バーミスト領での最終日
ゾフィアさんは、元々家族が薬師で、自身も手伝いを行える程度の簡単な薬を作っていたらしい。
その頃に立ち寄ったバーミスト領が気に入り、引っ越して来たそうだ。
その頃に、ゾフィアさんがユーディットお祖母様の近所に引っ越し、友達になったらしい。
しかし、数年後にゾフィアさんの家族が流行病で亡くなった。
その時に、ゾフィアさんも流行病を患っていたが、両親が残した試験薬を飲み続けた結果、病は治ったが体組織が変質してしまったらしい。
そんな中でも、ユーディットお祖母様がゾフィアさんの家を訪れて、色々と面倒を見た事が切っ掛けで、ゾフィアさんはユーディットお祖母様と友達から親友になったという。
お祖父様との出会いも、その頃に領地の視察をしていた際、ユーディットお祖母様と一緒に魔物から護られてといった内容だった。
「成程……でも、どうしてお祖父様はゾフィアさんを好きになったのに、ユーディットお祖母様と結婚したの?」
「それは……彼女が年を取らない……取れないが正しいか。それを理由に振られ続けたからだ」
「えぇ。私は不老不死じゃないけれど、普通の人間よりは長生きする身体に成ってしまったし、子供が産めない身体にも成ってしまったからね……多分、二人は私を遺して逝ってしまう。そして、子供や孫が産めたとしても、見送る側に成ってしまったら……そうしたら、私の心は間違い無く、死んでしまうもの」
「……」
「あぁ。ワシはそれでも構わなかったんだが、ゾフィアそれは駄目だと言って拒んだんだ。そして、ユーディットもワシに話を持ってきた」
ザリウスお祖父様曰く、最初は自分の気持ちを伝えていたが、徐々にゾフィアさんは自分が居なくなった後の事を考えて、結婚出来ないと断ったらしい。
そして、それから世継ぎが居ないのも駄目だと言う事もあり、ユーディットお祖母様の家から婚姻の話が出たそうだ。
「それで、結局ユーディットと結婚したのよね?」
「うむ。だが、最初から後悔しておらんよ。グランツが産まれたのもあるが、ユーディットには色々と感謝しているからな」
「フフ……私も同じよ。アナタと結婚して、本当に良かったと思っているわぁ」
「そうか……」
二人の夫婦愛を垣間見た気がするが、俺としては少しだけ気恥ずかしかったが、同時に、こう在りたいと言う理想的な夫婦だとも思った。
「さて、そろそろ帰るぞ!……ん? ルークどうしたのだ?」
「いえ、何でもありません!」
それから話を聞いていたのだが、バーミスト領は一夫多妻制を行っていないと言う事もあったらしく、もし一夫多妻制を行っていたとしても、子供が産めない上に不老の身体になってしまった為、ザリウスお祖父様に迷惑を掛けてしまうと思ったらしい。
「ふふふ、ザリウス君。ユーディットは、貴方が思っている以上に、貴方の事を愛してるのよ?」
「うむ……分かっておるよ」
「あらあら? 随分と素直ねぇ?」
「ふん。お前こそ、後悔しても知らんからな、今のワシはユーディットを愛しておる。初恋はお前だったが、今は思い出だからな。それに、ルークの事も孫として可愛く思っておる」
「はい! 僕もザリウスおじい様とユーディットお祖母様が大好きですよ!……ところで、この魔導書って何なんですか? お二人共知っていたみたいですけど?」
話も終わった所で、俺は先ほど貰った魔導書について尋ねたのだが、ザリウスお祖父様は首を横に振り、ゾフィアさんは微笑みながら教えてくれた。
「この魔導書はね、様々な魔法陣が描かれた本なのよ。ただ、描かれているのは古代文字で書かれているから、今の人では読めないし、そもそも存在すら知らない人が多いと思うわ」
「そうなんですね」
「えぇ。この本に描かれている魔法陣は、本来なら私が解読する予定だったものだけど、残念ながら解読出来なくて、使えなかったのよぉ。だから、ルークちゃんが使っても良いの」
ユーディットお祖母様は、解読が出来無いと言っていたが、俺の場合スキルを使えば読めるかもしれないと思う。
もし、安全な物であるならば、披露しても良いだろう。
「ありがとうございます。大切にします」
「うむ。大事にするんだよ?」
「はい。それと、ゾフィアさんもありがとうございました」
「いいえ。また何かあったら、いつでも相談に来てね?」
「はい。その時はよろしくお願いいたします」
こうして、俺は目的の本と予想外の魔導書を貰えた。
「よし! 早速帰って試したい事があるんだけど良いかな!?」
「あぁ、構わないとも。ユーディットもそれでよいか?」
「そうね。じゃあ、帰りましょうかぁ?」
「それでは、此処でお別れですね。ルーク、ザリウス様、ユーディット様ありがとうございました。ザリウス様から教えて頂いたお店は、明日にでも訪ねさせて頂きます」
「まぁ、厄介な品は特別な店にしか許可を与えて居ないからな。そこなら渡した手紙で取引する筈だ」
「ギルバート、またな!!」
そうして、ギルバートと別れ俺達はお祖父様の屋敷へと戻る事になった。
屋敷に戻ると、既に日が暮れていたので夕食を済ませてから、自分の部屋に戻ろうとした時だった。
「ルーク、ちょっと話があるから私の部屋まで来てくれるかしらぁ?」
「はい。分かりました」
ユーディットお祖母様に呼ばれ、部屋へと向かう事に。
「失礼しま……す」
「あぁ、来たか。そこに座りなさい」
「はい」
中に入ると、お祖父様が椅子に座るように促してきたので、そのまま腰掛ける。すると、向かい側に二人が並んで座った。
「さて、今日はどうだったかしら?楽しかった? それとも疲れたのかしら?」
「はい。とても充実した一日になりました!」
「ふふっ。それは良かったわぁ……此処は遊ぶ場所が殆ど無いし、子供が喜ぶ物も少ないから、退屈させてしまったんじゃないかと思ってたのよ?」
「そんな事無い、どちらかと言うと、鍛錬も魔術教養も錬金術に彫金、色々したいことがあるから、そういう本を読み漁るのが好きだから、お祖父様の書庫も楽しいです」
「うむ。そうかそうか」
「そう言ってくれると嬉しいわねぇ」
俺の言葉を聞いて二人は嬉しそうだが、俺としては嘘偽りの無い言葉だ。
「さて、ルークが楽しんでくれたのなら良かったが、明日はワシ達全員で一緒に皇都に行くぞ?」
「え? どうしてですか?」
「お祖父様がルークちゃんに、会わせたい人が居るのよぉ?」
「お祖父様が会わせたい?」
「うむ。ワシの友人なのだが、ルークにも一度紹介しようと思っての」
「そうなんですね……どんな方なんですか?」
「一言で言うならば、変わり者だが悪い奴ではない」
「ふふ……ザリウス君、その言い方は酷いんじゃなぃ?」
「むぅ……確かにな。しかし、本当の事だろう? 良く言えば一途、悪く言えば頑固。興味が湧けば四六時中引き籠もって、飯も食わずに作業に没頭する。変わり者と言わずに何と言うのだ?」
「フフ……ザリウス君は、昔から彼に厳しいからねぇ。でも、彼のお陰で私も助かった事が何度もあるから、感謝しているのよ?」
「ふん……お前は優しすぎるのだ。それで、何度騙されたか……」
「あらあら、ザリウス君の嫉妬ね? 大丈夫よ。私は貴方のものだからぁ」
二人の会話を聞く限りだと、お祖父様のお友達は相当な変人らしい。
「あの、僕が行っても良いんですか?」
「あぁ。ルークには是非とも紹介したいのだが、嫌なのか?」
「いえ、ただ、僕がお邪魔しても迷惑じゃないかと思いまして」
「何を言っているんだ。ルークは孫なんだから、遠慮する事は無いだろう?」
面白そうな話ではあるし、アーサー達との約束の日はもう少し先だが、一足早く向かうのも悪く無いだろう。
「はい! ありがとうございます! では、明日の朝出発しますね?」
「うむ。では、朝食後に迎えに来るとしよう」
「はい! よろしくお願いします!」
こうして、俺は明日からバーミスト領を離れて、皇都に向かう事になった。




