同じ流れの派生形
「……凄いな。正直想像以上だった」
「そりゃそうさ。何せ、中から凍らせて尚、地面に亀裂を入れる力を込めて蹴る対空技だからな」
「そうか……、因みにこの技を習得するにはどれくらい掛かる?」
「そうだな……大体、一年位か? ただ、俺の場合は、元々氷刹華流を作った段階で幾つかの技を奥義として記したから、そうでもないが他の奴らなら一年も在れば出来るんじゃねぇか?」
「分かった。ありがとう」
「いいってことよ。俺としても、久々に暴れられて楽しかったぜ。それじゃあ、必要な時は、また喚んでくれや」
ガルバノが消えると同時に、契約は完了したらしく、式符に刻印が刻まれていた。
「すまんな、ガルバノ。どうやら氷刹華流の技を体得するのに、そう時間が掛からないみたいだ。今から明日1日使って出来る限りの修行をさせて貰うぞ」
「……死者を此処までこき使うたぁ~、仕えるべき主を間違えたか? まぁ、構わねぇよ」
「そう言ってくれると助かるよ。近い内に、新しい肉体も用意しよう。格闘家なら人型だから、材料さえあれば直ぐに用意出来る」
こうして、ベリトとカルロの二人に加えて、新たに氷刹華流開祖の武闘家であるガルバノを主軸とし、短時間の格闘訓練を始めた。
とはいえ時間が無い為、己に憑依させて行う方法を使う事にしたのだが、存外悪く無い方法だった。
「それじゃあ、先ずは基礎的な呼吸法……って、もう出来てるのか?」
「ああ、見せてもらった時からずっと見様見真似でやってるからな。間違えて無いみたいで良かった。それより、俺に憑依してみて気付いた事があるんだが……」
「ん、なんだ?」
「俺に憑依した時、アンタの魔力が異様に低くかったんだが、何か理由があるのかい?」
「あぁ、それは多分、俺の魔力が元々低いからだな。魔術師としての素質は無くてな、風雷属性と水氷属性が高い以外は全くだった。生活出来る水準だけど戦闘には使えない程のな、だからこそ氷刹華流を編み出した訳だ」
「成程な……。それで、次はどうするんだ? 流れだと、このまま魔力を循環させて肉体強化、同じ流れで再び魔力を溜めて、攻撃の型になぞる、攻撃の際に放出するって流れで良いのか?」
「そうだな。その認識で構わない」
「了解っと。それじゃあ、早速始めるとするか!」
それから俺は、カルロとベリト二人を相手にガルバノと共に修行に励んだ。
カルロ達と組手をした事で、戦闘中の魔力を循環させるのが徐々に容易になり、より効率的な肉体強化が出来る様になってきた。
どうやら、身体強化の術式と相性が良いらしく、日付が変わる頃には双方の身体強化を維持しながらの戦闘が可能になっていた。
「よし、今日はこの辺にしておこう」
「お疲れ様です。ルーク様」
「あぁ、おつかれさん! しかしこの氷刹華流の格闘技、中々に発展出来そうな流派だな」
「そうだな。ただ、氷刹華流はあくまで俺が作ったものだ。話を聞いた限り、レイナって女は俺の流派を継いだ弟子の派生形だろうな。これから先、もしかしたら弟子達の残した、若しくは派生した使い手が現れるかもしれないし、本流は廃れている可能性も高いからな。まぁ劣化したならそこまでって事だろうさ。まさか、死んでから弟子が出来るとは思わなかったがな」
「そうか……、だが、この技は間違いなく後世に受け継がれていくさ。何せ、俺自身がその一人だからな!」
「そうか……、そういってくれると嬉しいぜ!」
「それじゃあ、また喚んでくれや」
「あぁ、また頼む」
そういって、ガルバノは消えていく様に帰っていった。
そして、翌日も朝早くから修行を行い、昼頃には身体を休める為、部屋へ戻った。
そして、武闘会ベスト8の試合が始まる。俺は相手が棄権したオゼル選手だったので一戦少なくなったが、まずは、俺とレイナ選手の組とは反対側の第一試合。双剣を使うジーズ選手対従魔術師シエル選手の勝負となった。
ジーズ選手は、機敏な動きと手数で攻撃を仕掛け、シエル選手の従魔からの猛攻を凌いでいたが、最終的にはシエル選手が喚び出した従魔により勝利し、駒を進めた。
続いて第二試合は、女聖騎士のアイリス選手とドワーフの戦士ブレッグ選手の対決となり、アイリス選手が優勢のまま勝利し、向こうの組はシエル選手対アイリス選手の組み合わせとなった。
第三試合はレイナ選手対同じく武闘家タイプのロベルダ選手との試合で、此方は見応えも無くレイナ選手は開始直後に、『氷華崩天脚』を使い、見事一撃で勝利した。
「さぁ、いよいよ準決勝第一試合目が始まります!! この武闘会で、最も強いとされる二人の対戦カード。果たして勝つのはどちらなのか!? それではアイリス選手、シエル選手共に前へ!!」
審判の声に従い、二人は中央へと歩み出る。
「それじゃあ、始めようかしら?」
「そうね、早く終わらせましょう」
お互いに構えを取り、試合開始の合図を待つ。
「両者準備万端の様子ですね。それでは……、はじめぇえ!!!」
試合開始と同時に、アイリス選手が先手を取るべく、駆け出す。
「『聖槍!!』」
魔術で作られた槍は幾重にも展開され、シエル選手を包囲した。
「無駄よ。私の従魔にそんなもの効かないわ!」
対するシエル選手は、大きな陣を形成し、膨大な魔力を注ぎ込む。
「来なさい、我が友よ! イグニス・イデア!」
巨大な魔法陣から現れたのは、全身を紅く染めた火竜だった。
「なっ、なにあれ……ファイアドラゴン!?」
「ふふん、驚いているみたいだけど、まだ終わりじゃないのよね。出でよ、 フレアリザード達よ、あの愚か者を焼き尽くしてやりなさい」
召喚された複数の火の玉が、一斉に放たれ、アイリス選手を襲う。
「きゃぁああああああああああああ!!!」
「あら、もう降参? なら、止めてあげるけど?」
「ま、まだまだぁああ!!!」
「その意気込みだけは褒めてあげなくもないけれど、貴女の実力じゃあ、私には勝てない。諦めて負けを認めれば?楽になれるわよ?」
「嫌だ! 私は、絶対に貴方に勝ってみせるんだから!」
「そう……。それじゃあ、死なないように頑張りなさい。行きなさい、フレアス!」
「グルルルルゥウウッ!!!!」
「う、嘘でしょ……。ブレイズタイガー!? こんなの聞いて無いってばぁあー!!!」
最後のトドメと言わんばかりに、大型の炎を纏う虎が唸り声を上げ、体当たりでアイリス選手は弾き飛ばす。
情けない声を上げながらアイリス選手が場外へ落ちるとシエル選手の圧勝で幕を閉じた。




