと思っています」
そう言って窓の外を見つめる彼女につられて外を見るとそこには満開の桜が咲き誇っていたのだ。
そんな光景を見ていると彼女がこう口にする。
「この桜のように人々の心に希望や喜びが溢れるような……そんな日々が続くように」
その言葉に込められた想いは強く、その瞳には確かな決意が感じられたのだった。
そんな時だった。
部屋の外が騒がしくなると、勢い良く扉が開かれて飛び込んで来たのはカミナだった。
「ルーク!急いで支度しろ!」
突然の出来事に驚きつつも理由を尋ねる事はしなかった。
最近カミナはSランクの冒険者としてギルドの仕事を受け持つ様になった。
その為に今まで以上に多忙な日々を送っている。
そして、そんな中で今回のベルフォートの一件の処理が終わりギルドの仕事に戻って行ったのだ。
そんな忙しい彼女がわざわざこうしてやって来たという事は、何か大きな仕事が入ったのだろうと思っていると……
「ようやく書類仕事を終わらせたから今日はもう休めるはずだったんだけどな……」
どうやら俺の生活にスローライフとやらは無いらしい。
まあ、いいさ……これもいつもの日常ってヤツだろう。
そう思いながら俺は立ち上がるとカミナと共にギルドへと向かうことにしたのである。
「全く、ウチのギルドは優秀だからって大変な仕事を持ってくるんだからな」
そんな愚痴を零す彼女に苦笑を浮かべつつも否定はしない。確かに彼女の言う通りで優秀な人材が揃っているからこそではあるのだが、それでも引き受ける冒険者達のことも少しは考えて欲しいものだと心の中で思う俺であった。
だがそれは贅沢な悩みであるというのは分かっているのだ。
でも、それで良い。
何せ、思い通りにいかない事の方が人生多いのだから。




