二人の精霊契約
質問はまず、「何処で指輪を手に入れたのですか?」から始まり、次第には「どうやって準備をするのでしょうか?」等々、気になる事を次々に訊いて来るのだ。
そこで、一度落ち着かせるために、どういう方法で契約に失敗したのかを細かい部分まで聞く事にした。
「成程、失敗の理由は単純に喚び出す対象……今回は火精霊。そして場所、道具の相性が悪すぎたのですね」
「父からは、精霊は人の思いに敏感だから、自分の気持ちをしっかり伝えるようにと言われて、道具には精一杯の想いを込めてみたんですけど」
「さて、ティルマン君に問題だ。この場合どういう道具が正しいか分かるかい?」
「はい、精霊は喚び出す環境や触媒、その人の魔力や神力が影響するので、屋上の場合なら、噴水の近くで行えば、地精霊か水精霊、風精霊なら喚び出す事は出来ると思います……どうですか?」
「正解だよティルマン君。この条件だと、精霊によっては召喚の難易度が大きく変わってくるから、ベロニカさんにとっての最適な道具を探さないと駄目ですね」
ティルマン君は不安げに答えたが、実際はそこまで難しい事ではない。
何故ならば、精霊は基本人間に危害を加えることは無いからだ。
精霊とは、自然現象の具象化である。つまり、人間の身近にあるものが精霊と繋がるきっかけに成る。
「それじゃ、喚び出してみようか? ティルマン君も試して見ると良い」
「ぼ、僕もですか!?」
「うん。だって、まだ精霊契約済みの指輪を貰っただけだろう? 実際に喚び出すのも技術を得る為にする大事な過程だよ」
「わ、分かりました!」
そう言って、二人は指に嵌めていた指輪をしっかりと見据える。
「よし、それじゃやってみるぞ。目的は地の精霊だ」
「「はい!」」
二人が真剣な表情で見ている所で、俺は触媒用の土をシートと一緒に取り出し、その上に魔石を置いた。
「ベロニカさんは、精霊に呼びかけてください。ティルマン君もね」
「分かりました」
「はい」
ティルマン君の方は、若干緊張している様子だが、慣れなければだな。
そういえば、俺が初めて魔法を使った時はどうだったろうか……思い出せない。
「「我が呼び掛けに応え、姿を現せ!!」」
二人の声が重なり響くと同時に、土に置かれた魔石が輝きを放ち、周囲の光が凝縮されてゆく。
やがて光は収束し、一つの形へと変わる。
現れたのは、ふわふわと浮かぶ球状の精霊。
二人の声に呼び寄せられた地の精霊だ。
「初めまして、私はベロニカ・フォン・リーティンと言います。貴方の名前は?」
『……』
「私と契約してくれませんか?」
しかし、精霊は反応する事は無く、ただふわりと周囲を漂っていた。
そして、ティルマン君の指輪に吸い込まれる様に消えた。
ふむ、ティルマン君の方が先に成功したのか。
俺が手を貸した方が良かっただろうか? でも、これはあくまで本人の問題だし。
「そっか……」
「ベロニカ様、どうかしました?」
「やっぱり私、精霊に嫌われてるのかな……」
ふぅ、仕方が無い。このまま帰る訳にもいかないよな。
「ベロニカさん」
「あ、ルーク子爵。それにティルマンさん」
「少し、待っていてください」
「ルークさん?」
そう言うと、俺は指輪に魔力と神力を込め、自分の指輪に契約した彼女達を喚び出した。
「━━来たれ四精霊」
「エリュテイア……此処に」
「マスター? 何か私ご用?」
「ルーク、遊ぶ? 遊ぶの?」
「エアリスに何か御用事ですか~?」
喚び出した四精霊は確かに、俺が契約した指輪から現れた。
だが、その姿は契約した時の彼女達とは大きくかけ離れた姿をしたものだった。
何故か、皆成長しておりエリュテイア以外は面影があるのだが、エリュテイアは球状の姿しか知らなかった為、美しい大人の女性の姿で現れ、他の精霊に関しては、エリュテイアと同じ位の姿をしていた。
いきなりの精霊召喚と、その大きさにベロニカ嬢とティルマン君は言葉が出ないみたいだが、そこは然程問題じゃ無い。
まぁ、俺が一番気になったのは、ティルマン君の足元に精霊の幼体が沢山いる事である。
「あれ!? 何時の間に!? って、ちっちゃ!?可愛いです!!」
「ティルマンさん……」
「ベロニカさん、彼はどうやら水や地の精霊と相性が良いみたいですね、でも、安心して下さい。ほら、見ての通り……」
「えっ?」
「きゅっ?」
「ん、怖くないよぉ?」
「きゃあっ! こっち来ちゃった!! 凄い! 凄いです! これが精霊……」
四精霊を喚び出したのは、ある意味場を整える為だったが、ベロニカ嬢の近くに寄ったのは、中級に成りかけた火の精霊や言葉を発するまでは行かないが、鳴く様な音を出せる風の精霊が集まっていた。
この辺りは、本人の適性だからどうしようもないな。
おそらくベロニカ嬢は火と風系統の魔術が得意なのだろう。
「ティルマン君、ベロニカ嬢。さて、もう一度やってみようか?」
「はい! 今度は大丈夫ですか?」
「ああ、多分ね。今度こそ成功させてあげよう」
「はい!」
その後、何度かチャレンジした結果、何とかベロニカ嬢は全ての精霊と契約する事が出来た。
契約出来たのは、中級に成りかけた火の精霊以外は全て下級精霊だが、共に成長する余地はあると思う。
ティルマン君に関しては、元々契約済みの指輪をアル爺様から貰っていたので、それとは別に新しい指輪を用意して、そちらに契約した精霊達は契約の証を着けてもらった。
ティルマン君は二つの指輪を持つ事になるので、明日以降にでもアル爺様に返しに行けば問題は無いだろう。
「ルークさん、ティルマンさん。ありがとうございました。お二人のおかげで、私は精霊と契約することが出来ました」
「いぇ、僕は何も……全てルークさんのお陰です。まさか自分で契約出来るなんて思ってもみませんでした」
「ふふ、私も最初はそうでしたもの。では、今日はこれで失礼します。後日御礼を致しますね」
そう言って、ベロニカ嬢は嬉しそうな表情と共に帰って行った。
俺はと言うと、先程まで精霊達が居た場所に腰を下ろし、足を伸ばす。
「皆ごめんね、精霊契約するのに喚んだだけだから、まぁ、魔力と神力を存分に食べて、蓄えてくれ」
「「はーいっ!!」」
そう言って、精霊達を送還させた後、俺も屋敷に戻った。
明後日の霊薬師の科目が楽しみだ。




