氷刹華流VS氷華流
「さぁ、先程の試合とは打って変わって静かな静寂に包まれています。遂にこの二人の試合の始まりです。それでは、ルーク選手とレイナ選手の入場です!」
歓声が沸き起こる中、俺達は中央に歩むと、向かい合う。
舞台に上がれば、沸き立つ観客の視線がよく分かる。
誰も盛り上がってはいるが、恐らくレイナ選手が勝つのだろうと予想しているのが大半なのだろう。
表立ってはいないが、この龍帝祭武闘大会には誰が大人の部で優勝するかを賭事の対象にしている物が、暗黙の了解で行われていた。
俺の優勝予想は驚異の150倍だったが、それだけ年齢で判断されているのだと実感出来る数字だった。
……実に美味しい倍率だったので、カルロや桂花等の大人8人に大金貨100枚づつ買わせた。
合計大金貨800枚分の用紙はどう化けるのか楽しみだ。
「両者ともよろしいですか?それでは、始めぇえ!!」
「……其れはどういうつもりかしら? 猿真似でもするの坊や?」
「さて、今まで色々な戦い方をしてきたからね、どっちだと思う?」
俺の構えは、ガルバノから教わった肘をやや曲げて腕を前に出す防御の構えで前羽の構えに似ているが、脚は一歩引いた氷刹華流の静の構え。
対して、レイナ選手も上半身は俺と同じく静の構えをしていた。
「成程ね……。それが答えという訳かしら。なら、その力を見せて貰おうかしら。《氷華掌》」
レイナ選手が、氷の花びらを散らしながら、右手を突き出し、そこから氷の花弁の形をした衝撃波が飛んでくる。
「…………ッ! 『氷刹華掌』」
俺も同じ様に技を放ち、相殺させる。
「へぇ~、やるじゃない。まさか、同じ技を使うなんてね。ただ、それは所詮劣化版でしょう?」
「そうかな? 確かにこれは貴女の技なのかも知れない。でも、本当に貴女の技かな?もしかしたら、そっちが模倣かもね」
「……そう、そういう事。分かったわ、その挑発乗ったげる。見せて上げる、本当の力を。そして、私が誰よりも強いということを証明して見せるわ!」
レイナ選手の身体を包んでいた魔力が体内に吸収されていく。
そして、彼女の姿が一瞬ブレたかと思うと、次の瞬間、俺は吹き飛ばされていた。
「ぐぅっ!! 今のは一体……」
咄嵯に受け身を取り、体勢を整える。
「どうしたの? ボーっとしている暇は無いんじゃなくて? ほら、どんどん行くよ!」
再びレイナ選手が消えたかと思えば、今度は腹部に衝撃を受け、そのまま壁に叩きつけられた。
(速い、それに一撃が重いな……)
恐らくは、取り込んだ魔力を推進力にした高速ステップでの撹乱と、瞬間的な爆発力を拳から放出してるのだろう。
だからこそ、氷刹華流の技が優秀だった事を改めて実感出来た。
「『氷刹華双天掌』」
同じ様に、体内に魔力と空気を取り込み、
片足を後に踏ん張ると、レイナ選手の突きに合わせて、手甲で受け流しながら懐に潜り腹部に両手の掌打を浴びせた。
「くっ、この程度ぉおおお!!」
「『刹華雷光脚!!』」
レイナ選手が受身をとり、空中に飛び上がった後、その後ろに高速移動を行い、回し蹴りを放つ。
「《氷華風脚!!》」
雷光が迸り、激しい冷気にぶつかるが、互いの力が拮抗しているのか衝撃波が巻き起こり、回し蹴りが当たる寸前に、威力が殺された。
結果、互いに距離を開ける事に成ったが、ガルバノが言っていた通り、やはりレイナ選手の技は、氷刹華流の流れを汲む物らしい。
「こりゃあ、どんどん氷刹華流の技で戦わないと損だな! ガルバノ良いか?」
『あぁ、構わねぇ!! 俺の流派を受け継いだ子孫の技、開祖直々に採点してやろう!!』
「ありがとう! よし、じゃあ、本気でいくぞ!!」
深呼吸をし、強化した肉体を更に身体強化の術式を用いて再強化していく。
「なによ、まだ本気じゃ無かったって言うの!?」
「悪いけど、手加減して勝てる相手じゃないんでね。全力で行かせて貰うよ」
「上等じゃない……。なら、武闘家として本気を出してあげる。魔導具のおかげで死にはしないと思うから、かなり痛いとは思うけどね!!」
レイナ選手は、更に魔力を取り込むとその全てを両手脚に集中させた。
『おおぅ! すげぇな嬢ちゃん!ありゃあ氷刹華流の奥義の1つに近い。だが……』
「あぁ、凄い力だ。だけど……」
俺は全身の筋肉に力を入れ、静かに構えを取る。
左片手は頭の少し上、上段の防御の構え、もう一方は腹部の位置へと持っていき、腰を落とし、重心を落とす。氷刹華流『動の型』
「何それ?そんな隙だらけの構え見たこと無いわ? でも、関係ない。私の勝ちは揺るがないもの!!」
レイナ選手が再び消え、俺の目の前に現れる。
「これで終わりよ!!」
突き出された拳を左手で受け流し、追撃であろう膝蹴りを右手の手刀で打ち払う。
「嘘!?どうして、反応出来ているの!?」
「優秀な先生が何人も居るもんでね。その内の一人は氷刹華流の創始者様さ」
動揺するレイナ選手に対し、俺は余裕を持って答える。
「舐めるなよ、坊や」
レイナ選手が怒りに任せ、連撃を放ってくるが、冷静さを欠いた攻撃はよく見える。
必要な距離まで近づくのに必要な場所。
その場へ行くまでの攻撃全てを見切り捌く。
『そろそろいいか……。ルーク、やって良いぞ』
「了解……チェストォォォ!!」
「きゃあっ!」
ガルバノの合図で俺の放った一撃は、動の型にある奥義『氷刹華流・一閃突き』と呼ばれる氷の魔力を纏った正拳突きである。
静の型はカウンターや手数を用いた防御主体の型であり、動の型は一撃で沈める技が多い。
もちろんこの技も例外ではない。
体内の魔力と強化した拳から放出する冷気の魔力を一気に触れた箇所に流し込む為、元来ならば魔力耐性関係無しに内部からダメージを与える事が出来る。
ガルバノ曰く、魔獣相手には内部から凍結損壊する技らしいが、この場所に張ってある魔導具の効力と魔力の調整で、氷属性ダメージを抜いた内部ダメージのみに抑えた技だ。
「そこまで!!勝者はルーク選手です!」
「ふぅ、ガルバノ的にはどうだった?」
『まあまあってとこか? ただ、あの嬢ちゃんが使った技は、本来の物ならあんな簡単に躱せる代物じゃない。お前さんが異常なだけだぜ? 元来の技を覚えるのならコツを教えるぞ』
「そっか、なら時間を何処かで貰うかな。さてと、次は……従魔術師戦か」
俺は次の試合に備えて、控え室に戻る。
レイナ選手は気を失っているが、多分大丈夫だろう。
「さぁ!! 皆様お待たせ致しました。これより、今大会のメインイベント! 従魔術師シエルと異例の出場者ルーク選手の戦いを始めます。まずは、本大会初出場にして火竜や炎虎を従えるその実力は、既に多くの観客を釘付けにしてきました『従魔獣使い』のシエル選手~!!」
実況の紹介と共に、観客席から歓声が上がった。




