古書店の主とお祖母様達の関係
暫くお祖母様と女性は話をしていたので、俺は身近にある書物を物色しながら話を聞いていたのだが、どうにも娘や孫といったワケではなく、彼女がこの店の主らしい。
「相変わらず、店以外の他の事には興味が無いみたいだねぇ……ゾフィアちゃんは」
「フンッ……別にそんなつもりは無いけど……それより、貴方も昔は偽物の禁書を見つけてきてはよく読んでたでしょ? そのせいで、変な魔術を出してたけど」
「フフ……そうねぇ。懐かしいわねぇ」
どうやら、目の前にいる女性の名前はゾフィアというらしい。
しかし、見た目から年齢を判断する事が出来ない。お祖母様と仲が良い事は理解できるが、一体どれ程の付き合いなのだろう。
「ごめんなさいねぇルークちゃん。久しぶりに会った友達だから、ついつい話が長くなっちゃったわぁ。そろそろ欲しい物がないか奥に見に行きましょうねぇ」
「はい、お祖母様」
俺達は店の中を巡り、目当ての魔導書を探す。
流石に禁書は無いが、魔術や錬金術、薬品等の知識に必要な物は、スキルで覚えられるモノ以外に、勉強と同じ方法で覚える事の方が多い。
前提知識を持つことで、応用や派生に繋げる事も容易くなる。
特に、『原初の魔導書』を持っていても、知らない技術や記載されていない物は、こうやって調べる事で知る事が出来るのは非常に有難い。
「ルークちゃん。何か欲しい物があった?」
「はい! お祖母様! この類の本が欲しかったんです!」
「おやおや、これはまた難しそうな本を……」
「お祖母様、これって珍しいんですか? それに値段も書いて無いですが……」
そう言った途端に、後から細い腕が伸びて本を取り上げられると、「よりによってコレを取るか」とゾフィアさんの声がした。
振り返ると、先ほどまで椅子に座っていた彼女が立っており、俺から取り上げた本のタイトルを見ていた。
「『魔術の深淵』……確かに、普通の子供が読むような内容じゃないわね。でも、どうしてこれが読みたかったの?」
「それはですね。僕がまだ見たことの無い術式が載っていると思ったからですよ」
「まだ見ぬ術式……成程ね……ちょっと待っていてくれる?」
「はい」
ゾフィアさんは店の奥に入っていくと、暫くして一冊の分厚い書物を手に持って戻って来た。
「はい。この本は、私が持っている中でも、かなり古い部類の物ね。今の君には少し難しいかもしれないけれど、それでも良ければあげるわ」
「え!? 本当に貰っても良いの?」
「えぇ。私には必要ないし、この店に置いても誰も読めないからね。ユーディットが連れて来た子供だし、特別よ?」
「ありがとうございます! 大切にします!!」
「フフ……素直な子は嫌いじゃないわよ。それじゃあ、私は読書の続きに戻るから、用が済んだなら声をかけて頂戴ね?」
「はい! それじゃあ行きましょう、ユーディットお祖母様!……あれ? ユーディットお祖母様?」
俺とゾフィアさんは話していたが、その間、ずっと黙っていたユーディットお祖母様に声を掛ける。
するとお祖母様は、何故か驚いた表情をしていた。
「……あぁ、ごめんなさいねぇ。それじゃあ、お祖父さんの所へ、帰りましょうかぁ」
「はーい」
俺はゾフィアさんから貰った本と『魔術の深淵』を大切に抱えながら、店の外へ出る。
そして、そのままお祖父様の所へ戻ろうとしたのだが……。
「お祖父様が居ない?」
「あらあら、やっぱりここに来たら隠れると思ったけれど、案の定だったわねぇ」
お祖父様とギルバートの姿は、何処にも無く気配すら残されていなかった。
何かあったのかと思い、周辺の魔力を探そうとした瞬間、木の上から声が聞こえてきた。
「あらあら、やっぱり此処に居たのねザリウス君?」
「うッ!! 君付けで呼ぶなと言っただろうが、ゾフィアよ」
ゾフィアさんは、どうやら後ろから着いてきており、直ぐにお祖父様達の居場所は見破られた。
何故かお祖父様達は、傍にある大きな木の上に在る木陰に隠れていたのだ。
どうやら、俺達が店内に入った後から隠れており、俺達が出て来るのを待っていたらしい。
「貴方ねぇ、いい加減にしないと、昔の秘密をお孫さんにバラすわよぉ?」
「ぐっ……それだけは勘弁してくれ……頼む……」
「ふふふ……冗談に決まってるでしょう? そんな事したら、私が怒られちゃうもの。それより、このままで良いのかしらぁ?」
「何の事だ?」
「何って、貴方のお孫さんの事だけど?」
俺はユーディットお祖母様に手を引かれ、お祖父様の居る木の前まで連れて行かれたのだが、お祖父様はゾフィアさんを見ながら、バツの悪そうな顔で迎えてくれた。
「ルーク、どうだったかね? 魔導書は買えたかな?」
「はい! お祖母様のおかげで、目的の魔導書を買うことが出来ました! 後はゾフィアさんから、このとても貴重な魔導書を貰いました」
「っ⁉ そうか」
ユーディットお祖母様と同じで、ザリウスお祖父様も何処か驚いたような顔をしたが、すぐに元の顔に戻った。
「ところで、こんな所で何をしていたんですか?」
「あぁ……実はな……」
「ルークちゃん! この人ね、昔はゾフィアちゃんの事が好きだったのよ!」
「ちょ、ちょっと待て! 何を言っておるか!」
「だって本当の事でしょ? アナタは昔から、ゾフィアちゃんに振られてばっかりなんだから」
「むぅ……」
「えっと……どういうことですか? 明らかに年齢が離れすぎてますよね?」
確かに、ユーディットお祖母様と仲が良いが、孫や娘ほど歳の離れた二人の間に恋愛感情があったとは到底思えない。
俺の疑問に対し、ユーディットお祖母様が答えてくれる。
「まぁ、簡単に言うとね。ゾフィアちゃんは、見た目が若いけど……幼馴染なのよぉ」
「そうなんですか?」
「そうねぇ……もう四十年以上前になるかしら……確か」
「そうだ。彼女はある種の魔女だからな」
二人は懐かしみながら、関係を話してくれた。




