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幽閉された式神使いの異世界ライフ  作者: ハクビシン
2章-16 ドーラン帝国鉱山開拓
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名も無い少女

 伯爵邸に居た彼女が何者なのか、その確認しなければ安心して眠ることが出来ない。

 そう思って目を瞑り精神統一を行う。

 そして数分の後、扉の向こうから足音が聞こえてきた。


(来たか……)


 俺は立ち上がると部屋の外へ出て行った。

 そこにはスレイさんが立っていた。その後ろには、俺が拾って来た少女の姿。

 汚れていた髪は綺麗な茶色をしていたが、服装とのバランスが悪いのか、何処かチグハグな感じがする。


「先ずは改めて名乗ろう。ルーク•ラーズ•アマルガムだ。ウルムンド王国の子爵をしている。さて、名無しの貴女は、あの時間に、どうしてあそこに居たのか話して貰えるな?悪いが、黙りは止めてくれよ」


 そう言った途端、少女の顔は恐怖に染まった。しかし、会った時とは違う雰囲気を出していたから、それも仕方のない事だろう。

 何せ側に居たはずのスレイさんは、既に扉を閉ざし逃げ道を塞いでいたのだから。


「ひっ、わ、私をどうするつもりなんですか?」


 怯える彼女を他所に、俺は質問を始めた。


「まず、名前は?」

「……」


 黙る彼女に対し、再度同じ事を尋ねる。


「名前は無いと言っていたが、名乗っている名があるだろう?」


 そう言うと、彼女は諦めたかのようにポツリポツリと話し始めた。


「私の名前は……ありません。だって私は……あそこに閉じ込められていた商品だもの」

「やっぱりか」


 薄々分かっていたことだったが改めて言葉にされるとショックなものだな。


「それで、あそこで何をしていたんだ?」

「……分からない」

「んっ?それはどういう意味だ?」

「あの場所で気が付いたけど、それまで何をしていたのか全く思い出せないの」

「記憶喪失ってことか?」

「うん、でも一つだけ分かることがある」

「なんだ?」

「私はきっとあなたに買われたのね。だって、こんな場所に居るはずがないもん」


 そう言って、彼女は少し微笑みを見せた。

 だが、事実を伝える為にそこは否定する。


「そうか、残念だけど、君は運良く助かったに過ぎない。俺達はたまたま君を見つけただけだ」

「そっかぁ、そうなんだぁ」


 彼女はそう呟くとその場に座り込んでしまった。俺が、そんな彼女に近づき手を伸ばした瞬間。


「きゃああぁぁぁー」


 悲鳴を上げて後ずさりをされた。まあ当然の反応だと思う。

 出口の無い部屋に自分よりも強い存在が居て、手を伸ばしてきたら、恐怖か安心かの何方かしかないだろうから。

 俺はその場を離れ、椅子に座り飲み物としてカンテボのフルーツを使った飲み物を用意した。

 同じ物を取り出して飲んでいると、最初はビクビクしていた彼女も少し飲み、段々と落ち着きを取り戻してきたようだ。


「落ち着いたかい?」

「うん」

「それじゃあ、もう一度聞くけど、外に出て以降は一体何をしてたんだ?」

「…………えっと」


 再び、沈黙が流れる。

 俺は溜息をつくとその隣に腰掛けた。そして、今度は優しい声で語りかける。


「言いたくないなら無理には聞かない。ただ、このまま此処に置いとく訳にもいかない」


 飯を食べさせて風呂に入れたのは、単にそのままだと衛生的に嫌だったのもある。

 だが、遅い時間に伯爵邸に孤児が居ること自体が問題なのだ。

 俺の言葉を聞いた彼女はしばらく考えていたようだった。

 しかし、やがて決心したように口を開いた。


「記憶、失くした後は暫く、あの場所で……食べ物とか、お金になるモノを探してた」

「なるほど、それを見つけたのが俺か」

「う、うん……」

「分かった。ありがとう」


 俺が頭を下げると、少女は瞳を潤ませながらこちらを見つめてきた。なので、俺は立ち上がってその場を離れようとしたのだが……。


「へっ!?」


 服を掴まれたのだ。ガッシリとそれもかなり強い力で。

 そして、振り返ると彼女は上目遣いをしながら俺に向かってこう告げた。


「ねぇ、お願いだから私を雇って!!何でもするから!!」

「いやいやいやいや、ちょっと待ってくれよ。第一、お前は何が出来るんだ?」

「家事全般、それと戦闘術はそれなりに……」

「ほぅ、戦闘が出来るのか?」

「あっ、はいっ!」

「ちなみに、武器は?」

「短剣を持ってます」

「ほう」


 それはいい情報だ。いざという時に自分の身を守ることが出来る。だが……。


「その割には弱そうだな。まあ、今は良いか。それにしても、なんで俺が主人なんだ? まさか拾ったからとか言わないだろうな?」


 本来ならば、信頼の置けるヒューネラルデ商会の奴隷を雇うのが俺の中ではセオリーになっている。

 この娘を連れてきたのは、何か調べれば出てくるかもと思っただけで、出てこなければ孤児院かスキル次第で雇う判断をしようと思っていたぐらいだ。

 つまり、そこまで深く考えていなかったのだ。

 そんな事を考えながら少女の顔を見ると何故か顔を真っ赤にして俯いていた。


(あれっ?俺なんか変なこと言ったかな?)


「俺は主人とか言われても困るんだよなぁ……そうだ、ルーチェ居るだろう? 出て来て貰える?」


 そう言うと直ぐにルーチェは俺の背後から姿を現した。

 暗殺者としてのスキルが高いから、傍から見れば何も無い空間から突如現れた様に見えるだろう。

 目の前の彼女も目を見開いて驚いている様だった。


「ルーク様、何か御用命でしょうか?」

「実は、彼女が……」


 俺が説明しようとすると、彼女は何時の間にか側にいた少女の手を取った。


「話は聞いてた…ました。アタシは彼女と話がありますので、ルーク様はこの事をメイド長にお願いしますね」

「おっ、おう」


 そういうなり二人は部屋の外へと出て行った。

(大丈夫なのかな?)

 少し心配になった俺はこっそり扉を開いて様子を確認してみる事にした。しかし、既に二人の姿は無くなっていた。

 代わりにテーブルの上に一枚の紙が置かれていた。そこに書かれていたのは次の言葉。

『私達のことは放っておいて下さい』

 そう書かれてから1時間後、スレイさんと一緒に部屋に戻ってきたルーチェの表情を見て全てを理解し納得する事にしたのだった……。

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