夏季休暇の終わり
「ここは……」
「この場所は、この大樹の力が集まっている場所だ。ここで精霊契約すれば、大半の精霊が集まる」
「そうなんだ……知らなかった」
「……この辺りの精霊は気難しい連中ばかりだ。だから、ここで精霊契約をするには、それなりの資格が必要になる。1つはデアドラ様の試練、もう1つは……あたしに認められた者だけだ」
どうやら、嫌な予感は的中だった様だ。
ライカさんは、腰に差した剣を抜き放つ。
「あたしは『ライカ』。この広場の管理者の名において、貴殿の力を試させて頂く。いざ尋常に勝負!」
「やっぱりか……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! いきなりそんな事を言われても困るぞ!」
「問答無用! いくぜ! 【風刃】!」
突然の事に困惑していた俺だったが、何とか回避に成功すると、俺は戦闘態勢を取る。
「……やむなし」
「ふぅ……やっとやる気になったみたいだね」
「すまないな。俺はどうしても戦いたくないんでね。コレで威圧されないなら受けて立ちますよ」
俺は自身の魔力拘束を緩めて、少しずつ魔力を開放していく。
それにより、目の前にいるライカさんが冷や汗を流して後退る。
「な、何て圧力だよ。これが人間だって言うのか?」
「あぁ、未だ1割も出してません。一気に出すと魔力濃度が濃すぎて魔素溜りに成りかねませんからね」
徐々に溢れる魔力は、調整するのに神力が混ざっている状態になっている。
そのため、俺の身体から出た魔力に惹かれた精霊が俺の元へ集まってくる。
「グルルー」
「セリア、大丈夫だ。すぐ終わると思う」
セリアは俺を心配しているのか、ずっと寄り添っている。
俺は安心させる為に、セリアを撫でながら、セリアを落ち着かせる。
「よし、2割程開放しましたが……その顔を見るに戦意は無さそうですね?」
「……あ、あぁ、……頼むから、その辺にしておいてくれないか? あたしの身体が持たない」
「……分かりました。では、これで」
ある程度まで放出した魔力を霧散させると、ライカは地面に膝を突いていた。
そして、ライカは立ち上がれ無い様でへたり込む。
「なんだよ……今のは……あたしがまるで相手にならなかったじゃない……かよ……」
「別に卑怯な手を使ったわけじゃ無いですよ? ただ、魔力を出しただけですからね」
「それが異常なんだけどな……。まぁ、いいや。あんたは合格だよ……契約を始めるのは何時でも良い。終わったら声をかけてくれ、チョット立てないから」
「えっ!? いや、無理しない方が良いんじゃ?」
「気にするな……少し休めば問題無いからさ」
そう言い残して、近くにあった大きな枝を背に寝転ぶと、すぐに眠ってしまった。
流石に女性をそのまま放置するの気が引けたので、薄いタオルケットをかけると、俺はセリアと共に精霊契約の為に歩き出した。
セリアと手を繋いで歩いていると、先程寄って来た精霊達が集まってきて、セリアの周りで戯れていた。
精霊達はセリアに対して怯えるどころか、好意的な態度を見せているのを見て、俺は微笑ましく思えた。
『ルークが求む……風の精霊よ、この声に応え姿を現したまえ、我盟約を結ぶ者也』
すると、光の玉が現れて次第に人型へと変わっていき……風精の少女が現れた。
「うわーんっ!! 怖かったです!!」
現れた少女は泣きながら抱きついてきたのだが、何故だろう? 俺には幼女にしか見えないのだが、気のせいだろうか……いや、気のせいでは無いな。
見た目的には、5歳児位の女の子が俺に抱っこされ、泣いているのだ。これは一体どういう事なのだろうか。
「君は?」
「ヒックッ……私、シルフの系譜って呼ばれる精霊です……」
「そっか、シルフの系譜って事は、デアドラさんは分かるかな?」
「はい、デアドラさんはこの森の守護者です……上級精霊が契約をしてます」
「なら、君もデアドラさんと契約した精霊って事で良いの?」
「いえ……誰も私の事を受け容れられる魔力量が無くて、何時も独り……でも、貴方の魔力量はとても多くて、でも、断られたら怖くて、他の子は分かってくれなくて……だから……寂しかったんです」
「成る程……それで泣いてたのか」
「……駄目ですか?」
涙目で見上げる彼女の頭を優しく撫でると嬉しそうな表情を浮かべる。
「俺は構わないよ。むしろ大歓迎だ」
「本当ですか! やった~♪」
「よろしくな。俺はルーク。この子がセリアだよ。セリアも仲良くしてくれな?」
「グルルルル?」
俺の言葉を理解してるかどうかは分からないが、一応挨拶するように伝えると、セリアはゆっくりと歩み出て風精の頭の上に乗っかり、前足で器用に耳の付け根辺りを掻いてあげている様だ。
どうやら、かなり懐いているみたいだな。
「あとは名前か……何が良いだろう」
一度全身を眺めながら、特徴を見出していく。
髪色は緑色で長さは腰くらいまでの長さだ。
瞳の色は深い青で、幼いながらも端正な顔立ちをしている。
そして、服装はワンピースの様な服を着ているが、裸足のようだ。
「よし、決めた。君の名は今日から、エアリスだ」
「素敵なお名前をありがとうございます!」
「こちらこそ。これから宜しくね」
こうして無事に精霊と契約を終えた。
精霊との契約を終えると、ライカは起き上がってきた。
「おう、精霊契約は終わったかい? で、その子の名前は決まったのか?」
「あぁ、彼女の名前だが……エアリスにしたよ」
「なら下に降りるとしよう。デアドラ様が待ってる」
ライカの後をついて行くと、元の場所に戻ったが、そこにはデアドラさんの姿は無く、代わりに大きな切株があった。
その大きな木の裏で、俺達が着くのを待っていたかのように、デアドラさんが立っていた。
俺達が来るのを見ると軽く会釈をする。
「どうやら、終ったみたいだね? 坊やの身体に風の精霊の残滓が僅かに残っていたんでねぇ……精霊契約が上手いった様でなによりだ」
「えぇ、問題無く終わりました。それと、ご迷惑をおかけしました。いきなり攻撃されたのは吃驚しましたけど」
「まぁ、あそこの管理者にライカを任命したのはあたしだ。契約をさせるかどうかの判断を任せてるだけだからねぇ……あそこは生半可な術師だと、悪食精霊達の餌食になる事もあるからね」
「そんな場所だったんですね。で、俺は試練に合格したって事で、この一帯は転移できる様になったんですよね?
早速移動しても大丈夫でしょうか?」
「そうさね。この切株を加工したから、今なら問題無いと思うよ。あたしの試練が終ったって事は、後は朧の所か」
「そうですね。ただ、そろそろ夏季休暇が終わりなので、時間が出来てから行きたいと思います」
正直な所、全ての集落を回る予定は立てれなくはなかったが、俺のスケジュールでは、夏休みの間しか動けないのだ。
学園に入学してから初めての長期の休みとなるわけだし、色々とやりたい事があるのだから。
ただ、精霊達は霊薬学に必要な力だったのもあり、出来る限り四元素の精霊契約を急いだ所はある。
「取り敢えずは、この集落をどう領地に組み込むか考えておきますね。下手に弄ると、厄介な事になるかもしれないし……」
「そうだねぇ……何かしらの対処が必要なんだけども、難しいのは確かだろうね。何しろ、この場所が既に結界の一部になってしまっているから、それをどうにかするのは一苦労だろうし」
「そうなりますよね……。じゃ、今日のところはこれで失礼します」
「あんたはまだ若いんだ……失敗を糧にして、精進していくんだよ?」
「はい」
「良い返事だ……またいつでも来なさいな、今度は茶でも用意しておくよ」
俺とセリアが頭を深く下げて挨拶をすると、デアドラさんは笑顔で見送ってくれたのだった。
━━━そして、日は流れ、ドラムシアス学院の新学期となった。




