VSクレア選手
「皆、お待たせたな!! Bブロックの試合を始めるぜ!!先ずはBブロック第一試合、リリス選手対オルグル選手だっ!!」
「うおおおっ!!」
「きゃああ!!」
「可愛いぞ!!」
ステージ中央に姿を見せたのは、魔術師風のローブを着た小柄な少女と、全身鎧の戦士風の男性であった。そして、歓声が上がる中、司会の声が響く。
「さぁ、準備は良いな?……よし、……始めええええええええええええ!!!」
試合開始の合図と共に、オルグル選手が突っ込んで行く。それに対して、リリス選手は杖を構え呪文を唱え始めた。
「火の精霊よ、我が求めに応じ、顕現せよ」
詠唱を終えると同時に彼女の前に、大男の姿をした精霊が現れた。それと同時に勢いよく炎弾が飛び出していく。
それに対し、盾を構えたまま走り続けるオルグル選手だが、その距離が10メートル程まで縮まった時、突如それは起きた。彼の前方3メートルの地点より地面が爆発したかの様な土煙りが上がり、吹き飛ばされたのだ。
ふと見れば、リリス選手の左側に小さな何かが動いており、俺は咄嵯に目を凝らす。そこには……、黒い子猫の姿があった。
「くそっ、油断したか……」
起き上がった彼は、自身の状態を確認する。身体中火傷を負い満身創痍の状態であった。
そして、それを好機と見たかの様に駆け寄ったリリス選手の魔法が発動する。
「光の精霊よ、契約に従い、我に力を与えん」
すると、彼女の周囲にいくつもの光球が現れては、辺りを照らしつつ徐々に大きくなっていく。
そして、その大きさが2メートルほどになると、彼女は手に持っていた杖を天高く掲げる。
「行け! 閃光弾撃っ!!!」
彼女が振り下ろした腕を下ろすと同時に大量の光が溢れ出す。
視界を奪われた事で、彼が一瞬怯んだ瞬間、今度は無数の雷撃音が鳴り響き、試合終了の合図がなされた。
「勝者、リリス選手!!」
「やったー!!」
こうして、リリス選手は圧倒的な実力差を見せた状態で勝利を収めた。
その後、順調に試合は続いていった。
精霊術師や魔術師、従魔術師や死霊術師、聖騎士や拳闘士などといった人達が勝ち上がってきた。
その中には俺と同じような戦闘スタイルをした人も居たが、俺は特に興味が無かった為、殆ど覚えていない。そして遂に俺の出番がやってきた。
「さて、それでは次の試合に移るぜ!! 一回戦は派手な立ち回りもなく、エルハルト卿の動きを利用した場外で、勝利したルーク選手、それに対するは、鳳龍国の元剣聖。剣速は未だ衰えを知らないクレア・ディアス卿だああっ!! 今回注目の一戦になると思われますが、どうなるのでしょうか!?」
司会の言葉に観衆は沸き立つが、魔術を使えばもっと早く決着がついただろうし、観客の目も誤魔化せる程度の接戦にした筈なのだが……。
そんな事を考えているうちに相手である、そのクレア選手が到着してしまう。
「よろしく坊や、特別枠の出場だからと言っても、そう簡単に飛ばされはしないからね」
「よろしくお願い致します。まぁ俺も負ける気は無いですから」
俺はそう言って両方の中指人と差し指指に指輪を通した。これは、リトスの出した糸を使った指輪だが、普段の戦闘で使う事は無い物だ。
だが、今回はこの武器の力を対人戦で試す絶好の機会でもある。
「さあ試合が始まったが、両者一歩も動きません。互いに出だしを読み合う展開からかあ?……い、いや! 違いました!! 仕掛けたのは双方同時!! そして……おおっと、此処で何が起きたのかあ? ルーク選手が消えたぞおおお!!」
次の瞬間、実況席の方々が大きく騒ぎ始める。そして観客達も同様にざわめき始めた。
「何だ、見えなかったぞ!」
「え、何が起きてるんだ?」
「ほら、あそこの部分よ!」
「あのルークって奴、どんなスピードしてるんだ?」
「私、目がおかしくなったかしら?」
様々な声が上がった中で、俺は静かにフィールドの端へと移動していた。何故ならばこの試合で行う作業は、既に終わってしまったから。
「坊や、随分と動きが速いじゃ無いか! でも止まったって事は、疲れたんじゃ無いんだろう?」
「えぇ、俺への気遣いありがとう御座います。でも大丈夫ですよ。もう終わりですから」
「だろうね、こんな糸初めて見たよ。魔力も通さないし、剣で斬れる気配もない厄介な糸だねぇ?」
「えぇ、流石ですね、その通りなんですよ」
「そうかい? だったら……、これではどうかな!!」
流石は元剣聖と称されるだけある。いっさい触れずに糸の性質を読み取ったらしい。
そこから、剣を構えると突然、周囲の空気が変わった。そしてそれは一瞬にして、俺に向かって襲いかかってきたのだ。
「これで、どうだい? 私の編み出した奥義、その名を『空閃』と言うんだよ!!」
そう言って、クレア選手は小さく剣を振るう。その瞬間、俺の鎧からいくつもの打撃音が聞こえてきた。
……成程。確かに範囲こそ凄まじく狭いが、その分予備動作が殆ど無い。
リトスの糸を高速で動いた際に、バトルゾーンに張り巡らせたが、その隙間を的確に突いた技だった。
かなりの使い手だというのが分かる。しかし―――。
「くっ、これだけやって無傷とは、本当に末恐ろしい子だよ……」
俺は彼女に気付かれないように薄く笑いつつ、心の中でほくそ笑む。何故なら彼女のお陰で必要なデータを取ることが出来たからだ。だから、これ以上は必要無い。
「この鎧も、その糸も防御の面では最高の物ですからその威力ではダメージになりませんよ」
「だけど、ソレは坊やもそうなんじゃないかい? そんな位置じゃ、攻撃は出来ないだろう?」
彼女はそう言うが、俺は気にせず構えを取り直す。そして右手に嵌めている人差し指の指輪を撫ぜた。
「【黒炎】」
すると、俺の周囲に黒い球体が複数現れる。それと同時に観客席からは大きな歓声が上がった。
「おっとお! ここでルーク選手の反撃か!? 」
「へぇ~面白いじゃないか。一体何が起きるんだろうねえ?」
「さてね、とりあえず見てみましょうか」
「それじゃあいっちまえーーっ!!」
よし、皆良い感じに乗ってくれたようだ。さて、ここからが俺の本番となる訳だが、左手の指輪を2つとも糸を絞る様に引っ張る。
「なっ!?」
そして、クレアさんが驚きの声を上げると同時に、糸は身体を締め付ける様に絡まり宙に浮く。その光景は蜘蛛の巣に捕えられた獲物の様にも見える。
俺はそれを見上げながら、口元に弧を描き呟いた。
「それでは、始めようか」
俺は空中に居ながらも動けない状態の彼女に向けて黒炎を糸に近づける。
「何をするつもりだい? この糸は魔力を通さない物だろう?」
「えぇ、繋がりの無い魔力は一切通しませんよ。他人の魔力なら特にね」
「まさか!?」
「そのまさからですよ」
そう言って俺は黒炎によっに火をつける。その瞬間に、周囲からはバチッという音が鳴るが、纏わりついている糸を燃やした。
そのまま糸は燃え続け、糸全体を包み込んだ後、炎は中心のクレア選手に迫る。それに対して彼女は目を閉じ、頭を項垂れている。
ユア選手もリリス選手もかなり魔力を練った攻撃をしていたが、相手が気絶する程度で無傷だったのだから。
「ハァ、全くもって信じられ無いよ……。この私がこうもあっさり負けてしまうなんて、しかも坊やに手も足も出ないだなんてねぇ? これはもう笑うしかないじゃないか……降参だよ」
そして目の前では、糸が完全に焼き切れ、クレア選手が地面に叩きつけられていた。俺はその声を聞きそちらを見ると苦笑いを浮かべてしまう。何故なら、彼女があまりにも嬉しそうにしていたからである。
「ふぅ、ありがとう御座いました!!」
俺は息を吐き、頭を下げる。
先程使った【黒炎】は見た目こそ派手だったが、実はそこまで威力は無い。いや正確に言えば、相手を気絶させるくらいの威力はあるのだが、実は殺傷能力は高く無い。
何故かと言えば、理由は単純である。拷問様に編み出した術の1つで、熱と焼かれる感覚を常に与える物で、相手に激痛を与え続けるものだからだ。その為、命を奪うには至らない。
勿論この術に対する治癒魔術も作ってあるが、今回は使う事は無いだろう。
「試合終了!!勝者はルーク選手だ!!」
クレア選手が治療班に移動させられるとすると直ぐに、審判から俺の勝利宣言がなされた。その途端に闘技場内が揺れんばかりの歓声が巻き起こる。そして次の試合の為に一旦控室に戻った。
そして、次々と試合が行われ、最後の試合が執り行われたのだが、その内容は異質だった。




