情報は適度に扱うのが良いと思う
こういった手合は、すぐに動くというのは得策ではないのだが、相手が分かればどうとでも動く事ができる。
ただ、生憎と踏みつけている小太りの生徒に憶えがない。
それ以外の親は男爵か名誉としての騎士爵、要は貴族階級は俺よりも下だから、対して問題は無い。
俺は直ぐに鑑定を行い、名前と年齢の確認をして頭の中にある貴族の情報と照らし合わせた。
相手の情報を引き出せれば、優位性を得る事ができる。
要は、相手の親が俺の爵位と同じか上下のどちらかという事が分かれば良い。
仮に伯爵家の者だとすれば、その子供は伯爵かと言えば、答えはノーだ。
何故ならば、伯爵位の子供は一人っ子の場合、基本的には長男が継ぐ事になっているが、他に居る場合、能力次第では下の兄弟が継承する事もある。
そして、次期当主では未だ継承したわけでは無い為、どうしても叙爵された者の方が立場は上となる。
しかしながら当然勘違いする者は出てくる訳だ。
……その例が目の前の奴等という事だとは思うがどうしたものか。
「おい、何とか言ったらどうなんだよ!」
「そうそう、お前のご主人様のお出ましですよ~ってな」
「ぎゃはは! そりゃ傑作だぜ!」
「……」
「おい、無視すんじゃねぇよ! うわッ!!」
ティルマン君を踏みつけている足が離れた瞬間、俺は一瞬で距離を詰めると、相手の足を掴み捻り上げながら床に叩き付けた。
「ぐあっ! は、離せ! クソ野郎が! こんな事をしてただで済むと思ってるのかよ! 俺の父親は伯爵なんだぞ!! 今すぐ手を離さないと、お前の家はどうなるか分かってるんだろうな!!!」
「へぇ、それは知らなかったよ。でも、そんな事はどうでも良い。それよりも、先に手を出したのはそっちだからな? あと、俺の父様も伯爵の位を授かっているがね。そもそも、俺が誰か知っての行動か?」
「は? 誰だって? 知るわけ無いだろ? 平民と仲良くしてるようなヤツ」
「そうか……なら、教えてやる。俺はルーク・フォン・アマルガム、爵位は子爵だ。上級生のクセに勉強が足りないのではないかね?」
流石に見たことの無い生徒だとは思ったのだが、鑑定をしてみれば案の定、上級生なら見たことがなくて当然だ。
拗られた足は、あと少し力を加えるだけで関節を外す事が出来るが、流石に生温いのでギリギリのラインで動かし痛みを与える。
「アダダダダッ!! は? い、いや、嘘だ! お、おぃ、お前等助けろよ!! お前等がやれって言ったんだろうが!なぁ! おい!」
「…………」
「おい! 何黙って見てるんだよ! おいっ! おぉい!」
「もういい。ティルマン君、大丈夫かい?」
偉そうに吠える生徒を雑に放り投げ、ティルマン君の確認をする。
服は先程見た時より破けた所が幾つかと、蹴られた跡が残っているが、打撲と擦り傷位で大した怪我はないらしい。
靴を履いてないところを見るに脱がされたのだろう。
「えぇ、僕は大丈夫です。ありがとうございます。ルーク様」
「……様呼びは勘弁してくれ、『回帰』と『回復』……服はこれで良し、後は靴だけど何処に?」
「えっと……多分向こうに投げられたので」
「分かった」
「あ、あの……僕も一緒に行きます」
「あぁ、頼む」
ティルマン君の案内の元、俺は彼が履いていたであろう靴を探しに行った。
「……あった。これか」
「はい」
「……酷いな」
「……」
「……行こう」
見つけた靴は、最早靴としての機能を果たせなくなっていた。
流石にコレでは歩けないと思い、俺はティルマン君と共に隣の教室へと向かった。
教室に入ると、まだ授業が始まっていなかったようで、皆が此方に視線を向ける。
俺は、一目散に彼女を見つけその席に向かう。
「ルーク君、その子は?」
「あぁ、ちょっと色々あってさ、例の薬品余ってない? あれば分けて欲しいんだけど」
「あるけど、どうしたの?」
「彼の靴を修繕したくてね」
「そうなのね。はい、どうぞ」
「あぁ、ありがとう。エリーゼ」
「良いわよ別に、そろそろ授業の時間になるから、早く戻った方が良いよ」
そういうエリーゼは、唇を指差しながら目配せをしていた。……成るほどね。
俺は、そのままエリーゼの頬に手を当て顔を近付けると、彼女の額にキスをした。
「ちょっ!?」
「ありがとな」
「もぅ、こういう時は口にするものよ」
「悪いな。じゃ」
「うん。また後でね」
俺は、教室を出るとティルマン君を連れて、自分の教室へと戻って行った。
教室に戻ると、アル爺様は未だ来ていないらしい。
取り敢えず靴を修繕する為に、エリーゼから貰った溶液を取り出し、リトスの糸を加工しながら、靴底を形成していく。
時間にして、僅か数十秒程度で原型を取り戻し、再び靴として機能を果たすようになった。
「ほい、ティルマン君の靴、修繕終わったよ。序に靴底を改良しといたから何かあったら報告して」
「え? あれコレって? 何で」
「ま、細かい事は気にしないでくれ。それより、さっきはすまなかったな、直ぐに助けれなくて」
「いえ、気になさらないで下さい。こういうのは慣れていますから」
流石に慣れているで済ませて良いものじゃ無いだろう。
現に、他の生徒の視線は半分は見て見ぬ振り、残りはイジメグループの生徒と怯えている生徒で別れている状態だ。
流石にこのまま放置するのも、後で何かされる問題しかないのは目に見える。
「……先程の件に関して、関係者の家には直接的に被害を与える事は止めよう。ただし、錬金術師ルークとしては、各貴族家からの注文依頼を一時的に中止させてもらうから」
俺がそう言うと、イジメグループは勝手に言ってろと言わんばかりの態度を取り、ティルマン君は、申し訳無さそうに頭を下げた。
此方としては困る事は無いので、後から何か言われても知らぬ存ぜぬだ。
そして、未だ放り投げた場所で藻掻いている莫迦に、釘を刺すのを忘れてはいけない。
「それと、彼に関してだけど、俺の友人に対しての攻撃は、俺に対する攻撃と見なすから」
「は? お前馬鹿か? お前みたいなのが、伯爵家の次期当主の俺をどうこう出来る訳無いだろ? 何寝ぼけた事言ってるんだ?」
「……はぁ、やっぱり分かってないか。ティルマン君、少し下がっててくれ」
「はい」
「……グラキエス・フォン・モンターナ、年齢が10歳、利き手は左手で得意武器は無し。正確に言えば、魔術主体な戦闘法を好むが魔力量はそれほど多く無い。そして、父親であるモンターナ卿、爵位が伯爵、元は高祖父が騎士団長であり家督を継いだ。母親は元学院の魔術教師。弟は学園に通う生徒だが、成績は当時の君より優秀と。次期当主も怪しいな?」
「……ッ!!」
流石に家名が分かれば、情報は出てくる。
それにしても、この程度の事も調べられないとは、やはり貴族のボンボンはダメだな。
「ついでに言えば、子爵である俺に対する不敬罪が在るワケだが、これをモンターナ卿に伝えても良いがどうしたものかな?」
「……クソが!覚えてろよ!」
何とも小物臭いセリフを残して逃げていった。
流石にやり過ぎた気もしないではないが、大事な人材でもあるティルマン君を助けれたので良しとしよう。
他の生徒は目を背けているのだから、問題は無いだろう。




