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幽閉された式神使いの異世界ライフ  作者: ハクビシン
3章-2 ベルフォート
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逃げ場無し

「我等が求めるのは魔石による延命それが始まりだった」


 その言葉の意味を理解出来ず首を傾げていると、彼は淡々と話し始める。


「我らは元々ウィケッド帝国と教団の異端殲滅騎士団だった……だが帝国の未来の為に共に戦っていた我等には魔力不全という悪夢に苛まれていた」


 静かに頷く彼に更に続きを促すように視線を向けると、昔を懐かしむかのように語り続ける。


「人を超える存在になれば健全な肉体を手に入れる事が出来る……そんな馬鹿げた思想を抱いていたのだ……当時はな」


 そんな考えを持つ彼等が辿り着いた結果は人であることを辞める事。人を超える力を手に入れる代わりに……人としての感性を失うという事だった。


「だが人を捨て魔に堕ちる……そんな事は許されない行為だった。そんな時、救いの手を差し伸べたのが【教授】だったのさ、魔力不全を治療するという名目で、魔石や核を体内に埋め込む実験を行なっていたのだ」


 恐らくはその魔石の被験者が【剣聖ヴェニス】なのだろう。


「人を超えた力を得る代わりに人としての感性を失う……そう考えた我等の前に教授は現れたのだ。奴は言ったよ『その狂気の発想、実に素晴らしい!まさに私の追い求めていた答えです!』とな……」


 そんな狂った存在を良く思う者はおらず、だが奴はそんな空気を読まずに続けたそうだ。


「肉体に魔核が適合したのは、僅か数名足らず、その中で驚異的な適合率を出したのがヴェニス、貴方だった。だが、姿を消したのもその数値が出る直後だった。貴方が死んだとされる報告書を最後に行方は途絶えたのだ」


 つまり目の前にいる隻腕の騎士風の男は、ヴェニスが消息を絶った後に魔石や核を取り込んだという事だろう。そんな推測をする中、彼はある質問をしてきたのである。


「だが、我々の計画は一歩届かず魔石の肉体への組み込みが失敗に終わる事が多くなったのだ。そのせいで様々な副作用があった……酷く弱くなる者、魔物の姿へと変わる者、人としての感情が薄くなったり……どうしてか分かるか?」

「魔石の暴走ってヤツだな、俺にもあったさ」


 彼の言葉に俺は思い当たる節があった。それは過去に戦った蛇眼の男も同様の症状があり、最初に会ったリリアナさんの症状そして魔石を埋め込まれていたという事である。


(成る程……そういう事か)


 奴等の真の狙いは教団の壊滅じゃない。魔石で実験する事だったのだと……俺は確信したのだ。


「それでアンタ達はどの様にしてこの国へ来た?簡単に国境を越える事は出来ないはずだ」


 すると彼は笑みを浮かべると答えるのである。


「【教授】が造った空間魔術、ゲートを使えば一瞬で来る事が出来るからな」

(まさかそんな物まで開発していたとはな……)


 そんな驚きを隠せない俺にヴェニスは静かに口を開いたのだ。


「俺が生きてる事を知った奴が消しに来る可能性もある。何せ頭目は代理を立てて毎度姿を変えて忍び込んでいた事がバレちまった様だからな」


 そう言うと彼は何かを懐かしむ様に静かに目を瞑ると語り始める。


「俺の蛇の目は家族と相違ない。【剣聖】は死んだんだ。あの時あの場所で……今の俺はただのヴェニスだ。覚えておけ……」


 その言葉には威圧感があったのだが、どこか悲しげな表情を浮かべていたのだ。すると隻腕の男は立ち上がると言ったのだ。


「お前達の事は教団に報告をしておく。好きにするが良い」

 そんな言葉に俺は静かに頷くとこの場を後にする事にしたのだ。


 既に俺に出来る事はない。情報を共有する事の方が先決だと考えたからである。

 そして俺はその場を後にすると奥へと向かった。


「見つけたぞ教授!!」

「あぁ、随分と時間が掛かりましたね。それでヴェニスは生きていましたか?」

「あぁ、しっかりと始末してきたぞ」


 その報告に安堵の表情を浮かべると次の言葉を待っている様子だが……。


「それは良かった!やはりあれは失敗作でしたからね!」


 嬉しそうな声を上げる男に顔を顰めながら睨みつける。だが当の本人はそんな事気にもしてないのか話し続けるのだ。


「完璧な状態でさえ、事故崩壊を始める人工魔族は多いと言うのに事故崩壊をしなかったのは二人目ですよ。被検体は未だ生きているようですねルーク卿?」

「残念だが貴様の企みは失敗に終わるだろう。俺がトドメを刺しに来たからな」


 そう答えると男は嬉しそうに笑みを浮かべるのだが、それは胡散臭いとしか言えない程に不気味な笑みであった。


「それはそれは……貴重な情報をありがとうございます!」


 そんな軽いやり取りを終えると彼は次なる指令を伝えるために口を開く。


「では最後に残ったベルフォート樣の因子の場所ですが、こちらですよ」


 教授は自らサーコートを脱ぐと、胸の中心部に怪しく光る魔石が埋め込まれていた。


「まさか……そこにベルフォートの因子があると言うのか?」

「えぇ、その通り!最も成功体はもう死にましたが、因子を核として縫合したのです。我ながら素晴らしい作品を産み出す事が出来ましたよ」


 そう言うと彼は不気味な笑みを浮かべたまま、俺達に背を向けて歩き出す。


「貴様を逃がすと思うのか?」


 そんなヴェニスの声にも耳を貸さず……そして言葉を続けたのだ。


「いえ、もう私は十分に楽しみましたからね!あとは彼の者にお任せしますよ?少なくともそこの小僧よりは強いはずですしね」


 その言葉を残して立ち去ろうとする教授にヴェニスは斬りかかったのだが……奴は霞のように姿を消すとその場にはもう姿はなかったのである。


(空間魔術か?それとも転移なのか……どちらにしても厄介だな)


 俺はため息を溢すとその場に座り込むとヴェニスが声を掛けてきた。


「仕方無ぇ……俺達も戻るとするか」


 彼の言葉に頷く事しか出来ず、俺は無言のままその場を後にしたのだった。


(これ以上の奴等の手がかりは無いようだな)


 そんな事を考えながら歩く俺達は教授の言った彼の者とやらに遭遇した。


「チッ!変装者の大群か……面倒くせぇのが出て来やがった」


 ヴェニスはそう言うと仕込み杖を構えた。

 すかさず俺も鏡花水月を構え、背中合わせになるように並ぶと俺は相手の魔力を探る事にした。

 凄まじい勢いで生成される軍勢は、既に数十を超えているだろう。


(変装者の目的は何だ?)


 一瞬そんな事を考えるのだが、奴らの狙いは考えるまでも無かった……物量による乱闘戦に他ならず、中心部の男から伸びる無数の線は、既に大軍へと供給され始めていたのだ。


(時間を与えるだけ不利になると言う事か……)


 そう判断すると俺は合図も無しに駆け出したのだが、奴等は即座に反応を示した。何故なら狙いが俺一人に絞られたからである。そんな状況になったからこそ相手の策を理解したのだ。

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