VSユア選手
「さぁ、遂にベスト16を決める最後の試合が始まります!……ここまでの戦いは全て無傷で決着させてきた前回の優勝者!! レブル国騎士団長。サースト選手!! 対するは鉄壁の守りで攻撃を防ぐ重装を身に纏うは、半巨人の国ブロナグからやって来たガリバー選手!! 一体どのような戦いを見せてくれるのかあああ!!」
「「うおおぉお!!」」
試合開始前から既に観客達は興奮状態になっている様で会場内は熱狂している。実況のボルテージも高いので余計にだろうか。
「それでは開始します!」
「行くぞ!」
試合開始と共に、互いに武器を構え突っ込んでいく。そしてぶつかり合う直前で、ガリバー選手の盾を前に出し防御の姿勢をとった。
激しい金属音を響かせ、両者は一度距離を取る。そしてその一瞬後にサースト選手は剣を振り抜き再びぶつかる音が響くが、今度は弾かれた勢いのまま回転して斬りつける。だがそれも防がれてしまい両者は再び離れるが、ここで初めて動きがあった。それはサースト選手が剣を振るい連続で斬撃を放ち始めたのだ。
しかし、それを容易く捌いていくガリバー選手であるが、少しずつではあるが傷が増え始めている。このままでは削り切られると判断したのであろう。彼の表情からは余裕が消えてきているのが見て取れる。
「成る程、強い守りは厄介だな」
「貴方もやりますな」
「レブル国の代表という訳ではないが、一人の武人だからな。強者と戦う事こそ己を高める糧となる」
そう言葉を交わし、2人は再び武器を構える。その瞬間、2人の身体の周りには高密度の力の流れが出来上がっていた。どうやら2人は本気で戦う気になったようだ。
「「ハッ!!」」
2人が同時に動く。それと同時に大きな轟音と衝撃波が発生する。その後、サースト選手が再び距離を詰めようとしたその時だった。ガリバー選手の鎧に大きな亀裂が走る。
「ガアァァッ!?」
「勝負ありっ!! そこまでっ!! この試合、勝者はレブル国代表のサースト選手の勝利ですっ!!!」
そして鎧の割れた部分から大量の出血をしながら、そのままガリバー選手は倒れ込んだ。だが、即座に救護係によって止血され担架に乗せられて運ばれて行く。その様子を見てから俺は控え室に戻ろうと歩いていたが、そこで声をかけられた。
「ねぇ、ちょっと待ってくれないかい?」
俺はその声に反応し、振り返るとそこには、先程まで戦っていたクレア選手が立っていた。俺は疑問に思いつつも彼女に向き直り話を聞くことにした。
「何でしょうか?」
「坊や……あんたの強さには驚いたよ。だけど、あのサーストと試合するなら気を付けな」
「どういう意味ですか? 彼が何かしらの能力を秘めているとか……」
俺の言葉に彼女は首を振った。
「違うよ。あいつは前回の優勝者だけど、戦う試合は何時も相手が血塗れになるんだよ。まるで怪我の防止用魔導具が影響してないみたいにね。手心を加えてたら……今の坊やでは勝てるか分からないよ」
真剣そうな眼差しを向けながらそう言うクレアさんの迫力に俺は息を呑む。確かに今の戦いを見ていてガリバー選手やサースト選手が手加減をしているとは思えなかった。
だが、最後の一撃が明らかにオカシイのは間違い無いだろう。
「分かりました。ご忠告感謝します」
「あぁ、健闘を祈るよ」
それだけ言って立ち去って行った彼女の後ろ姿を見ながら俺は拳を強く握って覚悟を決めるのであった。
「さぁ!いよいよベスト16が出揃いました!そして組み合わせはランダムに決まります!! 第1試合、今大会のイレギュラー!! 一戦目は無手、二戦目は魔糸を使った戦闘、次はどんな武器を使うのか、その戦術はトリックスター!!ルーク選手!対するは、様々な魔術で我々に魅せてくれたファルース王国の若き女宮廷魔術師!! ユア選手だああぁ!! 第2試合は、前回優勝者にして優勝候補の一人でもある実力者!! 圧倒的な力で相手をねじ伏せるは、レブル国の騎士団長!! サースト選手!!対するは、スケルトンからレイスまで、数多の死霊を操る死霊術師のオゼル選手!! 第3試合は、氷姫と呼ばれる程の美貌を誇る美女拳闘士!! レイナ選手! 対するは精霊術を操るリリス選手!! 」
続々と試合の組み合わせが発表されていく中、自分試合が近い為、係員の誘導に従いゲートに向かう。
そして、既に待っていた対戦相手であるユア選手を見据えた。
初戦の時と同じくローブで顔を隠したまま戦うのかと思ったが、ローブは着ていない為、初めてその顔を見る事になった。
透き通るような水色の長い髪を持ち端正な顔をしているのだが瞳のハイライトが消えていて生気が感じられないのだ。それに若干痩せこけており不健康そうである。また、身長はそこまで高くないがスタイルが良い事が分かる。胸は大きくは無いものの引き締まった体つきをしていた。そんな彼女が持っている杖は先端に紫水晶が埋め込まれていたものだ。
「それでは第1試合の対戦を始めさせて頂く。両者、準備は宜しいですね?」
俺達2人は同時にコクリと首を縦に振る。
「それでは試合開始!」
その合図と同時に試合開始となった訳だが、開始直後からいきなり魔力の高まりを感じて警戒を強める。
すると、突然足元から地面が凍っていくのが見えた。
どうやら試合開始と共に相手は遠距離攻撃からの先制攻撃を仕掛けてきたようだ。
咄嵯の判断からその場から離れるように走り出すと、先程までいた場所は既に完全に凍っており、冷気を発していた。
(危なかったな。……そういえば、この世界に来て初めての本格的な手強い魔術師相手の戦いだな)
今までの戦いでは、全て向こう側の魔術を発動させる前に潰したりして対応出来ていたが、彼女相手にはそうもいかないだろう。
だから、俺の持てる技術全てを使う事にする。そして俺は早速戦い方を変える為に動き出した。
「【闇霧】!!」
相手の視界を奪う闇の霧を生み出して辺り一面を覆うと俺自身は影の中に沈んでいくようにして姿を隠したのだ。
「何をするか知らない。けど、私の前に引きずり出すだけ」
彼女は俺の術式に介入するつもりなのか、魔力を纏いながら制御を奪いに来た。
そして、魔術の制御を奪うと直ぐに攻撃の体制に移り、闇霧の術式を改変し俺の位置を特定し始めた。
「出て来ないなら。私が見つけるまで」
「……どうやら生半可な方法は通用し無さそうか。なら、少し本気を出すぞ。悪いが此処からは一気に決めさせてもらう」
俺は身体中の血管、筋肉等に巡らせてある血流を操作して身体能力を向上させる。そして、一瞬で背後へと回り込み腕を掴み上げる。だが、それでも簡単には捕まってくれないようで詠唱をしながら身を捩って拘束から抜けようとする。
「……っ!〈氷結刃〉」
彼女の方から無数の氷の刃が出現し俺の方に向かってきた。それを篭手で弾き飛ばし、掴んだままの腕を思いっきり引いて勢いをつけた。




