いつの世も自分達が偉いと思う者は居るようで
「皆さんに最初に取り組んでもらう事は、球型ではなく、自分の魔力で立方体の結界を張る事。では、始めて下さい」
平面に出す結界は、球状の物よりも出しやすい初歩の物だが、扱い慣れない者の場合、魔力の均等化が難しく感じる物だ。
「シールド」
「……シールド」
並びの順番が来ては、皆が口々に呪文を唱えているのだが、完璧な状態が出来ている者はそう居ないようだ。
そんな中、俺の隣に座っていたエリーゼが立ち上がり、手を翳すと彼女の前に半透明の板が現れた。
「エリーゼさん、素晴らしいですね。では、他の人も出来るように頑張りましょう」
褒められたエリーゼは当然だと言わんばかりの笑顔で席に着いた。
そして俺の番になるのだが、俺はそのまま自分の周囲を結界で囲い座った。
「ルーク君は……まぁ、良いとしましょう。それじゃあ、次の人」
俺はその後、何度か当てられたが微妙な判定をされたのか、カーマイン先生も開いた口が塞がらないと言った様子だった。
「皆さん、初めから完璧にできる人はそうそういませんから、気を落とさないでくださいね。それでは、全員が平面に出来る様になったら次に進みます」
その後も授業は進み、最終的には全員が出来るようになったのだが、やはり最初から出来たのは、俺とエリーゼ、そして、アーサーを除く王侯貴族組だけだった。
授業が終わり、教室を出るとすぐに声を掛けられる。
「ねぇ、貴方。さっきの授業で使っていたのは一体どういう原理なのかしら?」
声に振り向くと、そこにはカーマイン先生が立っていた。
「あれは、結界を球状にして自分の周囲に展開しただけですけど……」
「そんな筈は無いわ。だって貴方、詠唱してなかったじゃない。それに、私が見た限り、貴方の魔力で張った結界の密度は私の想定した倍以上あったのだけど」
「先生、その言い方だとまるで僕が不正でもしたみたいですよ。確かに僕は無詠唱でしましたけど、一応冒険者もしてますから、結界を使わないワケ無いじゃないですか」
そもそも、結界を使うことは少ないが、全く使っていないという事も無い。
特に、家で最初に教えられたのは結界の術式からだ。
多少変わった家なので、そこをとやかく言われるのは面倒臭いので、少し嘘を交えて誤魔化しておく。
「もう宜しいでしょう? カーマイン先生、彼はこういう生徒です。多少規格外な部分もありますが、それ以外は至って普通です」
「そうですか。わかりました。失礼致します」
そこに、オーレルカ先生が割って入り、カーマイン先生は、納得いかない表情のままその場を離れた。
「助かりました。ありがとうございます」
「いえ、気にしないでください。それより、貴方はもう少し自重する事を覚えなさい。簡単に結界を出すことには驚きもありませんでしたが、応用する技術は幾ら何でもやり過ぎですよ」
「善処します。それで、この後どうするんですか?」
「私は職員室に戻ります。貴方は?」
「今日は薬品学の選択科目があるので、このまま向かいます」
「なら、途中まで一緒に行きましょう」
「はい」
そう言って歩き出した時、後ろから呼び止められた。
「ルーク様」
「どうした? あと、様呼びは勘弁してくれ、ティルマン」
「す、すみません……あ、あの、アル爺様から伝言です。薬品学が終わったら、残って欲しいそうです」
「わかった。伝えてくれてありがとな」
「い、いえ! そ、それでは!」
「お、おい! 危なっかしいなぁ……」
ティルマン君はそのまま走り去ってしまった。
目的地は同じはずだろうに大丈夫だろうか?
「今の子は確か、ティルマン•コンフロント君でしたね、普通科の生徒ですが……薬品学の受講生ですか?」
「えぇ、同じ授業になりまして。先程の件も含めて、色々と良くしてくれるんですよ」
「そうなのですね。あまり彼を困らせないようにしてくださいよ?」
「わかってますよ。それでは失礼致します」
目的の教室に到着したので、オーレルカ先生とは別れ、教室の戸に手を掛けた……ところで、中から話し声が聞こえてきた。
「……だから、オマエはダメなんだ」
「……そうだよ、オマエみたいなヤツ、辞めればいいんだ」
「……同じ学院に通うのも身分違いなのだがな」
「……あーあ、早く居なくならないかな」
「……だよ」
…………何だこれ。
何だか嫌な雰囲気だ。
俺は、何となくだが、この雰囲気を知っている。
前世で、誰かが虐められていた時に感じていた空気だ……。
「ルーク君?」
「っ!? あ、あぁ……悪い」
いつの間にか後ろに居たエリーゼに声をかけられ、俺は我に返る。
「どうかしたの?」
「いや、別に何ともない」
「ふぅん? まぁ、何でもないなら良いけど、何かあったら声掛けて、私も一応、婚約者の一人だしね、じゃあ、隣の教室だから」
「あぁ、その時は頼む」
「うん。それじゃあ、また後でね」
そう言うと、彼女は自分の席へと戻って行った。
……さっきの会話は、恐らく貴族組の声だった。
きっと気に食わない生徒に対して何か嫌がらせをしているのだろう。
取り敢えず、俺は何喰わぬ顔で教室へと入る。すると、一斉に視線が集まった。
「遅かったじゃないか、おい、駄犬! 飼い主が来たみたいだぞ」
そこに居たのは、ティルマン君をフミツたまま此方を見ている男子生徒と、以前モルテに喰われるんじゃないかとか言っていた生徒を中心にしたグループだった。




