マルミアドワーズの残欠
ノートリアスの施設を強襲した翌日、俺はマルミアドワーズの残欠を手にシュルフェーレを訪れていた。
理由はただ一つ、砕けたマルミアドワーズを修復する事。
問題は何故、破壊不可能の剣が壊れたのかだが、推察するに創造神の加護が関係しているのではないかと言う結論付けた。
仮にも元々の創造神なのだから、加護を無効化する事も可能だと仮定すれば納得がいくのだ。
どうすれば攻撃が届くのかを考えた。
結果だけ言えば、破壊神の加護を付与すれば対抗出来るのではないか?と結論付けたのだ。
しかし問題があるとすれば、創造神の領域に近付く事は困難であり、他の神々の加護でも無効化されてしまうと考えた上でだ。
そんな考えに至りながらマルミアドワーズの柄を握り復元作業を始めたのだが……直ぐに異変に気付いたのである。
残欠の一部に付着した血の跡から先が、異常な程に神力を吸収していたのだ。
「これは……一体?」
そう呟いた瞬間、ノートリアスが使用していた施設の方角から爆発音が聞こえてくる。
それと同時に激しい地響きが伝わると地面が大きく揺れたのだ。
(まさか……)
そんな嫌な予感を感じつつも急いで戻る事にしたのである。
そして転移で戻って来た俺が見た光景は信じられないものだった。それはまるで天変地異のような出来事であり、建物や地形等が全て変化していたのだ。その光景に驚きを隠せないでいると背後から声を掛けられる事となった。
「おう小僧!戻って来やがったか、施設はここまで壊したら、もう使えねぇだろう?」
ヴェニスがそう声を掛けて来たのだ。
「それは良いんですけど、何があったんですか?」
俺がそう尋ねると彼は笑いながら答えてくれたのだ。
「なに……ちょっと暴れただけさ」
そんな彼の言葉に対して俺は苦笑いを浮かべるしか無かったのである。
それから俺達は作戦会議を開く事にしたのだが、その前に気になっていた事を尋ねる事にした。それは何故ヴェニスがこの場にいるのか?と言う疑問である。すると彼はこう答えたのだ。
「まぁ何と言うか残しておいて、後々使われても面倒だから爆発させたんだ!」
「はぁ……そうですか」
何と言うか合理的ではあるのだが、一言欲しいものだが過ぎたことを言っても仕方無い。俺は本題に移る事にした。
残欠を解析鑑定した結果、創造神の血の一部が付着した箇所が変質していた。
どうやらこの剣に付着した血と破壊神の加護を付与すれば、対抗出来る可能性が見えて来たのだ。
問題は、マルミアドワーズの様な大剣だとどうしても速度が出ない点と素材としては少なすぎる点だ。
そこで俺は一つの結論に至った。
鏡花水月の刃に纏わせる事にしたのだ。
緋緋色金とマルミアドワーズの残欠、創造神の血液を練成して液化した物を、鏡花水月に纏わせる。
そして更に破壊神の加護を付与した事で、その効果は絶大だった。
鏡花水月の刃は緋色の刃を鈍く光らせ、神力を注ぎ込むと更に輝きを増す。
そして俺はその刃を握り締めると、一気に駆け出した。
「はあああ!」
そんな声と共に振り下ろされる一撃に対して、鉄板はいとも容易く切れてしまった。
そう感じたのは恐らく間違いでは無いだろう……まるで紙切れの様に刃が通り過ぎてしまったのだから当然だ。
そして次の瞬間、目の前の鉄板がバラバラに崩れ落ちたのだ。
その光景を見た俺は思わず笑みを浮かべていた。
(これならいける)
想像の範疇を超えた手応えが、俺にはあった。
こうして合板対ベルフォート用の武器が完成したのである。
そして今迄留めていた四龍の素材を使った双剣の作成に取り掛かる事にした。
炎龍の牙と爪を芯にして、緋緋色金と紫電の鱗、亀龍の樹甲殻を溶かし液状化した物を其々の芯に何度も繰り返し掛け流し馴染ませていく。
そして海龍の髭を柄に使い再度締め直すと素体は完成した。
残りは刃を造り研ぐ作業だけとなり、丁寧に打ち続け形成し寸分の狂い無く刃を研ぐ。完成したのは夜が明ける頃だった。
「出来た」
俺はそう呟くと出来上がった双剣を手に持ち感触を確かめる。
(凄いな……)
その出来栄えに満足していると、背後から声を掛けられる。振り向くとそこにはヴェニスが立っていたのだ。
「刀以外に双剣を使うのか?器用な奴だねぇ」
「まぁ色々とありまして」
俺は苦笑いを浮かべながらそう答えると、ヴェニスは興味深そうに俺の手元にある双剣を見ていた。
「へぇ……中々良い出来じゃねぇか!」
そんな彼の言葉に対して俺は素直に感謝の言葉を述べる事にしたのだ。
すると彼は笑いながらこう口にしたのである。
「まぁ頑張れよ!小僧」
(相変わらずだな)
俺はそんな事を考えながらも、彼に別れを告げるとその場を後にした。
そして翌日、ベルフォートとの決戦を行う為に俺達は特訓する事になったのだ。
場所は王都から少し離れた場所にある平原であり周囲には何も無い場所であった。
「さて、時間は有意義に使わねばならぬ故、時の魔導書の真価を発揮するとしよう」
そういったノルンが手を打ち鳴らし、神力を吸われる感覚があった後、眼の前の空間が歪んだのを確認した。
「これは……」
俺が驚いていると、ノルンが説明してくれた。
「うむ……この空間は時の止まった世界じゃ」
その言葉に俺は思わず息を飲む。つまりここは時間の流れから切り離された世界と言う事になるからだ。
「この中に入れば後はわかると思うが、己が思う最強の存在と相対する」
つまりはあの神に挑むという事だった。そして彼女は俺に向かってこう告げたのだ。
「さぁ……行ってまいれ!」
その声と共に俺の体は瞬時に移動して行った。そこは何も無い空間であり、何処を見ても白い世界が続くだけであった。
(何処に居るんだ?)
そんな疑問を胸に抱いた瞬間、背後から声が響いたのである。
「死なぬとは言え、痛みはあるからな……心して取り掛かると良い」




