龍帝祭武闘大会
「実は、竜蟲の件をどこからか聞きつけた奴らが、俺の妄言だと言い始めたんだ」
「は? 何でそうなるんです?」
「それがだな、お前から買い取った竜蟲の素材が在るだろう。他国の奴らがイチャモンつけてアレを斬れなかったもんでな、出処を言ったら『嘘をつくな!』って言われた訳よ……それで、仕方なく売り言葉に買い言葉ってなもんでな」
売り言葉に買い言葉って……要は自業自得じゃないかとは思うのだが、色々と鉱石や取引に都合をつけてくれるから、余り無碍にはできない。
「なるほど……でも、俺が大人の部に出て良いものなんでしょうか?」
「あぁ、そこは気にすんなって! どうせ子どもの部にしか参加しねーとか言ってやがったし、奴らも自分の最強の戦士を出すって言ってたからな」
「最強?」
「あぁ、なんでも自分の所の騎士団長だとよ」
「へぇ~」
「だからよ、頼めねえかな? 勿論、俺の出来る範囲で、何でもしよう」
「……分かりました。なら、1つお願いがあります」
ある意味この頼みは、道徳的な部分で頼み難かったのだが、何でもって言ったから此処で頼むのは間違い無い筈だ。
「おぉ!! なんだ!? 何でも聞くぞ!!」
「以前の際に見た、龍脈の源……先代の龍帝陛下の遺骨が眠られている場所で、精霊契約をさせて下さい」
「なっ!? そいつは……分かった。約束するぜ! だが、その前に大会の方は、しっかり優勝してくれよ!」
こうして、俺は龍帝祭武闘大会に出ることになったのだった。そして、今に至る。
「さあ! 今年もこの日がやって来たぜ! 年に一度の祭典、『龍帝祭』武闘大会!! 今年も各国の猛者共が集まってくれた!! ルールは簡単に言えば勝ち抜き戦だが、冒険者ギルドの協力で、観客や選手が怪我をする事の無い様にフィールドが張られているから、安心してくれ!! 勝敗はバトルゾーンから出た。若しくは気絶、降参の三つだけだ! 司会進行はこの俺、ファルース王国ドラグーンファング部隊、元隊長のジーク・エルドレッドが務めさせてもらう!!」
会場内に響き渡る大声に、観客達は歓声を上げている。
「それじゃあ、早速出場者の紹介と行こうか!!」
「「「「「「「「「うおおおおおっ!!!」」」」」」」」」
「まずは、子どもの部、第一試合だ!!」
「「うわあああっ!!!」」
「まずは彼からだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」
「「うわわわわわわわわわわわわわわわわわ!!!!!!」」
会場内の盛り上がりが最高潮に達した瞬間、ステージ上に巨大な魔法陣が現れて、そこから一人の男が姿を現した。
その男は、全身を既視感のある黒い鎧に身を包んでおり、頭には兜を被っていた。
そして、背中には7、8歳位の少年を背負っていた。今から始まる子どもの部の選手なのだろう。
「黒騎士様あああっ!!!」
「きゃー! カッコいいぃぃぃぃぃぃいいっっ!!!」
「「キャアアッッ!!」」
「子どもの部、帝国ドーランの黒騎士エルハルト卿のご子息リアン君と、我等が龍帝ゼルガノン陛下が第二皇子のアーサー殿下だあああっ!!!」
「「ワァ──────────ッッ!!!」」
「おい、アーサーまじか……」
「あぁ、恥ずかしウチの弟や……」
「やっぱりか……」
「ま、しゃあらへんか。あの子も男の子やし、それにウチは応援してるで?」
「そうか……頑張れよアーサー」
「うん。ほら、アンタも早よう行かんかい」
「はいよ……」
そう言って、俺はアーサー達がいる場所から離れて行く。そして、反対側の入場口からステージ上へと歩いて行く。
「続きまして、大人の部、第一試合の選手紹介です」
「「ウォォオオオッッ!!!」」
「大人の部、最初の試合は、紅龍勲章を授与された男!異例の参加、冒険者ギルドAランクチーム影狼のリーダー! ルーク卿の登場です! 皆さま盛大な拍手をお願い致します」
「「パチパチパチ」」
(……なんか、凄く居心地が悪い)
「続いては、今大会の優勝候補の一人、帝国ドーランの十三黒騎士が一人! 黒騎士エルハルト卿だあああっ!!」
「「ウオオオオッッ!!」」
「対するのは、英雄と黒騎士! 一体どんな戦いを見せてくれるのか! それでは、試合開始!!」
こうして、俺とエルハルト卿との試合が始まった。
「「ウオオオーッッ!!!」」
開始と同時に、観客達の興奮した叫び声が聞こえてきた。
俺としては、非常にやり難い環境だ。
しかも、俺と違って盾持ちなので、防御に徹されると中々に厄介な事になる。
俺がどう攻めるか考えていると、向こうから仕掛けて来た。
「我等が姫の想い人、ルーク殿であるか。お初に御目に掛かる。十一位黒騎士エルハルトと申す。ならば、手加減は無用であるな! ゆくぞ!『シャドウエッジ!』」
すると、エルハルト卿が持っている大剣から、無数の漆黒の刃が放たれてくる。
「『風壁!』」
咄嵯の判断で風の防壁を張り、何とか回避に成功する。しかし、攻撃はまだ終わらない。
「まだまだいくぞ!」
「ちっ!」
今度は、俺の足元から大量の闇の手が生えてきて、俺の足を掴もうとする。
「無駄だ!」
「甘い!『アースジャベリン』」
俺が足元から無数の土槍を放つ事で、闇の手は消滅した。
「ふむ、流石は竜蟲殺しの英雄といったところか。だが、これならどうだ! 『ダークランス』」
「ぐっ!?」
エルハルト卿の放った闇属性の中級魔術により、俺はリングの端に追いやられてしまう。
「そろそろ終わりにしてやろう!『ナイトメア・ドライブ』」
「うおっ!」
エルハルト卿の身体が、黒いオーラに包まれていく。そして、一瞬で俺との距離を詰めると、俺に斬りかかってきた。
「ハアアアッッ!」
「クッ、速い……なんてね」
「何だとっ!!」
俺がニヤリと笑った瞬間だった。
「がっ!!」
俺は、エルハルト卿の後ろへと転移を行い、その鎧に対して『加速化』の魔術を付与した結果、エルハルト卿はバトルゾーンから飛び出て地面に身体を打ち付けた。
エルハルト卿は俺を弾き飛ばすつもりで攻撃してきたらしいが、その威力と力の向きを逆に利用させて貰った訳だ。
「これで、勝ちですね」
「グッ、まさかこんな方法で……私の負けだ」
こうして、俺は初戦を突破したのであった。




