バーミスト領での過ごし方
楽しい俺達にとって衝撃的な事実を知る事になるのである……。
俺は、目の前で繰り広げられている光景に唖然としながら呟く。
「凄いな……」
俺の目の前には、多くの料理が並んでおり、どれも美味しそうである。
しかし、俺とルシアン兄さんの眼の前には食事が並べられる事は無く、先程まで重苦しい話し方をしていたお祖父様が、俺とルシアン兄さんを膝に乗せながら上機嫌で食事をしている。
「そうだろう? そうだろうとも。やはり子供は元気が一番だからな! ほら、ルークもこの魚も食べると良い」
そう言って笑う彼は、とても嬉しそうに見えた。
その姿は、父様が厳格だと言っていたものとは程遠い。
そこにテーブルマナー等は無く、完全に餌付けをされている燕の雛になった気分だった。
「ルークちゃん、はい、あ〜ん」
魚を食べ終えれば、母様が笑顔でスプーンを差し出してくる。
「あ、ありがとうございます」
「ルーク、ルシアン、こっちのスープも美味いぞ」
そちらを食べ終えると、カイン兄さんが別の皿に入ったスープを食べさせてくれる。
「う、うん……」
「ほら、ルークちゃん。これも美味しいわよ」
今度はお祖母様に肉の刺さったフォークを向けられる。
(えぇ……)
戸惑いながらも、口に含むと、噛む度に旨味が溢れてくる。
カミナ達は従者としての扱いらしく、席が離れていたが、同じ物を食べているらしい。
「あら、ルークちゃん。ルシアンちゃんも、お野菜も食べないと駄目よ?」
「「は、はい!」」
お祖父様とお祖母様に挟まれながら、次々と出される食べ物を口に運んでいく。
ルシアン兄さんは、この辺りから最早諦めの境地に入ったらしく、反応が乏しい。
「ルークちゃん、ルシアンちゃん、別のお魚料理もどう?」
「ルーク、ルシアン、デザートもあるぞ!」
二人とも、まるで孫に甘過ぎではないだろうか?
それ程に接してくれるのはむず痒く感じてしまうが、俺は初めて会う孫なのだから仕方ないのだろう。そんな様子を見ていた父様は苦笑していた。
「はっはっはっ! 流石は私の孫だ! こんなにも良い食べっぷりとはな!!」
「ふふっ、本当ねぇ。ルークちゃんは本当に可愛くて良い子ねぇ」
賑やかな宴は、まだまだ続く様で俺はお祖父様の膝に抱えられたまま、ルシアン兄さんと共に眠りに落ちた。
翌朝……
目が覚めると、ベッドの上だった。
隣を見ると、既に誰もいない……
起き上がり、部屋を出ると、そこにはリリアナさんがいた。
「おはよう御座います。リリアナさん」
俺が挨拶すると、彼女は微笑みを浮かべて返してくれる。
「おはよう御座います。ルーク様……昨晩はよく眠れましたでしょうか?」
「はい。お陰様でぐっすりです」
「それは良かったです。朝食の準備が出来ておりますので、食堂へどうぞ」
「はい、分かりました」
食堂に着くと、父様が待っていた。
「やぁ、よく眠っていたね」
「すみません。父様」
「ははは、構わないよ。今日からまた忙しくなるからね。しっかり休んでおくんだよ」
「はい」
それから未だ朝食を食べていない者で食卓を囲む。
「そういえば、お祖父様達は何処に行ったんですか? 姿が見えないのですが……」
「ああ、父さん達は朝の見廻りに行ってるよ。そろそろ帰ってくると思うんだけどね」
その時ーー
「戻ったぞ」
「ただいま」
お祖父様達が帰ってきたようだ。
「お帰りなさい。父さん、母さん」
「お疲れ様でした。ザリウスお祖父様、ユーディットお祖母様」
「おお、ルーク。起きたのか」
「はい。何時もより長く寝てしまったみたいで」
「そうかそうか。では、一緒に朝飯を食べるか!」
ザリウスお祖父様は、相変わらず厳つい顔つきだが、優しげな眼差しをしている。
そして、その横に立つユーディットお祖母様は、果物や野菜が入った籠を背負っていた。
「お祖父様、お祖母様、どちらに行かれてたんですか?」
俺が尋ねると、二人は笑顔を向けてくれた。
「ちょっと、近くの森まで狩りに行っていたのよ。今夜、ルークちゃんにご馳走してあげるわね」
「ありがとうございます。楽しみにしておきます。ところで……」
「ん、なんだ?」
「いえ、何でもありません……」
「……? まあいいか。それより、お前達も早く食え」
「はい、いただきます。あ、そうだ。お祖父様、お祖母様。後で少し相談に乗って欲しい事があるのですが良いですか?」
「ん? 構わんぞ?」
「ええ、もちろん良いわよ」
俺達は食事を終えると、お祖父様に許可を貰って、書庫に向かった。
「それで、一体どうしたというんだ?」
俺は、リリアナさんの状態について、特に記憶を元に戻す方法が無いかを尋ねた。
「ふむ、成る程な……」
「何か、思い当たる事はありますか?」
「いや、すまんが無いな……」
「そう……ですよね……」
「……見た目はキメラ化した結果なのだろう? 暴走の可能性があるのか?それなら、一度調べた方が良いかもしれん」
「えっと、実はですね……」
お祖父様に、リリアナさんの事を話していく。
「……アスター教なぁ……昔を思い出す名だ」
「お知り合いだったのですか?」
「いや、違う。ワシが若い頃に、ある国で大きな戦争があったのだ。そこで、当時は傭兵として雇われていたのだが、その際に知り合った奴がいてな。そいつが言っていたのだよ。『この世界には真の神など存在しない』やら『真の神は地に落ち、まやかしの神はその座を奪ったのだ』とな、まさか本当に邪教徒だったとはな」
お祖父様は、溜め息をつく。
「あの国は狂信者共の巣窟だからな、あまり近寄らん方が良かろう」
「そうなのですか……」
「うむ。それと、ルーク。もし、今後リリアナの記憶が戻る事があれば、必ず教えてくれ。場合によっては、すぐにでもユーディットと共に向おう。バーミスト領内で起きた事件だ、ワシの仕事でもある」
「はい! 分かりました!」
「よし! それじゃあ、早速行くとするか!」
「はい!」
こうして、俺はお祖父様と二人で、リリアナさんの元へ向かった。
リリアナさんの部屋に入ると、彼女は椅子に座って窓の外を見つめていた。
「こんにちは、リリアナさん」
俺が声を掛けると、彼女はこちらを振り向いて、微笑みを浮かべながら挨拶してきてくれる。
「ルーク様、ザリウス子爵様、ようこそいらっしゃいました」
「ああ、元気か?」
ザリウスお祖父様が少し困り顔で問い掛けると、「はい。お陰様で」と答える彼女。
それから、俺達は彼女の向かい側の席に腰掛けた。
「さて、まずは確認したい事がある。今の分かる範囲で構わないから答えて欲しい」
お祖父様は真剣な表情で問いかける。
それに対して、彼女は「はい」と答えてから、ゆっくりと口を開いた。
「私は、ここに来て思い出した事は、誘拐前にユーディット奥様からお使いを頼まれて、そこから戻る際に誘拐されました。そして、それからはずっと暗い部屋と変な容器に入れられて、ですが、最近になって助けられたのですが、未だ記憶が曖昧な所が在ります……」
やはり、思った通りまだ完全に戻る事は無いか……
「なるほど……では、この辺りで忘れている場所は無いか?些細な事でも良い」
「そう……ですね……あ、そういえば、私の他にも人がいた気がします」
「それはどんな人物か覚えていないか?」
「すみません……はっきりとは……」
「そうか……分かった。ありがとう」
お祖父様は質問を終えると、俺の方を向いてきた。
「ルーク、お前はどう思う?」
「そうですね……ここに来て、記憶が戻り始めているのかもしれません。ただ、完全に戻らない可能性もあると思います」
俺の言葉に、お祖父様も同意するように首肯する。
「そうだな。だが、少しでも手掛かりがあるのなら、それに賭ける価値はある。余り無理をすると良くはないだろう」
「はい。僕も同意見です」
厳つい顔をしたお祖父様だが、話して分かった事は、父様と同じで優しい人なのだと言う事だ。
お祖父様達と相談してリリアナさんに関して、父様達が滞在する間は、暫く自由に過ごして記憶の回復に努めてもらう事になった。




