金貸し
「お前等、手を出すんじゃねぇぞ」
「──お待たせしました! これが契約書になります!」
「カリソンさんヨォ、コレで借金は無しだ。少しは勉強になったろ」
「……はぃ」
男は契約書をその場で破り捨てた。
どうやら契約書と借用書の2つを纏めて綴じていたらしく、書いてあった金額は、白金貨1枚と大金貨5枚と記されていた。
「よし、じゃあ行くぞ。……ったく、手間かけさせやがって」
「待ってくれ、まだ済んでいないよな?」
「あぁ? 何だ、まだなんかあんのか?」
「あぁ、あるよ。此方は借金を白金貨2枚で返した。大金貨5枚か金貨50枚渡してもらわないとな」
「チッ、面倒なのに目ぇ付けられちまったな。分かってる、払うから此方に来てくれ。オイ、金庫出せ!」
「あぁ、払ってくれればそれで良い。じゃあ、俺は用事があるからもう行かせてもらうよ」
「──待って下さい!!」
俺達がその場を離れようとした時、先程まで大人しくしていた少女と男性、カリソンさんが声を上げた。
そして、俺の前に来た。
「ん? どうかした?」
「あの、助けてくれてありがとうございました! 私はカリソン・デクスと言います! あの、貴方のお名前は?」
「……ルーク」
「そうですか! ルーク様! 本当にありがとうございます!」
「……いや、別に気にしなくて良い。カリソンさんの菓子の味が良かったから金を出しただけだし、払う相手が金貸しから俺になっただけだから、という訳で後で仕事渡すね」
「えっと、それはどういう……」
「事は良いんだよ。それより早く行った方が良いんじゃないか? 多分、妹さんが待っていると思うよ」
「あっ! すみません! 次にいらした際にお礼をさせて頂きたいと思います!それでは失礼します!!」
彼は深く頭を下げ、妹と共に去って行った。
「……おい坊主。まさかとは思うがあの菓子屋を助けたのは気紛れじゃないよな?」
「勿論違うよ。……ただ、彼の作る菓子の味が気に入っただけさ。値段も手頃なのに味はしっかりとしてるし、オッサンも食べてみ?」
俺は金貸しのオッサンに、1つ菓子を渡し自分も摘んだ。
オッサンは手渡された焼菓子を見ながら食べると、目を見開いた。
「──おぉ、確かに悪くねぇ」
「だろ? さっきも言ったけど、俺は彼の菓子の味が気に入った。……でも、アンタ達は金が回収出来ないから、取り立ての代わりに妹を連れてこうとした。だから、俺が代わりに払っただけ。投資ってのは長い目で見るからこそ意味があるんだ。まぁ、あの店は薄利多売って感じだから材料費と生活費でプラスは少そうだったけどね」
「フンッ、ガキが偉そうに。……だが、この菓子は気に入ったぜ。次に来る事があったら、今度は客として行ってみるか……ほら、大金貨5枚」
「うん、是非ともお願いするよ。じゃ、釣り銭貰ったし俺帰るわオッサン」
金貸しから大金貨5枚を回収し、その場を離れようとするが、呼び止められた。
「おい、待ちな。……俺はオッサンじゃねぇ。ヴェニスだ。雇い主は居ねぇ、商業ギルドにも登録してある個人貸しだ。……覚えときな、面白え貴族の坊っちゃん」
ヴェニスはニヤリと笑いながらそう言うと、手を振り帰っていった。
「……変な奴。それにしても、今日は疲れたな」
再びモルテの背に揺られ、家路についた。
「ただいまー」
「おかえりなさいませ。……ルーク様、少々お聞きしたい事が御座います」
出迎えたのは、俺の執事となったリーベルトだった。
この時間、渚以外の出迎えは珍しいのだが、恐らく夕方に来る婚約者達の為に準備をして居るのだろう。
リーベルトは今のところ、基本的に俺の領地経営の勉強を見てくれている。
それ以外は経理担当や金庫番としての雑務を率先的にやってくれていた。
因みに、彼は何故か他のメイドには指示を出しておらず、全ての作業を自分で行っていた。
そんなリーベルトが、俺の顔を見るや否や質問してきた。
「……どうかしたのか? 俺に答えられる範囲なら答えるぞ」
「──ルーク様は本日、白金貨を2枚程郊外の菓子店に借しましたか?」
「……何で分かったんだ?」
「──やはりそうでしたか。先程、ヴェニスと名乗る金貸しから、金銭契約と店舗権利の書面が届きまして、その様な内容を話しておりましたので。……それで、ルーク様は白金貨をお貸ししたのですか?」
「白金貨2枚……正確に言えば1枚と大金貨5枚だけど、それがどうかしたのか?」
リーベルトの口調は普段と変わらないが、表情は笑っていない。
──これは相当怒っている様だ。
「──私めは金庫番や経理担当としての役職をさせて頂いております。その為、ルーク様の消費した個人的な使用金額も帳簿に記録しております。個人的な使用も、月に大金貨2枚程度であれば問題ありません。ですが! 開拓中とは言え、領地経営を行う方なのですから、予想外の金額を勝手にお使いになるのは止めて頂きたいのです!! ……各地に落とす費用の使い方、覚えておりますね?」
「うっ、勿論覚えてはいるよ。……相談しなかった事は反省してます」
「……分かって頂けたのならば、宜しいのです」
確かに、リーベルトの言っている事は正しい。
幾ら俺が金を持っているとは言え、領主になろうとする者が、個人の一時の感情で1箇所にだけ大金を浪費してしまう事が常になれば、領地運営に携わる際にも支障が出るかも知れない。
領地を領主が視察する際には、その行く先々、様々な場所にお金を使い、経済活性を促す事も含まれており、自治領内の偏りが無い様に調整する事も領主の義務だ。
「今後は先ず相談を行う。でもな、今回の出費は、あくまで俺のポケットマネーで出したものだし、長い目で見ればプラスになる物件だと思うんだよ。菓子作りの腕は確かだったからね。リーベルトも食べてみなよ」
俺は袋の中から、食べやすそうなクッキーを渡し、リーベルトも「それでは」と言ってクッキーを口に運ぶ。
「──噂になる程には美味ですね。確かに、この腕ならば菓子店を営むと言うのは中々悪く無い考えだとは思いますが、それはあくまで噂から立ち寄る人の居る短期的な話で、噂が過ぎた後……一過性のものかどうかしょう」
「まぁ、そうだね。……でもさ、この味が銅貨3枚って言ったらどうだ? 大銅貨でも銀貨でも無くだ。幾ら何でも安過ぎると思わないか?」
「……確かに、仰る通りかも知れません。ちょっと調べてみますか」
「あぁ、頼むよ」
俺は自室に戻り、机の上に持ち帰った菓子を置き、リーベルトを待つ事にした。
夏バテキツイですね。
皆様もお気おつけてください。




