コカトリスの大量発生
「ただ今戻りました」
「お帰り、二人共ご苦労様」
「いえ、それより、コカトリスの事で少しお話があります」
二人を出迎えて早々に言われた言葉に、少し違和感を覚えたが、そのまま話を促す様に頷いた。
「此度のコカトリスは、恐らく喚び出された物が野生化した可能性が高いと思われます」
「…へぇ、どうしてそう思うんだ?」
「まず、コカトリスの変異体は珍しく、過去に数度報告されたのみです。また、今回確認出来た雛の内、側にいた成体が3羽居ましたが、卵はありませんでした。つまり、最低でも1羽のコカトリスが成体になっているという事です。ですが、あのコカトリスは変異の時点で通常のコカトリスより二回り以上大きかったのです。そして、巣穴の中には、無数の喰い散らかしたコカトリスの残骸があり、魔石が残されて居ませんでした」
「成る程、続けてくれ」
「はい。魔石を摂取し続ければ、力を増すという事を知るのは、知恵があれば造作も無い事ですが、同族の物を摂取する方が効率的だというのは、人が手を出さない限り知り得ない事でしょう。ですので、元々人の手によって喚び出された物が、野生化したと推測したのです」
「そうか。確かにそう考えれば、この辺りでコカトリスを目撃したという情報が無かった事にも納得がいくな」
人の手で知恵をつけた個体なら、人目につかない様に行動する事も出来るだろう。
問題なのは、喚び出した当人が何処の誰なのかだが、今は考えるだけ無駄だろうな。
「それと、もう一つ報告する事があります」
「ん? 何だ?」
「今回の変異体の雛の件ですが、献上品として2羽確保しております」
「そうか。それで、お前の見立てはどうなんだ?」
「従魔として育てる事を推奨します」
「だろうな。分かった。明日、従魔として登録しよう」
「はっ!」
「それと、その雛の世話はカルロに任せようと思う。何かあれば俺に連絡をしてくれ」
「分かりました」
俺は二人が退室した後、部屋で一人思案していた。
(まさか、こんな事態になるとは想定外だったな。変異体とはいえ、コカトリスが近くに居たのもそうだけど、こうなると暫くの間は近場の森に入れる冒険者のランクが変化するだろうなぁ)
魔獣の変異体の討伐には、最低でもAランク以上の冒険者が3人以上必要となる。
つまり、変異体の発見次第、速やかに街や国へと連絡が行き、冒険者達は変異体討伐の為に、森へと向かう。
そうなると、森が空くのを待つか、危険を承知で踏み込むかの何方かになるが、今回はカルロ達が討伐したので、そう長い規制は無いと思われる。
それよりも問題なのは、今回の勝負を仕掛けて来たヴリトラールだ。
近隣でのコカトリスが目撃されない状況で、何故ピンポイントに彼は居場所へ行けたのだろうか?
もしかしたら、既に誰かから聞いたのだろうか? 下手をしたら誰かが従えている可能性もあり得る上位化コカトリスの居場所を。
「……面倒事は嫌いなんだよなぁ……」
思わず愚痴が出てしまうが、このままだと何処かで大きな事故が起きかねない。
一を聞いて十を知る訳では無いが、明日にでも話を聞き出した方が良さそうだ。
「あぁ、明日は早いし寝るか」
コカトリスの上位変異体についての報酬報告についての書面を一目し、今後の対策を考えながら眠りについたのだった。
翌日、朝食を食べながら書類を確認していたら、突然扉がノックされた。
「おはようございます。本日はどうなさいますか? お出掛けなさるのでしたら、渚はお昼の用意を致しますが」
「あぁ、出掛けるけど昼前には戻るから、戻ってから食べるよ。ありがとうね」
「畏まりました。それでは、いってらっしゃいませ」
「行ってきます」
いつもの様に、軽く返事をして俺は屋敷を出た。
カルロ達と冒険者ギルドに向かい、報酬を受け取ろうと思ったのだが、どうやらギルド内が慌ただしい様子だ。
「これは一体どういう事?」
「申し訳ありません。今、王都の郊外でコカトリスの群れが複数確認された為、討伐依頼が出たのですが、確認された範囲が広く、低ランクの冒険者は、殆どが他の依頼を受けれない状況となっておりまして……現在、情報のまとめ等でこの様な状態です」
「成る程、状況は理解した。昨日の変異体との関係は?」
「不明です。ただ、ギルマスは人為的な感じがすると言われて居ました」
「……そうか。報酬は受け取れるのか?」
「そちらについては問題ありません。ただ、従魔登録の方は……」
「分かった。落ち着いてからまた来るよ。忙しい所悪かったね」
「いえ、こちらこそお力になれず申し訳ございません」
受付嬢は深々と頭を下げて謝ってきたが、彼女が悪いわけじゃないのだから、気にしないで欲しい。
カルロとノルドが報酬を受け取り、二人とはそのままの流れで解散し、俺は1人バーゼルシュタイン卿の屋敷に向かった。
解毒薬の効果の確認と、攻撃された彼から話を聞き出す為だ。
………………
(それにしても、本当に貴族のお屋敷なんだな。装飾の量だけでも、うちの倍くらいあるんじゃないか?)
門の前にいる警備兵に用件を伝え、取り次いで貰うまで30分程待たされたが、その間暇だったので、前回来た時には気にしていなかった装飾等、周囲を観察しながらそんな事を考えていた。
「お待たせしました。ルーク様。ご案内します」
「よろしくお願いします」
中に入ると、直ぐに応接室に通され、紅茶を出して貰った。
出されたお茶を飲みながら待っていると、部屋の外から数人の足音が聞こえ、やがてドアが開かれた。
「待たせたな。ルーク殿」
「いえいえ、忙しい中お時間を頂きありがとうございます」
「今日はどういった要件かね?」
「先程門番の方に言った通り、解毒薬の効果と襲われた経緯の確認が出来ればと思いまして」
「そうか。まずは、その話だが、あの解毒薬のおかげで息子は助かったよ。話を聞いたが、変異体のコカトリスを討伐したとか……何と礼を言えば良いか」
「いえいえ」
解毒薬を渡しはしたが、礼が欲しくて渡したわけではないので、話を進めていく事にしたのだった。




