シュルフェーレでの作業
「……それじゃ、鉱石を見つけてもらおうかな?」
「はいっ! 任せて!」
レアは元気良く返事をすると、鉱石を探しに行った。
その間に、炉の準備をしておく事にしよう。
炉の温度を調節しながら、必要な素材を並べていく。
「お待たせしました~!」
「早かったね?」
「はい、すぐに見つかったよ!」
「へぇ、そうなんだ。……って、何でまた裸なんだよ!?」
「だって、この方が探し易いもん」
「……はぁ、分かったよ。……それより、準備が出来たから始めようか」
どうやら地の精霊は、先程の精霊もそうだが裸族なのだろうか?
見た目は俺と同い年位だが、流石にどうかと思う。
こんな所をエルザ達に見られたら、恐らくお説教コース待ったなしだろうな。
「はいっ! 頑張るね」
そう言って、彼女は手をかざすと地面が揺れ始めた。
そして、次の瞬間に地面の中から大量の鉄塊が飛び出してきた。
「これで良いですか?」
「あぁ、十分だよ」
俺は、取り出した鉄塊を複合解析していきながら、細分化して不純物を取り除く作業を始めた。
「……ねぇ、マスターって本当に人間なの? こんな事を出来る人なんて見たこと無いわ」
「あぁ、一応はな。ただ、俺にも色々あったからな……」
「……色々? よくわかんないけど凄いねっ!!」
「まぁな」
それから黙々と作業を続けて、全ての工程が終わった頃には既に夜になっていた。
「……よしっ、完成だ」
鉄塊内に、目当ての物が含まれているか確認していく。
(……やはり、緋緋色金も微妙に混じっているな。……後は、これをどうするかだけど)
正直、この量では使い道が無いのだ。
しかし、ここで諦める訳にはいかない。
「……さてと、どうしたものかな」
「何を悩んでいるの? 私に教えてよ」
「あぁ、実は……」
レアに緋緋色金に適合する金属若しくは鉱石を説明すると、彼女なりに考えがあるらしく協力してくれる事になった。
「なるほどね。そういう事なら、私が手伝ってあげる」
「本当かい!?」
「うん、緋緋色金に合う鉱石を見つければ良いんでしょ?簡単よ」
そう言うと、彼女は目を閉じ集中し始めた。
そして、暫くすると……
「見つけたよ」
「え!? もう?」
「ええ、持ってくるね」
「……いや、ちょっと待ってくれ。先に服を着てくれないか?」
「え?……あぁ!! でも、今からは必要ないもの」
そう言うと、レアの身体は粘土のように形を変えていき、どろどろとした下半身は地面と同化していた。
上半身はかろうじて人間の姿のままだが、一体どうなっているのだろう?
「それじゃ、潜って印を付けたらまた持ち上げるね!」
「……いや、先ずはそのまま一部を持って来てくれるかな?」
「わかった!」
そう言って、彼女は地中へと消えていった。
数分後、戻ってきた彼女の手には目的の鉱石が握られていた。
「はい、持ってきたよ」
「ありがとう。助かったよ、コレは未だあるかい?」
「うん、こっちだよ~」
そう言って再び地面に手をかざすと、先程の大岩よりも少し小さな塊が眼の前に現れた。
眩い光を放ちながら、徐々に鉱石が姿を変えていく。
そして目の前に現れたのは、俺の求めていた条件の鉱石。
レアが見つけたのは……神珠の塊だった。
「やったね! マスター♪」
「あぁ! 早速、加工してみるよ」
俺は、慎重にその塊を必要な分だけ残し、異空間収納に仕舞った。
「……あれ? それはどうするの?」
「これは、また別の機会に使うんだよ」
神珠とはいえ初代ドヴェルグの神珠ではないので、武具や魔導具の素材として利用するには十二分な量だ。
「コレで双剣を作る目処も立ったな」
後は、この炉に火を焚べ作るだけなのだが……。
火床や鞴はあるが、火種になる物が見当たらなかった。
「そういえば、炉の燃料は……?」
「それなら、そこにあるじゃない」
「……ん? どこ?」
辺りを見渡しても、それらしい物は見当たらないのだが……。
「ここだよ、ここ!」
「まさか、精霊の火?」
「うん、そうだよ。だって、コレは火と地の精霊の力を使った物だからね」
「……マジで?」
精霊の力を使って動かす魔導具なのか、それとも魔法の一種だろうか? まぁ、今はそんな事はどうでもいいか。
「よし! 始めるぞ」
早速エリュテイアを喚び出し、釜を置いた炉は温度を上げていくと次第に、火の勢いが強くなっていく。
「エリュテイア、炉の温度をもっと上げれるか?」
「……!!」
エリュテイアは力強く点滅すると、更に火力を強めてくれた。
魔力量の吸収が多いからなのか、未だ人型にはなれないのだが、意思の疎通は可能なので、暫くは点滅を頼りにやり取りするしか無いようだ。
「レア、この中にさっきの神珠と同じ量の緋緋色金を入れてくれる?」
「分かった!」
レアは緋緋色金を取り出すと、ゆっくりと溶かしながら入れてくれた。
それから数時間かけて、ようやく緋緋色金と神珠が混ざり合う。
そこへシャガール達から貰った素材を、相性の良い物同士で混ぜ合わせ、それぞれ剣をイメージしながら鍛造すると、そこには美しい刀身を持つ二振りの剣が出来上がった。
ただし、当然ながら歪みもある為、鉄床で歪みを整えてから柄の部分も作り変えて完成させる。
「よしっ、出来た!!」
「わぁ、綺麗な色だね」
「あぁ、そうだな」
完成した形状は、タルワールよりもフィランギに近いものだが、装飾は少なくナックルガードと柄頭のみのシンプルなデザインだ。
俺は、一つずつ手に取って確認していく。作成した二振りは刀身1m程の両刃直刀仕上げてみたのだが、刀身の色は全く予想外の色と成ってしまった。
一振りは薄い紅紫色の結晶の様な物で、もう一振りは藍白の結晶とも見れる。
元の素材からすれば、有り得ない見た目に成っていた。
試しに数度振り、木人を使って感触を確かめるが問題は無さそうで、想像したよりずっと軽いが、斬れ味は見た目に反してとても良く切れるらしく、木人が豆腐の様にスッパリと切れてしまった。
「……凄いな、この武器」
「ほう、炉を使って何か作れた様だな?」
「あぁ、なんとかね」
「見ても良いか?」
「どうぞ」
いつの間にか、ヴェリトールさんが来ていたらしく、出来上がった双剣を隅々まで確認している。
どことなく雰囲気がヴェストリ先生の確認作業時のものと似ていたが、同じ種族だからなのだろうか?
「ふむ、見たことの無い形状だが、中々面白いな。それに、魔力伝導率も素晴らしい出来だ」
「ありがとうございます。それで炉は使えましたけど、結果はどうですか?俺としては問題ないと思うのですが……」
「うーん、正直に言えば、まだお主の事は分からんってのが本音だ。ただ、これだけのものが出来るなら、恐らく他の者も文句は無い……大丈夫だろう」
「そうですね。では、明日の昼過ぎにでも、もう一度来てみます」
「おう、待っとるぞ」
そうして俺達は、双剣を預け工房を後にして屋敷へと戻った。




