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幽閉された式神使いの異世界ライフ  作者: ハクビシン
2章-16 ドーラン帝国鉱山開拓
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リリスという名のコア

 不死の力を得るというのは、結論から言うと、可能だったらしい。

 但し、それはあくまで理論上の話だ。

 実際に試してみた結果、一部の例外を除き、殆どの者が自我を失い、暴走してしまう事が分かったようだ。

 そして、その例外というのが──リリスという名だった。

『彼女だけは、ダンジョンコアとの適合に成功した唯一の存在であり、他の者達とは違う何かがあったのかもしれない』記録にはそう記載されていた。


「まさか……な」


 俺の考えすぎだと思いたい。だが、もしも仮に、彼女が全ての元凶だとするならば、俺はどうすれば良いのだろうか。

 彼女を斬れるかと言われれば、正直、必要があればせざるを得ないだろう。


 俺は決意を固めると、ダンジョンコアへと歩み寄る。

 そして、手に持っていた本を異空間収納に入れ、静かに語りかけた。


「すまない」


 そう言い残し、俺はダンジョンコアを破壊する為、破壊神の力を一部取り出す。


「……させない!」

「うぉっ!!?」


 突然、俺の視界を塞ぐように、大量の水が噴き出す。

 間一髪で避けたが、もう少し反応が遅れていれば直撃していたところだ。

 見ると、ダンジョンコアを守るようにして、黒い靄が浮いている。

 恐らく、あれが本体なのだろうと推測できた。


「邪魔をするなよ……」


 俺が呆れ顔で言うと、靄は怒ったような口調で言葉を返す。


「私の同胞を、これ以上殺さないで」


 その言葉を聞いて、俺は一瞬言葉を失う。……同胞? どういう事だ?


「……お前も、ダンジョンコアに取り込まれた犠牲者の一人って事か?」


 俺の言葉に、彼女は小さく否定したように見えた。


「……私はダンジョンコアと同化した存在、この永遠に続く夜の女王にして、悪霊達を統べる者。……貴方に私を殺す権利はない」

「別に君を殺すつもりなんか無いさ。ただ、ダンジョン化を停止したいだけだ。出来るなら実験対象の君達を開放したいとも考えてる」


 彼女はその言葉を聞いて、少しだけ動揺する素振りを見せた。

 確かに、リリスはダンジョンコアを用いた実験の被害者なのかもしれない。

 だが、だからと言って、俺はこのまま放置する事はできない。

 ダンジョンコアを破壊か回収しなければ、いずれまた、別の犠牲者が出る事になるからだ。

 俺が無言のまま、刀を構え直すと、彼女は続けて言った。


「……どうしてもコアを破壊すると言うのなら、まずは私を倒してからにしなさい」


 直後、彼女の身体から無数の触手のようなものが伸びてくる。

 それはまるで、獲物を狙う蛇のように、俺に襲い掛かってきた。


「くそッ、なんつー速さだよ」


 何とか攻撃を回避し続けるが、あまりの素早さに反撃する余裕が無い。

 それにしても……何て厄介な相手なんだ。……仕方ない、ちょっと卑怯だけど、やらせて貰うか。

 俺は異空間収納を発動すると、その中にあったとあるアイテムを取り出し、彼女に投げた。


「……これは?」


 突然、投げ渡された球体に戸惑っているのか、攻撃を止めた彼女を見て、俺は口を開く。


「そのロザリオに見覚え有るだろう?」


 本当は、こんな事をするつもりは無かったのだが、流石にこの状況では致し方ないだろう。

 俺はそう自分に言い聞かせる。


「……えぇ、知っている。私の物だもの……でも、どうしてこれを貴方が?」

「貴女の残滓が残したものだろう? 大事なものを奪う者を、自身すらコアの実験台にされた怨みが募っていたんだろうね、『許さない』『殺す』と言っていたのは紛れもない貴女の声だったし」

「……」


 俺がそこまで言うと、彼女は黙り込んでしまった。


「さあ、それを握って祈るんだ。もう一つの願いを……」


 俺に促され、彼女はゆっくりとロザリオに手を掛ける。

 そして、祈った。自分の本当の望みを……。

 すると、不思議な事に、今まで無かった筈のロザリオから光が溢れ出し、辺りを照らした。


「これで……良いの……?」


 彼女は不安そうな声で俺に尋ねる。

 俺は無言のまま、首を縦に振った。


「分かった。貴方を信じてみる……もう、一人で居るのは嫌!! 人としての死を望めない今、人で無くなった同胞と過ごす永遠何て、もう要らない!!」


 彼女の叫びと共に、辺りを照らす光は一層強くなる。

 俺は思わず目を瞑ってしまったが、暫くして目を開けると、そこには見慣れない少女の姿があった。

 年齢は16歳ぐらいだろうか? 背丈は目算だが、160cm程度だろう。

 腰まで伸びた銀髪と褐色肌が特徴の少女だ。瞳の色は青く輝いている。

 一見、人族に見えるが、耳が長いので、エルフである可能性が高いかもしれない。

 だが、それよりも特徴的なのが、その頭頂部から伸びる2本の角だ。

 羊の角のようにも見えるが、もっと禍々しい印象を受けるので、悪魔のそれかもしれない。

 見た目的には、とても美しい女性なのだが、纏う雰囲気には妖艶さが感じられた。


「貴方は……一体……それに、この姿は?」

「その姿は貴女の心を反映した物だから、あえて言わせてもらうとすれば、仮初めの身体って事かな? 後は、俺の能力でコアの権限を簒奪したから、貴女はダンジョンコアの力を扱えなくなった。ただ、貴女の魂はコアにあるから、コアとの同化は出来るよ。それと、このダンジョンコアは俺の物として扱える様にしたから、貴女の同胞を人の姿に戻すことも出来る筈だよ」


 彼女は戸惑うように、俺の事を見つめている。

 恐らく、俺が何故こんな事が出来るのか理解出来ていないのだろうが、やったことは反則技だと思う。


 破壊神の力の1つ【収奪】を使って、コアの実権の簒奪を行い、契約者の切り替えで消えるリリスの魂を、ロザリオで半ば強制的に契約を結ばせた。

 破壊神の加護を持つ者にしか出来ない荒業だが、今回はこれを使わざるを得なかった。


「ありがとう……本当に……感謝するわ」


 リリスの言葉を聞いて、俺は胸を撫で下ろす。

 上手く行ったようだ。後は彼女達に頑張って貰おう。

 俺が出来る事と言えば、コアに囚われた同胞達を解放することくらいだ。


「……少しだけ時間を頂戴。私の力で出来るか分からないけど、試してみたい事があるの」


 そう言って、リリスは意識を集中させ始めた。

 俺は黙ってその様子を見守っていたが、暫くすると彼女の身体が薄くなっていく。

 やがて完全に見えなくなると、俺の脳内に彼女の声が響いた。


『聞こえるかしら?』


 その言葉に、俺は小さく首肯する。


『良かった……これで話せるようになったわね。これで、あの子達の解放も上手く行くはずよ。でも、この場所じゃ狭過ぎるから、何処か広い場所に移動してからのほうが良いわ』

「分かった。じゃあ、とりあえず地上に戻ろう」


 俺はコアのある部屋を出ると、そのまま外に出る事にした。

 彼女は大人しく付いて来てくれているが、コアの主が俺に変更された事で、リリスが創り出した都市型のダンジョンが崩れ始めた様だ。


(……時間との勝負になるな)

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