パラレルワールドに迷い込んだらしい
「はい。ソフィア・バーネット皇女殿下ですよ」
「…………」
俺が無言になると、渚は俺の目の前に来て、俺の手を握った。
「どうかされましたか? 体調が優れないのでしょうか?」
俺は、意を決しソフィアと呼ばれた女性の顔を見た。すると、彼女は俺に微笑みかけてきた。
「起きたのね、ルークさん。私の事は、分かるかしら? 何時ものようにソフィーと呼んで下さらないのかしら?」
「……あ、ああ。」
「う~ん、ルークさん。元気が無いみたいだけど、もしかして私じゃ不満なのかしら?」
「いえ、そんな事はないのですが……」
「ふふ、冗談よ。それより、貴方が倒れてから大変だったのよ。あの子ったら泣き出すわ、それに、リリィとカミナは暴れだすしでもう大騒ぎだったのよ」
「そうですか。ご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ございません。それと、助けてくれて有難う御座いました」
「いいえ、気にしないで下さい。それよりも、朝食の準備が出来ているみたいなので一緒に行きましょう」
「はい。分かりました」
やはり何かがおかしい、ソフィアの顔は間違い無く、知っている彼女の顔をしていたが、話し口調が別人のものだった。ソフィア(?)に案内された場所は食堂ではなく、何やら豪華な料理が並ぶテーブルがあった。
「これは?」
「ああ、それね。実はね、昨日の夕食を食べ損ねたって聞いたから、皆で作ってみたの」
「そうなんですか?」
「……貴方本当にルークさんなのかしら? さっきから、いつもの貴方らしくない答えばかり返ってくるのですけど? もしかして偽物だったりするのかしら?」
どうやら、先程の態度は彼女に不信感を与えてしまったようだ。
「俺は正真正銘のルークですよ」
「そうよね。良かったぁ。だって急に黙り込んじゃうんだもん。心配するじゃない!」
「すみませんでした。少し考え事をしていたもので」
「まぁ、良いわ。とりあえず食べましょ」
「はい。頂きます」
俺は、出された食事を口に運んだのだが、味覚が麻痺しているのか味が全く分からなかった。
「ねぇ、美味しい? 一応、頑張ったんだけど」
「ええ、とても美味しかったですよ」
「本当! 嬉しいなぁ。また今度作るから楽しみにしておいてね」
「はい。その時を心待ちにしています」
それから食事を済ませた後、ソフィアに部屋まで送って貰った。そして部屋に入ると、そこには渚がいた。
「ルーク様。お帰りなさいませ」
「ただいま。渚」
「……何かあったのですね? 顔色が悪いようですが」
「まぁ、ちょっとあってね。それで、今日は何の月の何日だっけ?」
「はい。今はイフリートの一月の二十日になります」
思っていたよりも、事態は深刻なのかも知れない。何故なら、俺の記憶では、クラーケンの討伐の辺りになるのだが、どうやら、その記憶すらも改竄されているようなのだ。
「そうか。ところで、俺が寝た後の話を聞かせてくれるかい?」
「はい。かしこまりました」
そうして、渚は俺が寝た後からの出来事を話してくれた。
まず、アーサーと渚で俺を部屋に運び、その後、渚は俺の部屋で待機。その間に、ソフィアはリリィとカミナを連れて、俺が倒した魔物の死体処理に向かったらしい。
そして、死体を片付け終えると、そのまま三人で屋敷に戻り、ソフィアは俺の部屋で目が覚めるのを待っていた。
「成程ね。それで、渚は?」
「はい。お嬢様方と一緒にお風呂に入っておりました」
「……そうか。ありがとう」
「いえ、お役に立てたのであれば幸いです」
「……少し確かめたいことが出来たから、暫くの間、部屋に誰も入れないでくれ」
「はい。承知しました」
「それと、渚も俺が呼ぶまでは来なくていいぞ」
「はい。分かりました」
さて、これからの行動だが、やはり、元の世界では無いのは間違い無いだろう。
だが、全てが違うという訳でも無いらしい。
「━━『神域展開』」
俺は、神域に行く為のスキルを使った。すると、俺を中心に魔法陣が展開されていく。
「やはりか……」
予想通り、俺が使える魔術や知識が頭の中に流れ込んでくるが、そのどれもが違う。
「……俺の知っている歴史とは違うのか?」
情報を読み取りながら解析していくが、要するに、この世界は一種のパラレルワールドの様だ。
「……」
だとすれば、俺は元の世界に戻る事が出来るのだろうか?
「……駄目だ。情報が少なすぎる。それに、此処が何処かも分からない以上、下手に動くわけにはいかないな」
神域展開を用いて、神界に移動する事は出来たが、エウリシア神が俺の知っている人物通りなら良いのだが……。
一抹の不安を抱え、俺は彼女の所に歩き出した。
「……来ましたね、ルークさん」
「ああ、来たよ。エウリシア神」
「ふふふ、そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ。駄女神だと言われてましたからね」
「……。そうかい、なら楽にさせてもらおう。んで、一体どうなってるんだ?」
「それは、私にも分かりません。恐らく、何者か若しくは何かが貴方のいた世界に干渉したのでしょう」
漸く姿を現したエウリシア神は、記憶通りの姿をしていたが、俺のいた世界の彼女よりも、落ち着いた雰囲気をしていた。
「……成程ね。で、あんたはどうしたいんだ? このまま何もしないでいるつもりなのか? それとも、どうにかしようと動いてくれるのか?」
「私は、出来る事ならば貴方の力になりたいと思っています」
「へぇ~意外だったね。もっと、傍観していると思っていたけど」
「いいえ、今の貴方は、この世界のルークでは無く、異界神の側面が強い状態にあります。破壊神の力が強い状態になれば、この世界は崩壊する可能性が高く、そうなれば、貴方の居た世界も巻き込まれてしまう可能性がありますから……」
「そうか、分かった。なら早速だけど、俺を元の世界に戻せるのか?」
「残念ながら、今の状態では不可能です。ですから、私の力を使い一時的に世界を繋ぐ為に、此方の世界の六龍の誰かに会って下さい」
エウリシアの表情は、向こうで見たこともない程に真剣なものだった。
「……そうかい。じゃあ、行くけど、場所は何処か分かるか?」
「ええ、それぐらいなら問題ありませんよ。私が繋ぎますから後はお願いします」
「ああ、任せてくれ」
エウリシアが術式を編み込み、空間に亀裂が走る。
その先に見えたのは、以前見たベルフォートの外殻とも呼べる空間であり、六龍が修復を行うと言っていた場所だ。
俺は、亀裂の中へ飛び込むと直ぐに行動に移した。
「……さぁーってと、誰に挨拶しましょうかね」
俺は、目の前に広がる景色を見て、そう呟くのであった。
「……とりあえず、一番頼りになる所へ行くか」
俺は、先ず最初に近場にいた人物の元へ向かう事に決めた。
「……シャガール様、お近くに居ますでしょうか?」
六龍の中でも、恐らく一番理知的な存在であろう紫龍のシャガール様に呼び掛けた。




