龍脈へ再び
そして、祭りは終わりを迎えると翌日には、俺はゼノさんと共に先代の龍帝陛下達の眠る龍派源へと向かう準備をしていたのだが、その日の朝に一通の手紙が届いた。
ソフィア当ての手紙だったので、中身は分からなかったが、どうやらレイさんからの手紙だったらしい。
エリーゼ達はそのまま離宮に残り、ソフィアだけはドーランに戻る事に成ったのだが、馬車に乗る彼女は涙目だった。
「うぅ……寂しいなぁ。もっと一緒に過ごしたかったのにぃ……」
「でも、レイさんの仕事なんでしょう?」
「そうなの〜……お父様が抜き打ちの視察を今月から始めるらしくて、また暫くはお城の私室だから、ルーク君と会えないよぉ……」
「あら……そう。でも仕方ないわね……私の所も視察をする時は似た様なものですもの」
リーフィアの話を聞きながらも、ソフィアは別れるのが本当に辛そうな表情をしていた。
「ルークは大丈夫そうですね?」
そんな様子を見ていた俺にリーフィアは声をかけて来た。
「まぁ、確かにソフィアから会いには来れないだろうしなぁ……」
ぶっちゃければ、レイさんからは城内に限り、使用して良い部屋を1室貰っているので、転移をすれば問題無いんだけど、他の婚約者達の所にはそういった物が無いから、要らんトラブルになりかねん。
「……やはり、……ルー…君……監…しないとかなぁ……うふふ……♪ でもエル……きょ…ゆ……」
ソフィアが何かボソッと呟いた言葉は聞き取り難く、俺の名前が少し聞こえた位で良く分からなかった。
しかし、先程までの悲壮感漂う雰囲気は何処へ行ったのか、何故か彼女がニコニコしているのが少し怖い。
「ん? どうかしたのか?」
不思議に思った俺は思わず質問をした。
「泣くのはここまでにしますね〜。……やっぱり私は笑顔のままの方がルーク君も良いですよね〜?」
「まぁ、ソフィアだけじゃ無くて、婚約者には皆そうしてくれるとありがたいな……」
彼女の笑みに釣られて俺も笑う。
「……やっぱり好きな女の子には泣かれるよりも、笑って貰っていた方が……その、嬉しいからさ」
流石に言葉に出すのは照れが入るが、言うべき事は告げないと分からないだろうと思いそう返すと、ソフィアは素早く俺の唇に軽くキスをした。
エルザとリーフィアはそのままニコニコとしながら見ているだけだったが、その視線が少し重く感じる。
然し、俺の方は突然の不意討ちを受けた事で顔が熱くなった。
「あ、うっ! そろそろ行くよ!! ゼノさん迷惑になるだろうし」
「はい、分かりました〜」
顔を見られるのは流石に恥ずかしくなったので、慌てて離れることにしたが、ソフィアとの一時を過ごした後、忌々しい記憶が眠る火山にある龍派源へと改めて向かうのだった。
「ゼノさん、今回は無理を言ってすみません」
「気にすんな。お前さんの功績からしたら、大した事はねぇ。多分オヤジ達が生きてたとしても文句は言えねぇだろう。それに壊したりしないだろ? 」
道中で軽く挨拶を交わしながら、目的地へと向かう。
「そりゃ勿論。……この国の人達が命懸けて守ってきた場所ですからね」
「まぁ、そうだな。……そろそろ源流に到着するぞ。流石に魔物が居ないと楽で良いな。……あん時の事は気にするなとはもう言わねぇ。だが、アイツ等が命張って国を護る事を選んだ戦士だった事だけは、覚えておいてくれや。そしたら報われるってもんだ」
ゼノさんの言う通りだった。ゼノさんの国の近衛兵とはいえ、まだ若い人達も死んだのは事実。
「はい……。俺も彼等の事を忘れずに生きていきますよ。それじゃあ、ゼノさん行ってくるんで、宜しくお願いしますね?」
「おう、任せとけ」
ゼノさんは手を石扉に当てると魔力と神力をしてた均一に流し込む。
緩やかにだが、石扉が音を立てて開き始めると奥の方に祭壇と石碑が見えて来た。
俺は一歩ずつ進むと、初代皇帝が眠る石碑の前に立つ。
「この度は些かご迷惑おかけしますが、お許し下さい。これは迷惑料と思って頂ければ幸いです」
異空間収納から、酒坏と幾つかの酒を取り出して祭壇に供えた。
「マジかよ……東のから西の銘酒が勢揃いか」
「えぇ、先代の龍帝陛下達はお酒好きだと有名な話しでしたから」
そして俺は黙祷を捧げた後、保存の魔導具を発動させる。
「さぁ、行きましょう」
「おぉ、然し勿体無ぇなぁ……」
「駄目ですよ、アレは先代の龍帝陛下達に捧げ物として用意したんですから。それじゃ精霊契約を始めますから」
「おぉ、んじゃオヤジ達の祭壇の所で待ってるわ」
ゼノさんは、お酒を見ながら離れて行き、俺は龍脈源……流れの本流に近づいた。
『ルークが求む……火の精霊、闇の精霊よ、この声に応え姿を現したまえ、我盟約を結ぶ者也』
今回の場所は、火の力も強い場所だが陵墓でもある為、闇の精霊も喚び出すのに適して居る場所でもあった。
内心では、どちらかと契約出来れば御の字だったがその結果は、ある意味で予想外の出来事になってしまった。
『汝、我等に仇なす者也や?』
俺の目の前に現れたのは炎で作られた小さな人型であった。しかし、それが発する威圧感は尋常ではない強さであり、明らかにクレールの時とは違った反応だった。
大きな力の塊が、全部で5つある。
『否、我が望みは汝等との契約也、其の力、守護の力とし借り受け災いを祓う事を是とする者』
そう答えると、その者は俺に質問してきた。
『……面白い。馬鹿息子が連れて来た割には、礼儀を知っているようだ。それに、我等全員の好む酒を用意した者、力の一端を貸し与えるのも悪くは無い』
『フム、確かに古酒も在れば火酒も蜂蜜酒も用意されておる。ワシは構わぬぞ』
別の方からも同意の声が上がった。
『私も良いと思うけど、その子が気に入らないなら無理でしょうね。どう? 貴方達の目から見て彼は信用出来るかしら?』
他の者達より一際大きな存在が側に居る者達に話し掛けていた。
残りの他の2人は黙ったままだが、頭を縦に振り彼女の言葉に特に異論を唱えなかった。
『まぁ、少なくとも馬鹿息子の知り合いであるのは間違い無いが、どことなくリヒトに似た感じがするのでな。馬鹿だが人を見る目は在る。アイツが信頼している人物の様だ。良いだろう俺は認めよう』
『あら、それは珍しい事もあるものね? 私は初めて見るけれど、『転生者』って、やつね?』
『ほぅ! あの愚か者が、そのような珍しき客人を!』
どうやら、大きな存在の内、二人はゼノさんの事を良く知った人物なのは間違い無いだろう。
5人分の力の内、最も大きい女性の物と、次に大きな力でゼノさんを知ってる二人、最も小さな二人分の気配は、徐々に同じ場所に集まり始めた。
「おいおいおい、何だよコイツァ!?」
ゼノさんはこの異常な光景に驚いている。
当然といえば、当然の反応だと思う。
何せ、声が契約をしている者の頭に直接流れ込む様な物で、周りには聞こえない事の方が多い。
力を持つ精霊なら造作もない事だろう。
「多分だけど……今から、火の上位精霊達と会う事になりますね。恐らくゼノさんの事を知ってるみたいでした」
「ハァア~ッ?!」
……この人のこういう所を見てると、何故か笑えるんだよね?




